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by nicoxz

食品消費税ゼロで外食店が身構える理由と仕入控除の落とし穴

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はじめに

2026年2月8日投開票の衆院選を前に、与野党が競うように掲げる「食料品の消費税ゼロ」。家計の負担軽減策として歓迎される一方、外食業界からは深刻な懸念の声が上がっています。

コンビニ弁当やスーパーの総菜が非課税になれば、消費税10%が残る外食との価格差はさらに広がります。加えて、食材の仕入れにかかる消費税が控除できなくなることで、納税額が増え、資金繰りが苦しくなる恐れもあります。

本記事では、減税策の恩恵と負担が業態によって大きく異なる構造的な問題を解説し、中小飲食店への影響を検証します。

与野党が掲げる消費税ゼロ政策

各党の公約と財源論

高市早苗首相率いる自民党と連立相手の日本維新の会は、「2年間限定で食料品の消費税をゼロにする」方針を示しています。昨年10月の連立合意書にも「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に法制化の検討を行う」と明記されました。

一方、立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」は、より踏み込んだ「恒久的な食料品消費税ゼロ」を公約に掲げています。今秋からの実施を訴え、財源として基金や剰余金の活用、政府系ファンド創設を例示しています。

食料品の消費税をゼロにするために必要な財源は年間約5兆円と試算されています。大和総研の分析によると、世帯あたり年間約8.8万円の負担軽減になるとされますが、減税競争が財政規律への懸念を招き、円安や長期金利上昇を通じて国民生活に跳ね返る可能性も指摘されています。

「免税」と「非課税」で大きく変わる影響

消費税ゼロといっても、制度設計によって事業者への影響は大きく異なります。ポイントは「免税(ゼロ税率)」と「非課税」の違いです。

免税(ゼロ税率)の場合、売上にかかる消費税はゼロですが、仕入れにかかった消費税は控除可能です。輸出取引がこれに該当し、事業者は仕入れ時に支払った消費税を還付として受け取れます。

一方、非課税の場合は、売上にも仕入れにも消費税がかかりませんが、仕入れ時の消費税を控除することができません。現在の軽減税率(8%)は「軽減課税」であり、非課税とは異なります。

政策がどちらで設計されるかによって、外食店の経営への影響は天と地ほど違ってきます。

外食と中食の価格差がさらに拡大

現行制度での価格差

現在の消費税制度では、店内飲食(イートイン)は標準税率10%、持ち帰り(テイクアウト)は軽減税率8%が適用されます。同じ商品でも食べる場所によって税率が異なる仕組みです。

実際には、多くの飲食店がイートインとテイクアウトで同じ価格を設定しており、税率差を吸収してきました。しかし、消費税ゼロが導入されれば、この対応は困難になります。

消費税ゼロで何が起こるか

食料品の消費税がゼロになった場合、以下のような価格差が生じます。

  • コンビニ弁当(持ち帰り):消費税0%
  • スーパーの総菜(持ち帰り):消費税0%
  • 外食(店内飲食):消費税10%

仮に本体価格1,000円の商品があった場合、テイクアウトなら1,000円、外食なら1,100円となり、100円の差が生じます。この価格差は、特に価格に敏感な学生や家族連れ、シニア層を中心に、外食離れを加速させる可能性があります。

中食市場(コンビニ弁当、スーパーの総菜など)への需要シフトが進めば、厳しい経営環境にある飲食店にとって大きな打撃となります。

仕入税額控除消失の深刻な影響

飲食店の消費税納付の仕組み

外食店が懸念するもう一つの大きな問題が、仕入税額控除の消失です。消費税の納付額は、「売上時に預かった消費税」から「仕入れ時に支払った消費税」を差し引いた金額となります。

例えば、1,000円のラーメンを税込1,100円で販売した場合、飲食店は100円の消費税を預かります。そのラーメンに使った食材の仕入れに50円の消費税を支払っていれば、納税額は差し引き50円です。

