ドンキ8万人が開発者に PPIHの独自商品戦略を解説
はじめに
ディスカウント店「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が快走を続けています。2026年6月期には37期連続となる営業増益を見込んでおり、売上高は2兆円を突破して国内小売業4位の座を確立しました。
PPIHの強さの秘密は、パートやアルバイトを含む約8万人の従業員を「商品開発者」として巻き込む独自の仕組みにあります。多くのメーカーと連携して独自商品を企画・開発し、各店舗が独自の判断で仕入れから販売まで行う「個店経営」を実践しています。
本記事では、セブン&アイやイオンといった小売りの巨人に挑むPPIHの独自商品開発戦略と、その背景にある組織文化について詳しく解説します。
PPIHの成長軌道と業界での位置づけ
36期連続増収増益の実績
PPIHは2025年6月期決算で売上高2兆2,468億円、営業利益1,623億円を達成し、36期連続の増収増益を記録しました。25年前にはわずか30店舗だった同社は、現在では国内655店舗、海外124店舗の計779店舗を展開しています。
2024年6月期には連結売上高が2兆円を突破し、セブン&アイ・ホールディングス、イオン、ファーストリテイリングに次ぐ国内小売業4位となりました。ドンキを中心としたディスカウントストア事業とアピタなど総合スーパー事業を合わせた売上高は、イオンリテールを初めて逆転しています。
大手を超える利益率
PPIHは2035年6月期に国内事業の営業利益を3,000億円まで増やす目標を掲げています。イオンの営業利益は2025年2月期で2,377億円、セブン&アイの国内コンビニエンスストア事業は2,335億円ですから、野心的な目標といえます。
この成長を支えているのが、独自の商品開発力と個店経営という2つの柱です。
権限委譲と個店経営
従業員が仕入れから販売まで担当
PPIHの最も特徴的なビジネスモデルは「権限委譲」です。小売業における多店舗経営では本部主導の「チェーンストアシステム」を採用する企業が多い中、PPIHはこのシステムを使用しません。
従業員ごとに担当売場を決め、仕入れから陳列、値付け、販売まで全てを任せています。売り場の実績が従業員の報酬に反映される人事制度を取り入れており、昇降格も頻繁に実施されます。
経営理念の第三条には「現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す」と明記されています。
アルバイトも商談を担う
驚くべきことに、権限を委譲されるのは社員だけではありません。東京・北区のドン・キホーテ赤羽東口店で14年アルバイトを務める従業員は、衣料品売り場を担当し、社員と同じように仕入れの権限を持っています。自分の裁量で発注でき、メーカーとの商談も一人で行います。
この従業員が独自に仕入れてヒットさせた商品が「赤羽Tシャツ」です。周辺に飲み屋が多く、店員が買ってくれるかもしれないと仕入れてみたところ大ヒットしました。こうした現場発の商品開発が、店舗ごとの特色につながっています。
社長の仕入れ権限は「ゼロ」
総額1兆6,000億円を超える売上を生み出す商品仕入れの判断は、各店舗の売り場担当者が行っています。アルバイトであれ社員であれ、店頭に立ち顧客と接する担当者が「お客様が今欲しいもの」を考えて仕入れを行い、売り場を作り上げます。
そのため、現場に立たない社長は「仕入れに対する権限はゼロ」だといいます。商品構成が同じ店は一つとしてありません。
プライベートブランド「情熱価格」
ピープルブランドへの進化
PPIHは2010年にプライベートブランド「情熱価格」の販売を開始しました。2021年2月のリニューアルでは「ピープルブランド宣言」を掲げ、従来の「自社の所有物としてのプライベートブランド」から「お客さまと一緒に創り上げるピープルブランド」へと転換しました。
新しいロゴマークは、ドン・キホーテの頭文字「ド」と「情熱価格」を一体化したデザインとなっています。PPIHグループの海外店舗での展開も見据え、英字表記の「JONETZ」もロゴに組み込まれました。
3,900アイテムを超える商品展開
2009年の誕生以来、情熱価格は3,900アイテムを超える商品を展開してきました。「低価格一辺倒のPBとは一線を画した品質の良さと、楽しさや発見といった要素」が魅力とされています。
2026年1月には「ラベルレス」の次は「缶レス」として、製造時・輸送時のCO2を削減した「ライトツナかつおパウチ」が新登場しました。また、「秒でどこでもTKG!?卵かけ風ご飯のたれ」が「2025年日経優秀製品・サービス賞」トレンド部門賞を受賞するなど、ユニークな商品が話題を集めています。
国内外の優良メーカーとの連携
情熱価格は「お客の声に真摯に応える商品を、国内外の優良メーカーと手を携えて提供しよう」という理念のもとに生まれました。さまざまなカテゴリーの商品をパートナー企業と共同で開発・商品化しており、大手メーカーもドンキとの協業に関心を寄せています。
圧縮陳列と店づくりの哲学
「宝探し」を演出する売り場
ドン・キホーテの店舗に入ると、天井まで積み上げられた商品と迷路のような通路に圧倒されます。この「圧縮陳列」は、創業者の安田隆夫氏が1978年に開業した前身「泥棒市場」から続く伝統です。
当時わずか20坪だった店舗では倉庫を借りる余裕もなく、納品された商品を全て店内に押し込まざるを得ませんでした。ところがこの「苦肉の策」が顧客に好評で、「意外なものが予想しないところにある発見の楽しみ」「商品の山から掘り出し物を探す宝探しの面白さ」として支持されました。
あえて「見づらい」売り場を設計
通常の店舗陳列では「見やすさ、買いやすさ、取りやすさ」を重視しますが、ドン・キホーテはあえて「見づらく、買いにくく、取りにくい」迷路のような売り場にしています。これにより、お客に多種多様な商品を見てもらうことを可能にしました。
入り口から店内を眺めると、手前の棚は低く奥まで見渡せ、視線の先には「目玉商品」が置かれています。食品を2階や地下に配置することで、ビル全体としての動線を伸ばす工夫も施されています。
ユニー再生と今後の成長戦略
総合スーパーへのノウハウ移植
PPIHは2019年にユニーを完全子会社化しました。最大の改革は、中央集権型のチェーン店だったユニーをドンキ流の個店経営に変えたことです。約1万9,000人のパート・アルバイト従業員に権限委譲を進め、仕入れなどの責任を現場に持たせました。
この改革により、ユニーの収益性は大きく改善しています。
新業態「食品強化型ドンキ」
2026年6月期下期からは、新業態「食品強化型ドンキ」をピアゴの業態転換からスタートします。2035年に向けて200〜300店舗の展開を目指しており、総売上6,000億円、営業利益360億円という具体的な数値目標が設定されています。
2026年6月期単年でも設備投資額750億円以上を計画しており、成長投資を継続する姿勢を鮮明にしています。
まとめ
PPIHの強さは、約8万人の従業員全員を「商品開発者」として巻き込む独自の組織文化にあります。パートやアルバイトにも大胆に権限を委譲し、現場の判断で仕入れから販売までを行う「個店経営」は、小売業界の常識を覆すものです。
プライベートブランド「情熱価格」の成長や、圧縮陳列による「宝探し」体験の演出、さらにはユニー再生で実証された総合スーパー改革ノウハウが、今後の成長エンジンとなります。
セブン&アイやイオンといった巨人に挑むPPIHの動向は、日本の小売業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めています。
参考資料:
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