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by nicoxz

食品軽減税率とは?低所得者の負担軽減効果と課題

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はじめに

2019年10月、日本で消費税率が8%から10%に引き上げられた際、食品などの生活必需品については8%の軽減税率が適用されるようになりました。この制度は、消費税の「逆進性」—所得が低い人ほど負担感が重くなる性質—を緩和することを主な目的としています。

2026年1月現在、次期衆院選を控えて与野党から消費税減税論が台頭しており、食品の軽減税率に再び注目が集まっています。自民党と日本維新の会の連立合意には「飲食料品を2年間消費税の対象としないことも視野に検討」と明記され、立憲民主党も食料品の消費税率を一時的にゼロにする公約を掲げています。

この記事では、軽減税率制度の基本的な仕組みから、低所得者への効果、制度の課題、そして海外との比較までを詳しく解説します。

軽減税率制度の基本的な仕組み

対象となる品目

軽減税率8%が適用される対象は、大きく分けて2つあります。

1つ目は「酒類・外食を除く飲食料品」です。食品表示法に規定する「食品」が対象となり、スーパーやコンビニで購入する食料品、テイクアウトの食事、出前・宅配などが含まれます。ただし、アルコール分1度以上の酒類や、飲食設備のある場所で提供される外食は標準税率10%が適用されます。

2つ目は「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」です。駅やコンビニで購入する新聞や、電子版・デジタル版は対象外となります。

外食とテイクアウトの区分

軽減税率で特に複雑なのが、外食とテイクアウトの区分です。同じハンバーガーでも、店内で食べれば10%、持ち帰れば8%と税率が異なります。

外食として10%が適用されるのは、「テーブルや椅子などの飲食設備がある場所で、顧客に飲食させるサービス」を行う場合です。一方、テイクアウトや出前は単なる飲食料品の販売とみなされ、8%が適用されます。

また、ケータリングや出張料理は原則10%ですが、有料老人ホームや学校の給食については、他に食事を取る手段がないことから8%が適用されます。

酒類の判断基準

軽減税率の対象外となる「酒類」は、アルコール分が1度以上のものを指します。そのため、みりん風調味料やノンアルコールビール、甘酒などは8%の対象です。一方、本みりんや料理酒は飲用目的でなくても10%となります。

低所得者への負担軽減効果

逆進性とは何か

消費税は所得に関係なく同じ税率が適用されるため、所得に占める消費税負担の割合は低所得者ほど高くなります。これを「逆進性」と呼びます。

例えば、年収300万円の世帯と年収1,500万円の世帯が同じ100万円を消費した場合、消費税負担は同じ10万円ですが、年収に占める割合は前者が約3.3%、後者が約0.7%となります。この差を緩和するために、日常的に購入する食品の税率を下げる軽減税率が導入されました。

負担軽減の具体的な効果

総務省の試算によると、軽減税率による負担軽減効果は以下の通りです。

年収300万円程度の世帯では、年間約4.8万円の税負担減(可処分所得比で約1.1%の負担軽減)となります。一方、年収1,500万円程度の世帯では、年間約8.2万円の税負担減(同0.5%の負担軽減)となります。

金額では高所得世帯の方が多く軽減されますが、所得に対する割合では低所得世帯の軽減効果が大きくなっています。

効果への疑問

しかし、軽減税率の逆進性緩和効果には疑問の声もあります。経済学者の研究によると、複数税率化した場合の逆進性緩和効果はきわめて小さく、最低所得層の負担率は4.7%から4.5%へ0.2ポイント低下するにとどまるとされています。

一方、給付付き税額控除を導入した場合は、最低所得層の負担率を4.7%から2.0%にまで低下させることができるという試算もあります。このことから、軽減税率よりも直接的な給付措置の方が効率的だという指摘があります。

軽減税率制度の課題

制度の複雑さ

軽減税率の最大の問題点は、制度が複雑で事業者の負担が大きいことです。外食かテイクアウトかの判断、一体資産(食品と非食品のセット商品)の取り扱い、酒類の判定など、税率の判断が難しいケースが多数存在します。

