与野党が減税競争、市場の財政警告は置き去りに
はじめに
2026年1月26日、日本記者クラブ主催の党首討論会が開催され、2月8日投開票の衆院選に向けて与野党7党の党首らが激論を交わしました。討論では消費税減税の是非や財源問題が主要な論点となりましたが、足元で急上昇している長期金利という「市場からの警鐘」への言及は限定的でした。
10年国債利回りが27年ぶりの高水準を記録し、超長期国債も過去最高水準に達する中、与野党がこぞって減税を訴える構図に、市場関係者からは懸念の声が上がっています。本記事では、党首討論の内容と市場動向を踏まえ、日本財政の現状と課題を解説します。
与野党が競う減税政策
高市首相の「責任ある積極財政」
高市早苗首相(自民党総裁)は党首討論で「責任ある積極財政への大転換」を訴えました。「日本列島を強く豊かにするために必要なことだ」と述べ、危機管理投資と成長投資を柱に掲げています。
消費税については、食料品を対象に2年間限定での税率ゼロを打ち出し、実施時期について「内閣総理大臣としての希望は、できたら年度内を目指していきたい」と踏み込みました。財源については超党派の「国民会議」で検討するとしています。
中道改革連合の野田代表
立憲民主党と公明党が結成した「中道改革連合」の野田佳彦共同代表は、消費税減税について今秋からの開始を主張しています。与党案との違いは実施時期にありますが、減税という方向性では一致しています。
国民民主党の実績アピール
国民民主党は「対決より解決の姿勢」で成果を上げたことを強調しています。50年間動かなかったガソリンの暫定税率廃止や、30年間変わらなかった103万円の「年収の壁」を178万円まで引き上げるなど、合計3.5兆円の減税を実現したと訴えています。
さらに今後の政策として、所得税・住民税の控除拡大、年少扶養控除の復活、再エネ賦課金の停止による電気代の年間約2万円引き下げなどを掲げています。
共産党の財源論
共産党の田村智子委員長は、消費税減税の財源について「大企業や大株主にきちんと課税」することを主張しました。減税の方向性は同じでも、財源の捻出方法については各党で大きく異なっています。
市場が発する警告サイン
長期金利が27年ぶりの高水準に
党首討論が行われた前週、日本の金融市場では重大な動きがありました。1月19日、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが一時2.275%まで上昇し、1999年2月以来27年ぶりの高水準を記録しました。
さらに深刻なのは超長期国債の動向です。30年国債利回りは1月19日・20日の2日間で0.39%も上昇し、1999年の発行開始以来最高水準となる3.87%に達しました。40年国債も4%台に突入しています。
金利上昇の背景
金利上昇の要因は複合的です。まず、日銀が利上げや国債買入れの減額といった金融政策の正常化を進めていることが挙げられます。しかし、それ以上に大きいのが財政拡張に対する警戒感の高まりです。
2月8日投開票の衆院選に向け、与野党各党が消費税減税を訴えており、「選挙結果にかかわらず財政支出が拡大する」との見方が強まっています。高市政権の積極財政志向と相まって、政策金利と長期金利のスプレッドが異常なほど拡大しています。
超長期国債の買い手不足
さらに懸念されるのが、超長期国債の買い手不足です。12月の利付国債売買動向を見ると、超長期国債の主な買い手は海外投資家と信託銀行などに限られています。
従来の大口購入者であった生損保は、新しい健全性規制への対応を踏まえ、12月に超長期国債を売り越しました。購入意欲は乏しい状況が続いており、需給の悪化が金利上昇圧力となっています。
財源論の不在
「バラマキ」批判への懸念
各党が掲げる経済政策には、物価高対策として給付や減税のメニューが競うように並んでいます。しかし、「財源確保の具体策にはほとんど言及しておらず、有権者におもねる『バラマキ』と見透かされかねない」という指摘があります。
自民党は食料品の消費税減税について「特例公債(赤字国債)に頼らず財源確保する」としていますが、具体的な財源は「国民会議」での検討に委ねられています。
過去最大122兆円の予算
2026年度予算は過去最大となる122兆円規模に膨らんでいます。この巨額予算の持続可能性については、専門家から疑問の声が上がっています。
イギリスでは2022年、トラス政権が大規模減税計画を発表した際、市場の信認を失い国債が暴落する「トラスショック」が発生しました。市場との対話を軽視した財政拡張の末路として、日本にとっても教訓となる事例です。
政府の対応
大幅な金利上昇を受け、片山財務大臣は1月20日のインタビューで「市場を安定させるためのことはやってきているし、これからもやることは必ず約束できる」と述べました。しかし、具体的な施策については明らかにしていません。
注意点・展望
「悪い金利上昇」の見分け方
金利上昇には「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があります。経済成長や物価上昇に伴う金利上昇は健全ですが、財政への信認低下による金利上昇は危険信号です。
現在の日本では、利上げ局面にもかかわらず政策金利と長期金利のスプレッドが急拡大しています。これは通常の金融引き締め局面では見られない現象であり、財政リスクプレミアムが上乗せされている可能性を示唆しています。
選挙後の展開
2月8日の投開票後、どのような政権が誕生しても、財政拡張路線が維持される可能性が高いとみられています。市場はすでにそれを織り込み始めており、金利上昇圧力は当面続く可能性があります。
住宅ローン金利への影響も懸念されます。固定金利は長期金利に連動するため、すでに上昇傾向にあります。変動金利も日銀の追加利上げ観測から上昇が見込まれており、家計への影響は無視できません。
まとめ
2026年衆院選を前に、与野党が消費税減税を競い合う構図が鮮明になっています。高市首相は食料品の2年間限定での税率ゼロを、野党各党もそれぞれの減税策を訴えています。
一方で、長期金利は27年ぶりの高水準に達し、超長期国債も過去最高水準を記録しています。市場は財政膨張に対する警鐘を鳴らしていますが、党首討論では財源論が深まらず、「市場の警告」は置き去りにされた印象です。
選挙後の政権がどのように財政運営と市場との対話を進めるか、注視が必要です。
参考資料:
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