国民民主党「もっと手取りを増やす」公約、所得制限撤廃を訴え
はじめに
国民民主党が次期衆院選に向けた公約の素案を発表しました。「もっと手取りを増やす」をスローガンに掲げ、昨年12月に自民党と合意した「年収の壁」178万円への引き上げについて、所得制限の撤廃を訴えます。
現行の合意では基礎控除の上乗せ対象が年収665万円以下に限定されており、これに対する不満の声が国民の間で広がっていました。国民民主党は「納税者の約8割をカバー」という当初の目標をさらに拡大し、全ての納税者が恩恵を受けられる制度を目指します。
この記事では、年収の壁をめぐる経緯と現行制度の課題、そして国民民主党の新たな公約について詳しく解説します。
年収の壁をめぐる経緯
103万円の壁からの改革
「年収103万円の壁」は、所得税がかかり始める境界線として長年知られてきました。基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合計した103万円を超えると所得税が発生するため、パートやアルバイトで働く人々が収入を調整する要因となっていました。
この103万円という基準は1995年に100万円から引き上げられて以来、29年間変更されていませんでした。その間に最低賃金は約1.73倍に上昇しており、物価や所得の実態に合わなくなっているとの指摘が高まっていました。
国民民主党の躍進と政策実現
2024年10月の衆院選で、国民民主党は「手取りを増やす」政策を前面に掲げて選挙戦を戦いました。結果は従来の7議席から4倍増となる28議席を獲得する躍進となり、「年収の壁」問題への関心の高さを示しました。
この選挙結果を受けて、年収の壁については与野党協議が本格化しました。国民民主党は最低賃金の上昇率に合わせて103万円を1.73倍した178万円への引き上げを主張し、交渉を続けてきました。
178万円への引き上げ合意
2025年12月18日、高市早苗首相と国民民主党の玉木雄一郎代表が国会内で会談し、「年収の壁」を178万円まで引き上げることで合意しました。具体的には、基礎控除と給与所得控除をそれぞれ4万円引き上げ、さらに物価高への時限措置として2026年と2027年は追加の上乗せを行います。
この合意により、納税者の約8割にあたる年収665万円以下の人々の控除額合計が178万円に達することになりました。減税額は年収に応じて約3万円から6万円となります。
合意内容への反応と課題
所得制限への不満
合意直後から、SNSを中心に不満の声が広がりました。基礎控除の上乗せが年収665万円以下に限定されたことで、中高所得者は恩恵を受けられないためです。
玉木代表は合意時に「国民の皆さんから託されたミッション・コンプリート」と発言しましたが、批判の声を受けて翌日には「ここがゴールではありません」と軌道修正を図りました。後日、自身のYouTube番組で「不快に思われた方にはおわび申し上げます」と謝罪しています。
当初の試算との差
国民民主党が当初提示していた減税案と、実際の合意内容には大きな差がありました。玉木代表が7月に投稿した試算では、年収600万円の減税額は15.2万円、年収800万円から1000万円では22.8万円とされていました。
しかし、今回の合意による実際の減税額は、年収600万円で約3万6千円にとどまります。第一生命経済研究所の試算によると、追加の減税規模は年間6,500億円で、103万円から160万円への引き上げによる約1.2兆円と合わせても、当初の7.6兆円という試算には遠く及びません。
社会保険の壁は残存
所得税の壁が178万円に引き上げられても、社会保険に関する「壁」は依然として存在します。年収106万円の壁(従業員51人以上の企業で働く場合)や年収130万円の壁(扶養から外れる基準)は変更されていません。
これらの壁を超えると社会保険料の負担が発生するため、実際には178万円まで自由に働けるわけではありません。複数の「壁」を総合的に理解した上で、働き方を検討する必要があります。
時限措置の問題
今回の基礎控除上乗せには、2026年と2027年という時限措置が含まれています。2028年分以降は上乗せ額が縮小される可能性があり、恒久的な制度改正ではない点にも注意が必要です。
国民民主党の新たな公約
「もっと手取りを増やす」路線の継続
2026年1月19日に示された衆院選公約の素案では、「もっと手取りを増やす」をキャッチフレーズに掲げています。これは2024年衆院選で支持を集めた「手取りを増やす」路線をさらに発展させたものです。
主な政策として、年収の壁178万円への引き上げにかかる所得制限の撤廃を訴えます。現行の合意では年収665万円以下に限定されている基礎控除の上乗せを、全ての納税者に適用することを目指します。
その他の主要政策
公約素案には、年収の壁以外にも複数の「手取りを増やす」政策が盛り込まれています。
まず、年少扶養控除の復活です。子育て世帯の税負担軽減を目的としています。また、公的医療保険に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金制度」の廃止も掲げています。
130万円の壁(社会保険)に関しては、就労を促進するための給付措置を設けるとしています。さらに、電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」の廃止も明記されています。従来から訴えていた消費税率の一律5%への引き下げも維持されています。
注意点と今後の展望
財源確保の課題
国民民主党の政策を全て実施した場合、7.6兆円規模の減収になるとの政府試算があります。財源をどう確保するのかは大きな課題であり、選挙戦でも争点となる可能性があります。
減税による経済活性化で税収が増えるという主張もありますが、確実な効果は不透明です。他の歳出削減や財政再建策との整合性も問われることになります。
与野党の距離感
国民民主党は現在、与党とも新党「中道改革連合」とも一定の距離を置く方針です。衆参両院で多党化が進む中、選挙後にどの政党が政権を担っても野党の協力が必要な状況が続くため、「フリーハンド」を確保する狙いがあります。
このため、年収の壁の所得制限撤廃が実現するかどうかは、選挙結果と選挙後の政治情勢に大きく左右されます。
複数の「壁」への対応
有権者としては、所得税の壁だけでなく、社会保険の壁も含めた総合的な制度改革に注目する必要があります。年収178万円への引き上げが実現しても、106万円や130万円の壁が残る限り、働き方の制約は完全には解消されません。
国民民主党の公約では130万円の壁への給付措置が言及されていますが、具体的な制度設計はまだ明らかになっていません。
まとめ
国民民主党が次期衆院選で掲げる「もっと手取りを増やす」公約は、昨年の成功を踏まえた路線の継続・発展です。年収の壁178万円への引き上げで所得制限の撤廃を訴えることで、より広い層への減税を目指しています。
しかし、財源確保の課題や社会保険の壁の存在など、解決すべき問題は山積しています。有権者は各党の政策を比較し、自身の働き方や家計への影響を考慮した上で判断することが求められます。年収の壁をめぐる議論は、今後の衆院選の重要な争点の一つとなりそうです。
参考資料:
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