この「仕入れ時に支払った消費税を差し引く」仕組みが仕入税額控除です。

非課税化で納税額が跳ね上がる理由

食料品が「非課税」となった場合、飲食店は食材を仕入れる際に消費税を支払いません(請求されません)。しかし問題は、消費税がかからない仕入れは控除の対象にならないことです。

具体的に計算してみましょう。

現行制度の場合:

  • 売上100万円、預かり消費税10万円
  • 食材仕入れ30万円、支払い消費税2.4万円(8%)
  • その他仕入れ20万円、支払い消費税2万円(10%)
  • 納税額:10万円 - 4.4万円 = 5.6万円

食料品非課税の場合:

  • 売上100万円、預かり消費税10万円
  • 食材仕入れ30万円、支払い消費税0円(非課税)
  • その他仕入れ20万円、支払い消費税2万円(10%)
  • 納税額:10万円 - 2万円 = 8万円

このように、仕入れ時に支払う消費税は減りますが、控除できる金額も減るため、結果として納税額が増加します。

資金繰りへの影響

飲食店、特に中小規模の店舗は、日々カツカツの資金繰りで経営しているケースが少なくありません。月商300万円の店舗であれば、消費税の年税額は100万円を超えます。

納税額が増加すれば、納税時期に手元から一気に運転資金が消えることになります。帳簿上は問題なくても、キャッシュフローは別問題です。対策として、毎月の納税額を試算し、普段使わない口座に積み立てておくことが推奨されますが、余裕のない店舗には難しい対応です。

飲食店が取り得る対応策

簡易課税制度の活用

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、簡易課税制度を選択できます。この制度では、実際の仕入れ税額ではなく、業種ごとに定められた「みなし仕入率」で控除額を計算します。

飲食店は第四種事業に該当し、みなし仕入率は60%です。つまり、売上にかかる消費税の40%を納税することになり、実際の仕入れ税額に関係なく計算されます。

食料品が非課税になっても、簡易課税を選択していれば納税額への影響は限定的です。ただし、一度選択すると2年間は変更できないため、慎重な判断が必要です。

価格戦略の見直し

消費税ゼロが導入された場合でも、事業者には価格を引き下げる義務はありません。現に、イートインとテイクアウトで税率が異なる現行制度でも、多くの店舗が同一価格を維持しています。

ただし、競合となる中食市場が価格を下げた場合、外食店も対応を迫られる可能性があります。付加価値の訴求(店内の雰囲気、できたての美味しさなど)によって、単純な価格競争を避ける戦略も検討すべきでしょう。

今後の展望と注意点

制度設計の行方

2026年衆院選の結果次第で、消費税ゼロの具体的な制度設計が決まります。与党案の「2年間限定」か、中道改革連合の「恒久的ゼロ」か。また、「免税」か「非課税」かによっても、事業者への影響は大きく変わります。

専門家からは、外食産業への影響を考慮し、飲食店が仕入れた食材に係る消費税相当額を何らかの形で補填する措置の検討が必要との声も上がっています。

飲食店経営者が今できること

選挙結果を待つ間にも、飲食店経営者ができることはあります。

まず、自店の消費税納付構造を把握しましょう。売上のうち何割が食材仕入れで、その税額がいくらかを確認します。次に、簡易課税と一般課税のどちらが有利かをシミュレーションしておくことも重要です。

また、業界団体を通じた政策提言も検討に値します。すでに外食産業の団体からは懸念の声が上がっており、政策決定過程で事業者の声を反映させる努力が続いています。

まとめ

食料品の消費税ゼロは、家計にとっては嬉しい減税ですが、外食店にとっては複雑な影響をもたらします。中食との価格差拡大による競争激化、仕入税額控除消失による納税額増加、そして資金繰りの悪化リスク。これらは中小飲食店の経営を圧迫しかねません。

減税政策の是非を判断するには、消費者への恩恵だけでなく、経営の厳しい中小事業者への影響を慎重に見極める必要があります。選挙での投票にあたっても、各党の公約の細部と、その実現可能性を吟味することが求められます。

参考資料:

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