日伊「特別な戦略的パートナーシップ」の全容
はじめに
2026年1月16日、高市早苗首相とイタリアのジョルジャ・メローニ首相による首脳会談が首相官邸で開催されました。両首脳は共同声明を発表し、日伊関係を「戦略的パートナーシップ」から「特別な戦略的パートナーシップ」へ格上げすることで合意しました。
この格上げは単なる外交上の儀礼ではありません。次世代戦闘機の共同開発、重要鉱物のサプライチェーン構築、LNG(液化天然ガス)の緊急時供給、宇宙分野での技術協力など、安全保障から経済まで幅広い分野での具体的な協力を含んでいます。
この記事では、日伊首脳会談で合意された内容と、なぜ今、日本とイタリアの協力が重要なのかを詳しく解説します。
首脳会談の概要と合意内容
G7議長国の引き継ぎという重要な文脈
メローニ首相の来日は1月15日から17日の日程で行われました。これは2025年のG7議長国だったイタリアから、2026年の議長国である日本への引き継ぎという重要な意味を持っています。
共同記者発表でメローニ首相は「サナエとは非常に波長が合う」と述べ、「私もサナエもそれぞれの国で初めて女性としてこの職に就いている。大きな名誉だが非常に責任がある」と両首脳の特別な関係性を強調しました。
「特別な戦略的パートナーシップ」への格上げ
両国関係の「特別な戦略的パートナーシップ」への格上げは、安全保障、経済、技術協力などの分野で従来よりも密接な連携を図る意図を示すものです。共同声明では「欧州大西洋とインド太平洋の安保は強く相互に関連している」と明記され、地理的に離れた両国が共通の安全保障認識を持つことが確認されました。
法の支配と国際秩序の重要性
両首脳は「法の支配」の重要性を改めて確認しました。ロシアによるウクライナ侵攻や中国の台頭といった国際情勢を踏まえ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現やウクライナの公正かつ永続的な平和の実現に向けて協力することで一致しています。
次世代戦闘機GCAP:日英伊の共同開発
GCAPとは何か
首脳会談で確認された協力の柱の一つが、GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)です。これは日本、イギリス、イタリアの3カ国による第6世代ジェット戦闘機の共同開発プログラムで、2035年までの配備開始を目指しています。
日本の航空自衛隊が運用するF-2、イギリス・イタリア空軍が運用するユーロファイター・タイフーンの後継機となる予定です。
共同開発の体制
2024年12月、三菱重工業などが出資する日本航空機産業振興株式会社(JAIEC)、イギリスのBAEシステムズ、イタリアのレオナルドは、新たな合弁会社の設立に合意しました。株式は各国が33.3%ずつ保有する対等な関係です。
設計・開発を担う合弁企業「エッジウィング」は2025年6月に設立され、共同開発を管理する国際機関「GIGO(ジャイゴ)」は同年7月にイギリス南部のレディングで正式に発足しました。GIGOのトップには岡真臣元防衛審議官が就任しています。
参加企業と役割分担
各分野の開発担当は以下の通りです。機体は三菱重工業(日本)、BAEシステムズ(英国)、レオナルド(イタリア)が担当します。エンジンはIHI(日本)、ロールス・ロイス(英国)、アヴィオ(イタリア)が、電子機器は三菱電機(日本)、レオナルドUK(英国)、レオナルドおよびエレクトロニカ(イタリア)がそれぞれ担います。
GCAPの戦略的意義
防衛省によれば、この共同開発は三カ国の技術を結集し、コストとリスクを分担しながら、将来の航空優勢を担保する優れた戦闘機を開発するものです。日本と価値観を同じくする英伊との協力は、インド太平洋と欧州を結ぶ世界の安定と繁栄の礎となる事業と位置づけられています。
経済安全保障:重要鉱物とLNG供給
重要鉱物のサプライチェーン構築
首脳会談では、重要鉱物のサプライチェーン構築でも協力することで合意しました。レアアースなどの重要鉱物は、電気自動車や再生可能エネルギー設備、半導体など先端技術に不可欠な資源です。
