米当局がレートチェック実施か、円急騰で1ドル155円台に
はじめに
2026年1月23日、外国為替市場で異例の出来事が起きました。ニューヨーク連邦準備銀行が為替介入の準備段階にあたる「レートチェック」を実施したとの情報が流れ、円相場は1ドル158円台から155円台へと急騰したのです。
米国の金融当局が円安のけん制に動くのは極めて異例です。市場では、日本発の金利上昇が米国債利回りの上昇につながる事態を警戒し、日米が協調して対応したとの見方が浮上しています。
本記事では、レートチェックの意味と、その背景にある日米金融市場の連動について解説します。
レートチェックとは何か
為替介入の準備段階
レートチェックとは、中央銀行が主要な金融機関に対して、参考となる為替レートの提示を求める行為です。これは単なる情報収集ではなく、「これ以上の急激な為替変動は容認できない。いざとなれば実弾(為替介入)を投入する準備がある」という、市場に対する最強レベルの牽制を意味します。
通常、レートチェックは実際の為替介入の前段階として行われます。金融当局が市場の動向を注視していることを示すことで、投機的な動きを抑制する効果があります。
米国による円安けん制の異例
今回注目すべきは、レートチェックを行ったのがニューヨーク連邦準備銀行だったという点です。通常、日本の為替介入は日本銀行と財務省が主導し、ニューヨーク連銀は日本当局の依頼を受けて代行執行する立場にあります。
しかし今回は、米国当局が主体的に円安けん制に動いたと受け止められました。バノックバーン・グローバル・フォレックスのマーク・チャンドラー氏は、「FRBが金融機関に相場水準を照会するレートチェックを行った」との情報を得たと述べています。
1月23日〜24日の為替市場
円相場の急騰
1月23日、ニューヨーク外国為替市場では劇的な動きが見られました。朝方は1ドル158円台前半で推移していた円相場は、昼ごろから急速に円買い・ドル売りが進行し、一時155円60銭まで急伸しました。
午後5時時点では155円68〜78銭と、前日同時刻比で2円69銭の大幅な円高・ドル安となりました。約1か月ぶりの高値水準です。わずか数時間で3円以上も動く急激な変動は、市場参加者に大きな衝撃を与えました。
日本当局の反応
日本側も同様の動きを見せていたとの観測があります。日銀の金融政策決定会合後の記者会見で、植田和男総裁が追加利上げ時期に関する具体的な発言をしなかったことから、東京市場では一時159円台前半まで円安が進行しました。
しかし、会見終了直後に円相場は突然上昇に転じ、157円台前半まで急騰しました。この動きは、日本当局が何らかの牽制を行った可能性を示唆しています。
片山財務相はレートチェックの有無について回答を避け、三村財務官も「答えるつもりはない」としました。当局が介入の有無を明かさないのは通例ですが、この沈黙自体が市場への牽制として機能しています。
日本発の金利上昇への警戒
27年ぶりの長期金利水準
米国当局が円安けん制に動いた背景には、日本の長期金利上昇への懸念があると見られています。
2026年1月5日、日本の長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時2.125%に上昇しました。これは1999年2月以来、約27年ぶりの高水準です。円安を背景に日銀の利上げペースが速まるとの観測から、債券売り(金利上昇)が広がっています。
円と国債売りの連鎖リスク
市場では、「円売り→円安→日銀利上げ観測→日本国債売り→金利上昇」という連鎖が、米国債市場にも波及することへの懸念が高まっていました。
日本の投資家は世界最大の対外債権国として、米国債を大量に保有しています。日本の金利が上昇すれば、円建て資産の魅力が相対的に高まり、日本の投資家が米国債を売却して資金を国内に還流させる動きが加速する可能性があります。
これが米国債利回りの上昇を招けば、米国の住宅ローン金利や企業の借入コストが上昇し、経済に悪影響を及ぼします。米国当局がこうした連鎖を断つために、日米協調で円安けん制に動いたとの分析が出ています。
2026年の日米金融政策の行方
日銀の利上げ見通し
日銀は2026年も利上げを継続する見通しです。野村證券の分析では、2026年10月に政策金利を1.0%に引き上げると予想されています。高めの賃上げ実現が確認できれば、過度な円安やビハインド・ザ・カーブ(政策対応の遅れ)に陥るリスクを抑制するために利上げに踏み切るとみられています。
FRBの利下げ見通し
一方、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は2026年に利下げを行うと予想されています。コンセンサスでは年間0.5%の利下げが見込まれていますが、次期FRB議長が緩和的に動けば、計3回の利下げが行われる可能性もあります。
日銀が利上げ、FRBが利下げという方向性の違いは、日米金利差の縮小を意味します。野村證券は2026年末のドル円レートを140円と予想しており、円高方向への転換を見込んでいます。
注意点・今後の展望
実弾介入ではなくレートチェック
今回の円急騰は、実際の為替介入(実弾介入)ではなく、レートチェックによる牽制効果だった可能性が高いとされています。過去の実弾介入では3〜5円程度の変動が生じることが多いですが、今回の変動幅はそれに近いものでした。
しかし、159円台では実弾介入への警戒が必要との分析もあります。当局が「この水準は容認できない」というシグナルを送った以上、再び159円台に接近すれば、より強力な対応が取られる可能性があります。
財政懸念と「悪い金利上昇」
注意すべきは、日本の金利上昇の要因です。金利上昇が日銀の利上げ期待によるものであれば「良い金利上昇」ですが、財政悪化懸念によるものであれば「悪い金利上昇」と解釈されます。
高市政権の積極財政路線は株式市場には好感されていますが、国債市場では売り(金利上昇)を招いています。「財政拡張的で金融引き締めに消極的」というイメージが投資家の間で根強く残れば、為替市場では円安リスクが高まります。
為替見通しのリスク
メインシナリオでは日米金利差縮小による円高が予想されていますが、リスクバランスとしては円安リスクの方が高いとの見方もあります。日本の財政悪化懸念に市場の関心が向かえば、金利差が縮小しても円高へ一本調子に戻すのは難しいかもしれません。
まとめ
ニューヨーク連銀によるレートチェック実施の観測を受けて、円相場は1ドル155円台まで急騰しました。米国当局が円安けん制に動いた背景には、日本発の金利上昇が米国債市場に波及することへの懸念があると見られています。
2026年は日銀が利上げ、FRBが利下げという方向性の違いから、日米金利差の縮小が進む見通しです。しかし、日本の財政悪化懸念がくすぶる中、為替の行方は予断を許しません。市場参加者は、日米両国の金融政策と財政政策の動向を注視する必要があります。
参考資料:
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