例えば、「紅茶とティーカップのセット商品」や「おもちゃ付きのお菓子」は、税抜価格が1万円以下で食品の価額が2/3以上であれば8%が適用されますが、そうでなければ10%となります。

高所得者への恩恵

軽減税率は低所得者だけでなく高所得者にも恩恵が及びます。高所得者の方が食品への支出金額が多いため、軽減額の絶対額は高所得者の方が大きくなります。このため、財源の大きさに比して低所得者層への効果が限定的だという批判があります。

税収への影響

軽減税率による減収は年間約1兆円規模とされています。消費税を社会保障財源として位置付ける日本にとって、この減収は決して小さくありません。さらに、現在議論されている「食料品の消費税率ゼロ」が実現した場合、年間約5兆円の税収減が見込まれています。

海外の軽減税率制度との比較

EU諸国の状況

EU指令では、加盟国は標準税率の下限を15%とし、食料品などに5%以上の軽減税率を2段階まで設定できると定められています。多くの国が日本よりも大胆な軽減措置を採用しています。

フランスでは標準税率20%に対し、食料品は5.5%、新聞や医薬品は2.1%が適用されます。興味深いのは、バターとマーガリンで税率が異なる点です。国内の酪農家保護のため、バターには軽減税率が適用されますが、工場で生産されるマーガリンには標準税率が適用されます。

ドイツでは標準税率19%に対し、食料品は7%です。イギリスでは標準税率20%に対し、食料品にはゼロ税率が適用されますが、チョコレートやアイスクリームは贅沢品として20%が課されるなど、区分が細かいことが問題視されています。

日本との違い

欧州諸国の付加価値税は税率が高い一方で、軽減税率やゼロ税率が広範に適用されているため、実際の税収は税率の高さほどではありません。日本の軽減税率は8%と10%の2%差にとどまり、欧州と比べると控えめな措置といえます。

ただし、複数税率は制度の複雑化を招くという問題は各国共通です。イギリスでは同じお菓子でもビスケットとチョコレートで税率が異なるなど、判断が難しいケースが多数あります。

2026年衆院選と消費税議論の行方

各党の主張

2026年1月現在、衆院選を控えて消費税減税論が活発化しています。自民党の鈴木俊一幹事長は、食料品の消費税率を時限的にゼロとすることに前向きな姿勢を示しました。立憲民主党は軽減税率を1年間ゼロ%に引き下げ、最大2年まで延長を認める方針を掲げています。

参政党、れいわ新選組、共産党は消費税そのものの廃止を主張しています。国民民主党は消費税減税ではなく、再エネ賦課金廃止による電気料金引き下げを訴えています。

財源確保の課題

食料品の消費税率をゼロにした場合の年間約5兆円という税収減をどう補うかが最大の課題です。高市首相も就任前は食料品の消費税率ゼロを積極的に主張していましたが、首相就任後は「自民党内で賛同を得られなかった」と慎重な姿勢に転じています。

財政の持続可能性と生活者支援のバランスをどう取るか、選挙戦での各党の議論が注目されます。

まとめ

食品の軽減税率制度は、消費税の逆進性を緩和し低所得者の負担を抑えることを目的として2019年に導入されました。年収300万円世帯で年間約4.8万円、可処分所得比で約1.1%の負担軽減効果があるとされています。

一方で、制度の複雑さ、高所得者にも恩恵が及ぶこと、約1兆円の税収減といった課題も指摘されています。学術的には、軽減税率よりも給付付き税額控除の方が効率的な逆進性対策だという見方もあります。

2026年衆院選では、食料品の消費税率をさらに引き下げるかどうかが争点の一つとなっています。減税による生活者支援と財政の持続可能性、どちらを重視するか、有権者一人ひとりが考えるべき重要なテーマです。

参考資料:

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