現在、レアアースは中国が世界の生産・採掘の約60%、製錬工程の約90%を占めており、サプライチェーンの脆弱性が問題視されています。2010年には尖閣諸島問題を背景に中国がレアアースの対日輸出規制を発動し、日本の産業界に深刻な混乱をもたらした経験があります。
日本は経済安全保障推進法に基づき、レアアースを含む12の特定重要物資を指定し、供給安定化に向けた施策を進めています。イタリアとの協力は、調達先の多角化という観点から重要な意味を持ちます。
LNGの緊急時供給体制
エネルギー分野では、イタリアのエネルギー大手ENIが緊急時に日本に対して優先的なLNG供給を行うことで合意しました。この協力は2024年10月に締結された覚書を発展させたものです。
ENIはアフリカ(特にアルジェリアやモザンビーク)に多くの権益を持っており、中東情勢の緊迫化に伴うLNGの供給途絶リスクに備える狙いがあります。日本がLNGの調達に支障を来す恐れがある場合、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じてENIから購入する仕組みが整備されます。
宇宙分野での協力
宇宙開発分野でも新たな協議体の設置で合意しました。宇宙技術は安全保障と経済の両面で重要性を増しており、衛星通信や測位システムなど多岐にわたる分野での協力が期待されます。
トランプ政権と同盟国への圧力
軍事費増額要求の背景
日伊首脳会談の背景には、トランプ米政権から同盟国への軍事費増額要求があります。トランプ大統領は2025年1月、NATO加盟国は国防費をGDP比5%に引き上げるべきとの考えを示しました。
2025年6月のNATOハーグ・サミットでは、加盟国が防衛費をGDP比5%に引き上げる目標で合意しました。通常の国防予算3.5%とサイバー・インフラ整備などの関連支出1.5%で合計5%という二層構造です。
日本への影響
米国は日本に対しても増額を要求しており、コルビー米国防次官は「日本はできるだけ早く、防衛費をGDP比3%にすべきだ」と発言しています。さらに2025年6月には「GDP3.5%を要求」との報道もありました。
日本の防衛費は2025年度時点で関連経費と合わせても約9.9兆円、GDP比では約1.8%です。2027年度までにGDP比2%への引き上げを決めていますが、3.5~5%となれば大幅な追加負担が必要になります。
同盟国同士の協力強化
このような状況下で、日本とイタリアが協力を深める意義は大きいと言えます。米国への過度の依存を避けつつ、価値観を共有する同盟国同士で防衛技術の開発やコスト分担を進めることで、それぞれの安全保障を強化することができます。
注意点・今後の展望
GCAP開発の課題
次世代戦闘機の共同開発は、技術的にも政治的にも複雑なプロジェクトです。過去の国際共同開発では予算膨張や開発遅延が問題となったケースもあります。日本は約1.7兆円の負担が見込まれており、予算管理が重要な課題となります。
また、サウジアラビアがGCAPへの参画を望んでいるとの報道もあり、プログラムの拡大と複雑化の可能性もあります。
エネルギー安全保障の継続的強化
LNGの緊急時供給体制は重要な進展ですが、これは危機対応の枠組みに過ぎません。長期的なエネルギー安全保障には、調達先のさらなる多角化、再生可能エネルギーの拡大、省エネルギーの推進など、複合的な取り組みが必要です。
日伊関係の今後
両国は地理的には遠く離れていますが、共通の課題を多く抱えています。法の支配を重視する民主主義国家として、また米国の同盟国として、協力の余地は大きいと言えます。2026年は日本がG7議長国を務める年であり、日伊の連携はG7全体の結束強化にも寄与することが期待されます。
まとめ
日伊首脳会談による「特別な戦略的パートナーシップ」への格上げは、両国関係の新たな段階を示すものです。次世代戦闘機GCAP、重要鉱物のサプライチェーン、LNG緊急時供給、宇宙協力など、合意内容は多岐にわたります。
トランプ米政権からの軍事費増額圧力という共通課題に直面する中、価値観を共有する同盟国同士が協力を深めることの意義は大きいと言えます。欧州とインド太平洋の安全保障が相互に関連しているという認識のもと、日本とイタリアの協力は今後さらに重要性を増していくでしょう。
参考資料:
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