出口治明氏のイタリア巡礼と2025年聖年の意義
はじめに
2025年は、カトリック教会にとって25年に一度の特別な年「聖年(ジュビレオ)」にあたります。ローマの4大聖堂では「聖なる扉(ポルタ・サンタ)」が開かれ、世界中から巡礼者が訪れました。この歴史的な年に、ライフネット生命創業者で立命館アジア太平洋大学(APU)前学長の出口治明氏がイタリアを訪問しています。
出口氏は2021年に脳出血で倒れ、右半身麻痺の後遺症を抱えながらも、車椅子で学長職に復帰した人物です。その出口氏が友人とともにイタリアへ渡り、聖年のローマを体験したことは、旅と学びを重視する同氏の生き方を象徴するエピソードです。この記事では、2025年聖年の背景とローマ4大聖堂の意義、そして出口氏の旅から見える「人生を豊かにする旅」の価値について解説します。
25年に一度の聖年とは何か
聖年の歴史と起源
聖年は、旧約聖書に記された「ヨベルの年」に由来する制度です。1300年に教皇ボニファチオ8世が最初の聖年を宣言しました。当初は100年ごとの開催でしたが、1470年に教皇パオロ2世が25年ごとに短縮し、現在に至っています。
聖年の期間中、ローマを訪れた巡礼者には教皇から「全免償」と呼ばれる特別な赦しが与えられます。2025年の聖年は「希望の巡礼者(Peregrinantes in Spem)」をテーマに掲げ、人種・信条・年齢を問わず、すべての人に門戸が開かれました。
聖なる扉が開かれるローマ4大聖堂
聖年の象徴となるのが、ローマの4大聖堂(バシリカ)に設置された「聖なる扉」です。普段は内側から漆喰で塗り固められているこの扉が、聖年にのみ開放されます。4つの聖堂を順に紹介します。
サン・ピエトロ大聖堂(バチカン) は、カトリック教会の総本山です。2024年12月24日に教皇フランシスコがこの聖堂の聖なる扉を開けたことで、2025年の聖年が正式に始まりました。世界最大級の教会建築として、ミケランジェロのクーポラ(ドーム)が特に有名です。
サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂 は、サン・ピエトロ大聖堂が建設される以前のカトリック総本山でした。現在も「ローマ司教座聖堂」として、世界のカトリック教会の中で最高位の権威を持つ聖堂です。
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂 は、「偉大なる聖母マリアに捧げられた聖堂」という意味を持ちます。世界中の聖母マリアに捧げられた教会の中で最大の規模を誇ります。2025年4月に逝去したフランシスコ教皇は、この聖堂内に埋葬されました。
サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂 は、「城壁外の聖パウロ大聖堂」を意味します。使徒パウロの墓が地下にあることが最大の特徴で、初期キリスト教の歴史を今に伝える重要な聖地です。
3350万人が訪れたローマの聖年
過去最多の巡礼者と観光客
2025年の聖年には、過去最多となる約3350万人の旅行者がローマを訪れました。前回2000年の聖年が約2500万人でしたから、大幅な増加です。世界185カ国から巡礼者が集まり、米国、スペイン、ブラジル、ポーランドなどからの訪問者が多く見られました。
ローマ市は聖年に向けて約37億ユーロ(約40億ドル)のインフラ投資を実施しました。道路の整備、公共交通機関の拡充、歴史的建造物の修復など、大規模な都市整備が行われています。
2人の教皇による聖年
2025年の聖年は、歴史的にも異例の展開を見せました。聖年はフランシスコ教皇のもとで開幕しましたが、同教皇が2025年4月に逝去したため、後継のレオ14世のもとで閉幕を迎えることになりました。2人の教皇にまたがって聖年が行われるのは約300年ぶりのことです。
聖年がもたらした光と影
大量の巡礼者・観光客の流入は、ローマ経済に大きな恩恵をもたらしました。一方で課題も浮上しています。多くの観光名所が修復工事の足場に覆われ、観光客から不満の声が上がりました。また、巡礼者向けの短期宿泊レンタルが急増した結果、住民向けの長期賃貸物件の価格が高騰し、地元住民の生活を圧迫する事態も起きています。
出口治明氏が体現する「旅の力」
脳出血からの復活
出口治明氏は1948年生まれ。ライフネット生命保険の創業者として知られ、2018年にAPU学長に就任しました。しかし2021年1月、脳出血で倒れ、右半身麻痺と失語症という重い後遺症が残りました。
70代で脳出血を起こした場合、復職を諦める人が多い中、出口氏は「考えたのは3秒。もう元には戻れない、仕方がないと受け入れました」と語っています。「APUで”第2の開学”を実行するために大学に戻らなくては」という強い意志のもと、リハビリに取り組みました。2022年4月には車椅子とタブレット端末を活用しながら学長職に完全復帰を果たし、2023年12月に退任するまで職務を全うしています。
「人・本・旅」の哲学
出口氏は「教養を作るのは人・本・旅である」と一貫して主張してきた人物です。訪問した世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超えるとされます。著書『還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方』では、会社人間的な「飯・風呂・寝る」の生活から、「人・本・旅」を軸にした生き方への転換を提唱しています。
車椅子での生活になっても旅を続ける姿勢は、この哲学を体現するものです。2025年10月に友人とイタリアを訪れ、聖年のローマを体験したことは、身体的な制約があっても学びと発見を求め続ける出口氏の生き方そのものと言えます。
旅が教えてくれること
出口氏は2025年に『歴史と文化がよくわかる旅の楽しみ方』を出版しています。80カ国以上を旅した経験から、観光名所の知られざる歴史や穴場スポットまで、旅を通じた教養の深め方を紹介する内容です。聖年のイタリア訪問は、まさにこの「歴史と文化を体感する旅」の実践例です。
注意点・展望
聖年の閉幕と次回
2025年の聖年は、2025年12月28日までにサン・ピエトロ大聖堂を除く3つの聖堂の聖なる扉が閉じられ、2026年1月6日にサン・ピエトロ大聖堂の扉が閉じられて閉幕します。次の通常聖年は2050年ですが、2033年にはキリストの死と復活から2000年を記念する特別聖年が予定されています。
バリアフリーの課題
出口氏のように車椅子で巡礼を行う人も増えています。歴史的建造物が多いローマでは、バリアフリー対応が十分とは言えない場所もあります。聖年を契機としたインフラ整備が、今後のアクセシビリティ向上につながることが期待されます。
高齢者・障がい者の旅の可能性
出口氏の事例は、身体的な制約があっても海外旅行は可能であることを示しています。車椅子旅行者向けのサポートサービスやバリアフリー情報の充実が、今後ますます重要になるでしょう。
まとめ
2025年の聖年は、25年に一度の特別な宗教行事として過去最多の3350万人をローマに集めました。ローマ4大聖堂の「聖なる扉」は、信仰の有無を問わず訪れる人々に歴史と文化の重みを伝えています。
出口治明氏が車椅子でこの聖年のイタリアを訪問したことは、「人・本・旅」という同氏の信念を象徴するエピソードです。脳出血という大きな試練を経てもなお、旅を通じた学びを求め続ける姿勢は、年齢や身体的制約に関係なく人生を豊かにできることを教えてくれます。聖年のローマに限らず、歴史や文化に触れる旅は、私たちの視野を広げ、人生に新たな意味をもたらしてくれるものです。
参考資料:
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