円急騰10分間で2円、159円台から157円台へ介入臆測が浮上
はじめに
2026年1月23日の外国為替市場で、円相場が異例の乱高下を見せました。日銀の植田和男総裁の記者会見後、1ドル=159円台前半まで下落していた円相場が、わずか10分間で約2円急騰し、157円台に突入しました。
この急激な変動を受け、市場では政府・日銀が円安抑止に動いたとの臆測が浮上しています。「レートチェック(介入の事前確認)」が実施された可能性も指摘されています。
本記事では、円急騰の背景と為替介入の仕組み、今後の為替相場の見通しを解説します。
1月23日の円相場急騰の経緯
日銀金融政策決定会合の結果
日銀は1月23日の金融政策決定会合で、政策金利を0.75%程度に据え置くことを決定しました。市場予想通りの結果であり、賛成8票、反対1票(高田委員が反対)という内訳でした。
展望レポートでは2026年度のインフレ見通しを小幅に上方修正しましたが、追加利上げについて植田総裁は積極的な姿勢を示しませんでした。この「ハト派的」と受け止められた発言を受けて、日米金利差が想定より縮小しないとの思惑から円売りが拡大しました。
記者会見後の急変動
植田総裁の記者会見が終了した午後4時半以降、円相場は急変動しました。
- 午後4時33分:1ドル=159.23円
- 午後4時44分:1ドル=157.37円
わずか11分間で1.86円、率にして約1.2%の円高が進行しました。その後、円相場は158円前後まで戻りましたが、瞬間的な変動の大きさは異例でした。
介入臆測の浮上
円高の勢いが瞬間的だったことから、市場では政府・日銀による為替介入への警戒が引き起こした動きとの見方が広がりました。
ブルームバーグは、米当局が「レートチェック」(介入の事前確認)を実施したと報じています。レートチェックとは、通貨当局が介入に先立って市場参加者に為替レートを確認する行為であり、実弾介入の前兆とされます。
為替介入の仕組み
円買い・ドル売り介入とは
為替介入(正式名称:外国為替平衡操作)とは、急激な為替変動を抑え、相場の安定化を図るために通貨当局が外国為替の売買を行うことです。
日本では、為替介入は財務大臣の権限で実施が決定されます。日本銀行は財務大臣の代理人として、その指示に基づいて介入の実務を遂行します。
急激な円安に対応する「ドル売り・円買い介入」の場合、財務省所管の外国為替資金特別会計(外為特会)が保有するドル資金を売却し、円を買い入れます。保有資産の多くは米国債であるため、必要に応じて市場で売却し現金化してから介入に充てます。
介入の効果と限界
為替介入には一定の効果がありますが、限界もあります。
効果として認められる点:
- 為替相場の一方的な進行を食い止める
- 投機筋の円売りポジションを縮小させる
- 「政府・日銀が動いた」という心理的効果
限界として指摘される点:
- 為替のトレンドを決めるのはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)
- 介入できる規模や回数には制限がある
- 日本単独の介入では効果が長続きしにくい
過去の円買い介入では、介入直後にドル円相場は4〜8%程度下落しましたが、その後反発し、1〜2カ月後には高値を更新するケースが多いとされています。ただし、介入によって円安の進行ペースを鈍化させ、「ドル安圧力が高まるまでの時間を稼いだ」という評価は可能です。
過去の為替介入事例
2024年4〜5月の大規模介入
直近の大規模介入は2024年4〜5月に実施されました。日米金利差を背景に円安が一段と進み、1ドル=160円台と34年ぶりの円安水準に達したことを受けて、政府・日銀は総額約9.7兆円という過去最大規模の介入を実施しました。
この介入により、円相場は一時的に151円台まで上昇しましたが、その後再び円安方向に動き、効果は限定的との評価もあります。
2022年9〜10月の介入
2022年も急激な円安・ドル高が進行し、1ドル=150円台の歴史的な円安水準に達しました。政府・日銀は9月から10月にかけて断続的に介入を行い、総額約9.1兆円規模の円買い介入を実施しました。これは24年ぶりとなる「ドル売り・円買い介入」でした。
2011年の円売り介入
逆に、円高が進行した際には「円売り・ドル買い介入」が行われます。2011年は東日本大震災後の混乱の中で円高が加速し、1ドル=75円台という歴史的な円高水準を記録しました。政府・日銀は10〜11月にかけて約9.1兆円規模の円売り介入を実施しました。
円安の背景と今後の見通し
日米金利差の構造
足元の円安の主因は、日米の金利差です。米国が高金利を維持する一方、日本は低金利政策を続けてきました。金利の高い通貨(ドル)が買われ、低い通貨(円)が売られる構図です。
日銀は2024年以降、政策金利を段階的に引き上げてきましたが、米国との金利差は依然として大きく、円売り圧力は続いています。
植田総裁の発言
植田総裁は記者会見で、円安への警戒をにじませました。企業が賃上げや値上げに積極的になっている点に触れ、「円安による輸入物価の上昇が国内価格に転嫁される度合いが大きくなっている可能性について注意したい」と発言しています。
この発言は、物価上昇が継続すれば追加利上げの可能性もあることを示唆するものですが、市場の期待ほど「タカ派的」ではなかったと受け止められました。
衆院選の影響
2月8日投開票の衆院選で、各党が消費税減税を掲げていることも円安要因として意識されています。減税は財政赤字を拡大させ、財政規律への懸念から通貨安を招く可能性があるためです。
約27年ぶりの水準に上昇した長期金利(国債利回り)も、日本経済への不安を反映しているとの見方があります。
今後の介入警戒ライン
市場では、1ドル=160円を超えると実弾介入への警戒が一段と高まるとみられています。今回の急変動は159円台で発生しており、当局が「160円ライン」を意識している可能性が指摘されています。
ただし、介入はあくまで「急激な変動の抑制」が目的であり、特定の為替水準を守ることを目的とするものではありません。財務省は「投機による過度な変動は容認できない」とのスタンスを示しています。
投資家が注意すべきポイント
ボラティリティの高まり
為替介入への警戒が続く中、円相場のボラティリティ(変動幅)は高止まりする可能性があります。FX取引や外貨建て資産を保有する投資家は、急激な変動への備えが必要です。
介入の予兆を読む
レートチェックの報道や、財務省・日銀幹部の発言には注意が必要です。「断固たる措置を取る」「投機的な動きには対応する」といった発言が出れば、介入が近いサインとなります。
中長期のファンダメンタルズを重視
介入は一時的な効果にとどまることが多いため、中長期の投資判断にはファンダメンタルズ(日米の金融政策、経済成長率、インフレ率など)を重視すべきです。
まとめ
2026年1月23日の円急騰は、政府・日銀の為替介入への警戒が引き起こした動きとみられています。159円台から157円台へ、10分間で約2円という急変動は、市場の介入警戒心の強さを示しています。
為替介入には円安進行を一時的に抑制する効果がありますが、トレンドを転換させることは難しいとされます。今後も日米金利差を背景とした円安圧力は続く可能性があり、当局の動向と為替水準には注意が必要です。
投資家は、ボラティリティの高まりに備えつつ、中長期のファンダメンタルズを見極めた判断が求められます。
参考資料:
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