米民主党議員がトランプ政権を批判、ベネズエラ攻撃は違法
はじめに
2026年1月3日、トランプ米大統領がベネズエラへの軍事攻撃を実施し、マドゥロ大統領を拘束したことに対し、米議会の民主党議員が一斉に反発しています。「トランプ政権は嘘をついた」「この戦争は違法だ」など、厳しい批判が相次いでいます。
特に問題視されているのは、議会への事前通知なしに軍事行動が実施されたことです。民主党議員らは「政権交代や軍事行動を追求していない」と事前のブリーフィングで保証されていたと主張し、「欺かれた」と非難しています。
本記事では、米国内における政治的対立の実態と、戦争権限をめぐる法的議論について解説します。
民主党議員からの厳しい批判
シューマー上院院内総務の反発
上院民主党トップのシューマー院内総務は、トランプ政権の行動を厳しく批判しました。シューマー氏によると、政権は事前の機密ブリーフィングで3回にわたり「ベネズエラでの政権交代や軍事行動を追求していない」と保証していたといいます。
シューマー氏は記者との電話会見で「政権はこうしたことを追求していないと確約した。明らかに彼らは米国民に誠実ではない」と述べ、「議会の承認なく軍事行動を起こし、今後の計画もないまま進めるのは無謀だ」と指摘しました。
「違法な戦争」との批判
民主党のガエゴ上院議員は、自身のX(旧ツイッター)で「この戦争は違法だ」と投稿。「1年足らずの間に米国が世界の警察官から乱暴者に変わってしまったのは恥ずべきことだ」と批判しました。
クラーク下院議員は「この侵略行為は違憲で、非米国的であり、民主主義への直接的脅威だ」と厳しい論調で非難。一部の議員からは、2003年のイラク戦争を念頭に「人生で2度目の正当化できない戦争だ」との声も上がっています。
台湾への影響を懸念する声
ワーナー上院議員は、今回の軍事行動がもたらす国際的な影響について警鐘を鳴らしています。「米国が外国指導者を軍事力を用いて拘束する権利を主張するなら、中国が台湾の指導部に同様の権限を主張することを阻止できるのか」と述べ、中国による台湾侵攻を助長する恐れがあるとの懸念を示しました。
戦争権限と議会承認をめぐる問題
事前に示されていた「議会承認必要」の見解
注目すべきは、トランプ政権自身が2025年11月時点で、ベネズエラでの地上攻撃には議会承認が必要との見解を示していたことです。ホワイトハウスのワイルズ大統領首席補佐官は米誌バニティ・フェアの取材に対し、「地上での何らかの行動を許可すればそれは戦争であり、連邦議会が必要になる」と語っていました。
しかし、そのわずか2カ月後に、政権は議会の承認を得ることなく大規模な軍事作戦を実施。民主党議員からは「当初不可能だと示唆していたことを覆した」との批判が出ています。
下院議員からの追及
民主党のモールトン下院議員は「マドゥロ大統領を拘束するための適切な権限がなく、米国人に対する差し迫った脅威も存在しなかった」として厳しく非難。「議会はこの戦争を承認していない」と批判しました。
シュルツ下院議員は「なぜ議会と米国民がこの作戦から排除されたのか、その理由を追及する。事前に議会が関与しなかったことは、非合法なベネズエラ政権が継続する危険性をはらんでいる」と述べ、今後の調査を示唆しています。
ビンドマン下院議員は「トランプ大統領は、議会の承認なしに、そして憲法に違反して、ベネズエラで戦争を始めた」と指摘しました。
トランプ政権の主張と法的論点
政権側の正当化根拠
トランプ政権は今回の軍事行動を「戦争」ではなく「法執行措置」と位置づけています。米司法省がマドゥロ大統領を麻薬取引関連で起訴しており、政権は「起訴された逃亡犯の拘束」という論理を展開しています。
また、トランプ大統領は記者会見で、ベネズエラの石油事業に「米国企業が強く関与することになる」と述べ、石油利権の確保も軍事行動の背景にあることを示唆しています。
3つの法秩序への挑戦
しかし、法律専門家からは、今回の軍事攻撃が3つの法秩序を揺るがしているとの指摘があります。
第一に、主権の尊重。他国の元首を軍事力で拘束することは、国家主権を侵害する行為と見なされます。第二に、米国憲法上の議会による戦争承認権限。大統領が議会の承認なく軍事行動を実施したことの合憲性が問われています。第三に、第二次世界大戦後に構築された国際法秩序。武力行使の禁止を定めた国連憲章への違反が指摘されています。
国際社会と国内の反応
国際社会からの懸念
国連のグテレス事務総長は安保理緊急会合で「国際法の規則が尊重されなかった」と懸念を表明。ロシア外務省は「国際法による独立国家の主権の侵害」と非難しました。同盟国の英国でさえ、スターマー首相が「国際法は常に遵守されなければならない」と慎重な姿勢を示しています。
共和党内からも批判
民主党だけでなく、与党共和党の一部からも批判の声が上がっています。保守派の中にも、大統領の権限濫用や議会軽視に懸念を示す議員がおり、今後の議会審議に影響を与える可能性があります。
今後の展開と注目点
議会での調査・追及
今後、議会では今回の軍事行動の合法性や、政権による事前説明の内容について調査が行われる可能性があります。民主党は少数派ですが、公聴会などを通じて政権の責任を追及する姿勢を示しています。
ベネズエラ情勢の行方
マドゥロ大統領の拘束後、ベネズエラではロドリゲス副大統領が暫定大統領に就任しましたが、トランプ氏の「再攻撃」警告を受けて「米国と協力する」姿勢に転換したと報じられています。今後、親米政権への移行が進むのか、それとも新たな混乱が生じるのかが注目されます。
国際秩序への影響
「力による解決」を米国自身が実践したことで、国際秩序への影響は避けられません。中国やロシアが同様の論理で軍事行動を正当化するリスクが高まっており、台湾海峡やウクライナ情勢への波及も懸念されています。
まとめ
トランプ政権によるベネズエラ軍事攻撃に対し、米国内では民主党議員を中心に厳しい批判が相次いでいます。「政権は嘘をついた」「この戦争は違法」という声に加え、議会承認なしの軍事行動は憲法違反との指摘も出ています。
政権は「法執行措置」と主張していますが、主権侵害、議会の戦争権限、国際法という3つの法秩序への挑戦と見なす声が多数です。今後は議会での追及や国際社会の反応、ベネズエラ情勢の推移が焦点となります。
米国が「世界の警察官」から「乱暴者」へ変わったとの批判は、国際秩序の転換点を象徴しています。この事態がもたらす長期的な影響を、注視していく必要があります。
参考資料:
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