給付付き税額控除に立ちはだかる「クロヨン」の壁とは
はじめに
2026年2月8日投開票の衆院選を前に、与野党が注目政策として掲げる「給付付き税額控除」。減税と給付を組み合わせることで、中低所得層を幅広く支援できる仕組みとして期待されています。
しかし、この制度の導入には大きな壁があります。それが「クロヨン」と呼ばれる所得捕捉率の格差問題です。会社員は所得の9割、自営業者は6割、農業従事者は4割しか税務署に把握されていないという不公平な状態が残っています。
この格差を放置したまま給付付き税額控除を導入すれば、一部の人を過大に支援することになり、かえって不公平感を強めかねません。この記事では、給付付き税額控除の仕組みとクロヨン問題、各党の公約、そして解決に向けた取り組みについて解説します。
給付付き税額控除とは何か
制度の基本的な仕組み
給付付き税額控除とは、所得税の一定額を控除し、低所得で税額が少なく控除しきれなかった分を現金で給付する仕組みです。納税額の多い層には減税を、納税額の少ない層や非課税世帯には現金給付を行うことで、所得に応じた公平な支援を実現します。
分かりやすく言えば「所得が低い人には、消費税分を現金でキャッシュバックする」という制度です。現在の軽減税率(8%)を廃止し、代わりにこの仕組みを導入することが検討されています。
期待される効果
給付付き税額控除の最大のメリットは、本当に困っている人にピンポイントで支援が届く効率の良さです。現行の軽減税率制度では、高所得者も低所得者も同じように恩恵を受けます。しかし給付付き税額控除なら、所得に応じた支援が可能になります。
立憲民主党の試算では、国民1人あたり年間約4万円の負担軽減になるとされています。全体では約5兆円規模の財源が必要と見込まれています。
クロヨン問題とは
所得捕捉率の格差
「クロヨン」とは、納税者の就業形態によって生じる課税所得の捕捉率の格差を表す略称です。その比率は「9・6・4」を表しています。
- 給与所得者(会社員等): 9割を捕捉
- 事業所得者(自営業者等): 6割を捕捉
- 農業所得者: 4割を捕捉
源泉徴収で納税が強制される給与所得者は、所得のほぼ全額が把握されます。一方、申告納税をする事業所得者や農業所得者は、経費の計上などにより実際の所得を把握しにくい状況があります。
徴税の不公平の象徴
クロヨン問題は、長年にわたり「徴税を巡る不公平の象徴」とされてきました。同じ収入でも、会社員と自営業者では実際に支払う税金に差が出る可能性があるのです。
現在の税務行政では、全ての個人事業者の所得を完全に捕捉することは物理的に困難です。税務署の人員や設備を大幅に増強するには膨大な経費がかかるため、根本的な解決には至っていません。
給付付き税額控除への影響
過大支援のリスク
クロヨン状態のまま給付付き税額控除を導入した場合、所得が実際より低く申告されている人に対して過大な給付が行われるリスクがあります。
たとえば、実際には十分な収入がある自営業者が、申告上は低所得となっている場合、本来必要のない給付金を受け取ることになりかねません。これは制度の公平性を損なうだけでなく、財政負担の増大にもつながります。
不正受給の防止が課題
給付付き税額控除を適正に運用するためには、不正受給の防止が不可欠です。所得情報の正確な把握とチェック体制の整備が求められます。
また、対象者が制度を知らずに申請しない「取りこぼし」を防ぐ周知徹底も重要な課題です。せっかくの支援が届かなければ、制度の意義が薄れてしまいます。
各党の公約と動向
立憲民主党の提案
立憲民主党は2024年10月の衆院選から「分厚い中間層の復活」を掲げ、給付付き税額控除の導入を主張してきました。旧民主党政権時代から提唱してきた政策です。
2025年5月には野田佳彦代表が、食料品の消費税率を1年間に限りゼロにする減税策を発表しました。2026年4月の開始を目指し、減税終了後は給付付き税額控除に移行する方針です。
自民党の対応
自民党は物価高対策として、飲食料品を「2年間に限り消費税の対象としないこと」の実現に向けた検討を公約に盛り込んでいます。
低所得世帯への給付金支給など短期的な政策は実施する方針ですが、給付付き税額控除については慎重な姿勢も見せています。
3党間協議の開始
2025年9月、石破茂首相と公明党の斉藤鉄夫代表、立憲民主党の野田佳彦代表が会談し、給付付き税額控除の制度設計について協議入りで合意しました。
政府と与野党は2026年1月にも有識者を交えた「国民会議」を設置し、同年中に具体案をまとめる方針です。2027年度以降の導入が想定されていますが、政治状況により変動する可能性があります。
解決に向けた取り組み
インボイス制度の効果
2023年10月に導入されたインボイス制度は、クロヨン問題の解決に向けた一歩となっています。取引の透明度が増し、取引の詳細が記録として残るため、納税額が適切かどうかの検証がやりやすくなりました。
インボイス制度により、事業者間の取引における消費税の流れが明確になり、所得捕捉の精度向上が期待されています。
マイナンバーの活用
給付付き税額控除を実現するためには、「誰がいくら稼いでいるか」を国が正確に把握する必要があります。マイナンバー制度の活用が鍵となります。
マイナポータル連携により、所得税確定申告の手続きで各種証明書データを一括取得し、自動入力できるようになっています。こうしたデジタル化の進展が、所得把握の精度向上につながると期待されています。
残る課題
しかし、事務手続きの複雑化や、プライバシーへの懸念など、課題も残っています。制度導入の財源確保も重要な論点です。
財源については、医療保険制度の見直しや、超富裕層へのミニマムタックス(最低税率)の拡充などが選択肢として挙げられています。財政を一段と悪化させないための工夫が求められます。
まとめ
給付付き税額控除は、中低所得層への効率的な支援策として期待されていますが、その実現にはクロヨン問題という大きな壁が立ちはだかっています。
インボイス制度やマイナンバーの活用により、所得捕捉の精度は徐々に向上しつつあります。しかし、完全な解決には時間がかかる見通しです。
2026年の衆院選では、各党がどのような具体策を示すかが注目されます。制度の公平性を確保しながら、真に支援を必要とする人に届く仕組みを構築できるかが問われています。有権者として、各党の政策を比較検討する際の参考にしていただければ幸いです。
参考資料:
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