第一生命が7%賃上げ、初任給35万円超の狙いと業界動向
はじめに
第一生命ホールディングス(HD)が2026年度の賃上げ方針を発表し、国内社員約5万人を対象に平均約7%の賃金引き上げを実施することが明らかになりました。総合職の初任給は35万4000円となり、生命保険業界でトップクラスの水準に達します。
5%以上の賃上げは4年連続、7%の大幅賃上げは3年連続という積極的な姿勢の背景には、深刻化する人材獲得競争があります。本記事では、第一生命の賃上げの詳細、他の大手生保の動向、そして業界全体が直面する課題について解説します。
第一生命の賃上げ施策の全容
月額1万円超のベースアップ
今回の賃上げでは、職種に応じて異なるベースアップが実施されます。固定給職員(内勤職および営業職)約1万5000人に対しては月額1万3000円、営業職員約3万5000人に対しては月額1万1000円のベースアップが適用されます。
さらに営業職員には、営業活動支援費として年間4万円分の補助も追加されます。これにより、過去30年で最大級のベースアップを実施した2025年度と比較しても、固定給職員は月額3000円、営業職員では実質4000円の増額となります。
初任給35万4000円の意味
基幹総合職の初任給は、今回のベースアップ適用により1万9000円増の35万4000円に引き上げられます。この金額には固定残業代が含まれていますが、生命保険業界では最高水準の初任給となります。
2024年度の初任給は32万1000円でしたので、わずか2年で3万円以上も上昇したことになります。この急激な引き上げは、新卒採用市場における人材獲得競争の激化を如実に表しています。
組合交渉を経て正式決定へ
現時点では方針の発表であり、今後は労働組合との交渉を経て正式決定となる見通しです。ただし、4年連続で5%以上の賃上げを実施してきた実績から、大きな変更なく決定されると見られています。
大手生保各社の賃上げ動向
明治安田生命:初任給33万2000円
明治安田生命は2025年度に全国転勤がある総合職の初任給を27万円(固定残業代含め33万2000円)に引き上げました。2年連続の初任給引き上げで、発表時点では業界最高水準でした。第一生命の35万4000円はこれを上回る水準となります。
日本生命:営業職員6%超の賃上げ
日本生命は2026年度に営業職員の賃金を6%超引き上げる方針を示しています。6%超の賃上げは4年連続となり、朝日智司社長は「賃上げを定着させるのが重要だ」と述べています。内勤職員についても2025年度に4%の賃上げ、月額1万円のベースアップを実施しており、総合職の初任給は27万6000円となっています。
業界全体で初任給引き上げが加速
生命保険4大社(日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命)すべてが初任給や賃金の引き上げを進めています。銀行業界で広がった初任給引き上げの波が生命保険業界にも波及し、人材獲得競争が一段と激しくなっています。
賃上げの背景にある人材課題
営業職員の高い離職率
生命保険業界では、営業職員の離職率の高さが長年の課題となっています。入社2年以内に6割近くが離職するというデータもあり、大量採用・大量離職を前提とした人事制度が限界に近づいています。
離職の主な原因として、成果主義による過度なプレッシャー、売上ノルマを達成できない場合の給与減額、業界未経験者が生活困難に陥るケースなどが挙げられています。
待遇改善で在籍率が改善傾向
こうした課題に対応するため、各社は教育制度の拡充や給与体系の改善に取り組んでいます。日本生命など主要8社の2024年度の入社5年目の在籍率は25%と、新型コロナウイルス感染拡大前に比べて4ポイント改善しました。
第一生命の大幅な賃上げも、こうした人材定着率向上の取り組みの一環として位置づけられます。単に新卒を採用するだけでなく、長く働き続けてもらう環境整備が重要視されています。
他業界との人材獲得競争
生命保険会社が競合するのは同業他社だけではありません。金融業界全体で初任給の引き上げが進んでおり、三菱UFJ銀行や三井住友銀行は2026年4月入行の新卒初任給を30万円に引き上げました。大手銀行で初任給30万円台は初めてのことです。
さらに、大和ハウス工業が35万円、ソニーグループが35万3000円、ファーストリテイリングが37万円と、業界を超えた初任給競争が激化しています。生命保険会社としても、これらの企業に対抗するため賃上げを加速させる必要に迫られています。
今後の注意点と展望
既存社員との給与バランス
初任給の大幅な引き上げは、既存社員との給与バランスという課題を生みます。新卒の初任給が上がる一方で、入社数年目の社員との差が縮まったり、逆転したりするケースも出てきます。各社とも在籍社員の給与調整を並行して進める必要があります。
中高年層の処遇への影響
初任給引き上げの財源をどこから捻出するかも課題です。企業によっては中高年社員の賃上げを抑制したり、早期退職を募集したりする動きも見られます。若手への投資と全世代のバランスをどう取るかが問われています。
賃上げの持続可能性
4年連続で大幅な賃上げを実施してきた第一生命ですが、この水準を今後も維持できるかは業績次第です。保険業界は国内人口減少という構造的な課題を抱えており、持続可能な賃金体系の構築が求められます。
まとめ
第一生命HDの平均7%賃上げと初任給35万4000円への引き上げは、生命保険業界における人材獲得競争の激化を象徴しています。大手生保各社が軒並み賃上げを実施する中、第一生命は業界トップ水準の初任給を提示することで、優秀な人材の確保を目指しています。
就職活動中の方にとっては、初任給の高さだけでなく、長期的なキャリアパスや福利厚生、働きやすさなども含めて企業を比較検討することが重要です。また、すでに保険業界で働いている方にとっては、業界全体の賃上げトレンドが自社にも波及することを期待できる状況と言えるでしょう。
参考資料:
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