消費減税で与野党横並び、年5兆円の財源確保に見えぬ道筋
はじめに
2026年2月8日投開票の衆議院選挙を前に、与野党がこぞって消費税減税を公約に掲げる異例の事態が生じています。自民党・日本維新の会の与党連合は「2年間の時限的な食料品消費税ゼロ」を、立憲民主党・公明党の新党「中道改革連合」は「恒久的な食料品消費税ゼロ」を主張しています。
しかし、食料品の消費税率をゼロにすれば年間約5兆円の税収減となります。各党とも財源の具体策は不透明なまま、選挙向けの「減税ポピュリズム」との批判も出ています。本記事では、消費税減税がもたらす財政リスクと、成長戦略が置き去りにされている現状を解説します。
消費税減税の経済的影響
年5兆円の税収減という現実
消費税収は約26兆円で、所得税や法人税を上回る日本最大の税目です。食料品などに適用される軽減税率8%をゼロにすると、政府試算で年間約5兆円の税収減となります。
これは消費税率全体を2%引き下げるのと同程度の減税措置に相当し、名目GDPを1年間で約0.43%押し上げる効果があるとされています。標準的な4人家族(有業世帯主、専業主婦、子供2人)の場合、年間約6.4万円の負担軽減となる計算です。
家計への効果は限定的との指摘も
一方で、減税効果の配分には課題があります。年収250〜300万円の世帯では約4.8万円の負担減に対し、年収1500万円以上の世帯では約8.2万円の負担減となり、高所得層ほど恩恵が大きくなる逆進性の問題が指摘されています。
物価高で苦しむ低所得層への支援としては、消費税減税よりも給付金の方が効率的との見方もあります。自民党は「消費税減税は本当に物価高対策に有効か。給付金の方が早く実効性のある対策だ」と過去に主張していた経緯もあります。
各党の財源論と問題点
中道改革連合:基金活用で財源確保
立憲民主党と公明党が結成した中道改革連合は、赤字国債に頼らない財源確保を前提としています。具体的には以下の財源を想定しています。
- 政府の積み過ぎた基金の取り崩し(約7.8兆円と試算)
- 外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金
- 租税特別措置の見直し
- 税収の上振れ分
立憲民主党の本庄政調会長は「新たな国債発行をすることなく財源を確保して実現する」と述べ、野田佳彦代表も「数兆円単位の金額が出てくると確信している」と語っています。
しかし、基金の取り崩しは一時的な財源であり、恒久的な減税の財源とするには無理があります。また、租税特別措置の見直しも既得権益との調整が必要で、実現のハードルは高いと考えられます。
与党:財源は国民会議で検討
自民党・日本維新の会の与党連合は、2年間の時限措置として食料品消費税ゼロを掲げています。高市首相は「今後設置する国民会議で財源やスケジュールを検討する」と述べていますが、具体的な財源策は示されていません。
政府・与野党は「給付付き税額控除」の制度設計について協議しており、2026年1月にも有識者を交えた国民会議を設置し、年内に具体案をまとめる方針です。ただし、5兆円規模の財源をどう捻出するかは依然として不透明です。
他党の立場
国民民主党は消費税率5%引き下げを主張していますが、これは年間約15兆円の減収となり、赤字国債での賄いを前提としています。共産党やれいわ新選組は消費税廃止を訴えており、財源問題はさらに深刻です。
財政悪化がもたらすリスク
円安・金利上昇の懸念
与野党そろっての減税競争に対し、金融市場では警戒感が広がっています。「与党まで参戦すると、海外投資家は財政規律の劣化と見るため、円安・債券安が加速するリスクがある」との指摘があります。
実際、高市政権発足後、10年債利回り(長期金利)は上昇を続け、節目の2.0%を突破しました。日米金利差が縮小する中でも円安が進行しており、金融市場で財政持続性への懸念が意識されている可能性があります。
現在の日本は「円安が我慢できなくなったので金利上昇を我慢することにした」という状況にあり、円安抑止のための利上げは「国際金融のトリレンマ」に従えば、独立した金融政策と引き換えに安定した為替相場を手に入れた構図といえます。
財政悪化の連鎖的影響
政府債務は先行きもGDP比200%を超える水準で推移する見通しです。財政悪化が進めば、以下のような連鎖的影響が懸念されます。
企業への影響: 日本国債が格下げとなれば、民間企業や金融機関の格下げを招き、資金調達コストが上昇します。これは投資や賃上げにも水を差しかねません。
家計への影響: 将来の増税や政府サービス削減への不安が強まれば、家計は将来に備えて消費を抑制する可能性が高いとされています。減税で一時的に消費が増えても、長期的には逆効果になりかねないのです。
成長戦略の不在という本質的問題
分配偏重の選挙公約
今回の衆院選で顕著なのは、与野党ともに分配政策への傾斜が鮮明な一方、経済成長を促す施策が小粒である点です。消費税減税や現金給付が並ぶ中、規制改革や貿易政策への踏み込みは不足しています。
自民党は10年後の主力産業への投資や中小企業の生産性向上に取り組むとしていますが、具体的な工程表は示されていません。経済の底上げなき分配は、長期的には財源の枯渇を招く恐れがあります。
「減税ポピュリズム」との批判
自民、立憲民主両党内でも、消費税減税を批判する声が出始めています。「財政規律を考えず将来世代にツケを回すポピュリズムだ」との懸念が与野党双方から上がっており、減税派と反対派の対立が生じています。
JAM(ものづくり産業労働組合)の会長は「減税ポピュリズムと戦う」と述べるなど、労働組合からも批判の声があがっています。選挙での票獲得を優先し、財政の持続可能性を軽視する姿勢への警鐘といえます。
海外との比較
海外では食料品への課税を軽減または免除している国も少なくありません。イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどでは食料品の税率がゼロまたは非課税となっています。
ドイツは7%、フランスは2.1〜5.5%、スウェーデンは6%と、EU諸国でも食料品への税率は標準税率より大幅に低く設定されています。ただし、これらの国では他の税目(所得税や付加価値税の標準税率)が日本より高く、全体としての税収バランスが取れている点が異なります。
日本の場合、税収の中立を図るには標準税率を12%程度に引き上げる必要があるとの試算もありますが、そうした議論は選挙では避けられています。
注意点と今後の展望
実現までの時間的制約
仮に選挙で消費税減税が公約として支持を得ても、実現までには相当の時間を要します。中道改革連合の本庄政調会長は、法整備などの準備期間として半年程度かかるとの見通しを示しています。与党案では早くて2027年1月からの実施が想定されており、物価高に苦しむ家計への即効性は限定的です。
選挙後の現実との向き合い
選挙公約は往々にして実現困難な内容を含みます。5兆円規模の恒久的な減税財源を赤字国債に頼らず確保することは極めて困難であり、選挙後に公約が修正される可能性も念頭に置く必要があります。
有権者としては、各党が示す減税額だけでなく、財源の具体性と実現可能性を冷静に評価することが重要です。
まとめ
2026年衆院選を前に、与野党が消費税減税で横並びとなる異例の展開が生じています。食料品の消費税ゼロは年5兆円の税収減をもたらしますが、各党の財源論は不透明なままです。
財政悪化は円安・金利上昇を招き、かえって家計や企業の負担を増やすリスクがあります。また、成長戦略が置き去りにされ分配政策に偏重する現状は、日本経済の長期的な発展にとって懸念材料です。
有権者は「減税」という聞こえの良い言葉に惑わされず、財源の裏付けと経済全体への影響を見極めた上で投票判断を行うことが求められます。
参考資料:
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