消費税減税、与野党が異例の「争点回避」状態に
はじめに
高市早苗首相は、2月8日投開票の衆院選で食料品を2年間消費税の対象から外す考えを表明しました。これを受けて与野党はほとんどが消費税減税を掲げて選挙を戦う構図となっています。
消費税の増減税は、これまで選挙戦の争点となりやすい「鬼門」でした。しかし今回は、与野党間で差別化が難しく、財源論は不透明なままという異例の状況です。
本記事では、消費税減税をめぐる与野党の動きと、社会保障財源としての消費税の役割、財源問題について解説します。
高市首相の「食料品消費税ゼロ」表明
首相の強い意向
高市早苗首相は1月19日の記者会見で、2年間に限り食料品を消費税の対象としない考えを示しました。「私自身の悲願だ」と述べ、実現への強い意欲を表明しています。
首相は「これは自民党と日本維新の会の連立政権合意書に書いた政策であり、私自身の悲願でもあった。自民党の中でもいろいろ意見が分かれていたが、改めて自民党の選挙公約にも掲げることになった」と説明しました。
自民・維新の連立合意
自民党と日本維新の会が2025年10月に交わした連立政権樹立の合意書には「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されています。
自民党の鈴木俊一幹事長は1月18日、時限的な「食料品の消費税率ゼロ」を衆院選の公約に盛り込むことに前向きな姿勢を示し、「連立合意に書かれたことを誠実に実現するのが基本的な立場だ」と述べました。
自民党公約への明記
自民党は1月21日に発表した衆院選公約で、「責任ある積極財政」を通じ投資と成長の好循環を生み出すと明記しました。飲食料品を2年限定で消費税の対象外とすることについて、社会保障と税の一体改革を議論する「国民会議」で財源やスケジュールの検討を加速するとしています。
野党も減税を主張
中道改革連合の対応
立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」も消費税減税を主張しています。安住淳幹事長は「消費税の減税を、目に見える形の物価高対策として示したい」と表明しました。
2025年の参院選では、立憲民主党の野田佳彦代表が公約で食料品の消費税率を2026年4月から原則1年間ゼロにする案を盛り込んでいました。
各党の減税主張
主な野党の立場:
- 国民民主党:恒久的な5%への引き下げを主張
- 日本維新の会:時限的に食品の消費税撤廃を提案(自民党との連立合意)
- 参政党:消費税廃止を要求
- れいわ新選組:消費税廃止を要求
- 共産党:消費税廃止を要求
- 日本保守党:「大胆な減税」を主張
このように、与野党を問わず消費税の減税・廃止を掲げる政党が大勢を占めています。
消費税は選挙の「鬼門」
増税を掲げて敗れた歴代政権
消費税は長らく選挙の「鬼門」とされてきました。増税を掲げた政権が選挙で敗れるケースが多かったためです。
消費税は1989年4月、竹下内閣で税率3%として導入されました。しかし、竹下内閣はリクルート事件で退陣し、引き継いだ宇野宗佑首相は1989年参院選で敗北。橋本龍太郎首相も1997年に5%への引き上げを行った翌年の1998年参院選に敗れ、いずれも引責辞任に追い込まれました。
民主党政権でも消費税は争点となりました。菅直人首相は2010年の参院選で唐突に消費税引き上げの検討を表明し、世論の反発を買って民主党は大敗しました。
安倍政権の「延期」戦略
一方、安倍晋三首相は消費税への対応で成功を収めました。10%への引き上げの延期を掲げた2014年12月の衆院選や、10%への引き上げに伴う増税分の使途見直しなどを訴えた2017年10月の衆院選で、いずれも勝利しています。
今回の衆院選では、与野党がこぞって減税を掲げることで、消費税が「争点」にならないという異例の状況が生まれています。
消費税と社会保障財源
法律で定められた使途
消費税は2019年10月に10%に引き上げられました。2025年度一般会計当初予算で消費税の税収は24.9兆円に上り、税収全体の約3割を占めています。
消費税法には、収入については「制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」という定めがあります。消費税は社会保障の安定財源として法的に位置づけられているのです。
高齢化と社会保障費の増大
高齢化の進展により、社会保障費は年々増加しています。高額療養費制度は最後のセーフティネットとして機能していますが、その費用は急激なスピードで伸びています。
消費税を減税または廃止した場合、その穴を埋める財源をどうするかが最大の課題となります。
財源問題の不透明さ
年5兆円の税収減
食料品の消費税を2年間ゼロにすると、年間約5兆円の税収減になるとされています。2年間では10兆円規模の財源が必要です。
高市首相は財源について「特例公債に頼ることなく、補助金や租税特別措置、税外収入などの歳出・歳入全般の見直しが考えられる」と述べるにとどめています。
「実現しない」との見方も
自民党が食料品の消費税を2年間ゼロにすることについて「検討を加速する」と踏み込んだのは、高市首相の強い意向がありました。しかし、財源のめどがついていないため、政府・自民党内には「実現できない」との見方が早くも広がっています。
政府高官も「やると決まったわけではない」と語っており、公約と実現可能性の間にはギャップがあることがうかがえます。
経済効果への疑問
野村総合研究所の木内登英氏の分析によれば、食料品の消費税を2年間ゼロにする場合、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.22%と大きくないとされています。
また、財政悪化懸念から円安・債券安のリスクも指摘されており、「責任ある積極財政」の形骸化が進むとの見方もあります。
注意点・展望
各党の財源論の曖昧さ
今回の衆院選では、与野党ともに消費税減税を掲げていますが、財源論は総じて曖昧な状態です。
立憲民主党の野田代表は2025年参院選で「財源は2年間で10兆円だが、政府の基金を取り崩し、赤字国債には頼らない。社会保障に穴をあけることはない」と主張していました。しかし、基金の取り崩しだけで10兆円規模の財源を確保できるかどうかは不透明です。
選挙後の政策実現可能性
減税を公約に掲げても、選挙後に財源問題から実現が難しくなる可能性があります。過去にも、選挙公約と実際の政策にギャップが生じた例は少なくありません。
有権者としては、各党の減税主張だけでなく、その財源をどう確保するのか、社会保障制度への影響はどうなるのかも含めて判断することが重要です。
金利上昇と財政への影響
長期金利が27年ぶりの高水準に達している中、消費税減税による税収減は財政をさらに圧迫する可能性があります。市場の信認が低下すれば、さらなる金利上昇を招くリスクもあります。
まとめ
高市首相が食料品の消費税2年間ゼロを表明し、与野党がこぞって減税を掲げる異例の衆院選となっています。これまで選挙の「鬼門」とされてきた消費税ですが、今回は与野党間で差別化が難しい状況です。
しかし、財源論は不透明なままであり、年5兆円とされる税収減をどう補填するのかは明確になっていません。社会保障の安定財源としての消費税の役割を踏まえ、各党の主張を冷静に評価することが求められます。
参考資料:
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