富士通が配当1.8倍増へ、業績上振れ分を全額還元
はじめに
富士通が2026年3月期の年間配当を50円に引き上げると発表しました。従来予想の30円から20円の増額で、前期(28円)比では約1.8倍という大幅な増配です。2024年に実施した1株→10株の株式分割を考慮したベースでは、過去最高の配当水準となります。
同社は同日、通期業績の上方修正も発表しており、好調な国内ITサービス事業が業績を力強く押し上げています。注目すべきは「業績の上振れ分は全て株主還元に充てる」という明確な方針を示した点です。本記事では、富士通の決算内容と株主還元戦略、そしてその背景にある事業構造の変化を解説します。
第3四半期決算の好調ぶり
利益が前年同期比で大幅拡大
2026年3月期第3四半期累計(2025年4〜12月)の連結決算は、最終利益が前年同期比で約3.9倍の3,436億円に急拡大しました。直近の10〜12月期(第3四半期)だけを見ても、最終利益は前年同期比55.9%増の816億円と大きく伸長しています。
売上営業利益率は前年同期の7.3%から11.9%へと大幅に改善しました。これは売上高の増加だけでなく、事業構造の転換によるコスト効率の向上が寄与しています。
通期業績を9%上方修正
通期の連結最終利益の見通しは、従来予想の3,900億円から4,250億円へと約9%引き上げられました。前期(2,198億円)と比較すると93.4%増という大幅な増益率です。2期ぶりの最高益更新が見込まれ、その予想をさらに上乗せする形となりました。
なお、この最終利益の大幅増には、ポートフォリオ変革の一環として実施された富士通ゼネラル株式の譲渡による売却益も含まれています。
国内ITサービスとFujitsu Uvanceの躍進
DX・モダナイゼーション需要が追い風
業績好調の最大の要因は、国内市場を中心としたDX(デジタルトランスフォーメーション)およびモダナイゼーション案件の力強い伸長です。企業のレガシーシステム刷新需要は依然として旺盛で、富士通はこの分野で確固たるポジションを築いています。
日本企業のIT投資意欲は高水準を維持しており、特にクラウド移行やAI活用を軸としたシステム刷新案件が拡大しています。富士通はこうした商談を着実に取り込んでいます。
成長ドライバー「Fujitsu Uvance」
富士通の成長戦略の中核を担うのが「Fujitsu Uvance」です。2022年度に2,000億円だった売上は、2024年度には前年比31%増の4,828億円に到達しました。2025年度の目標は7,000億円で、サービスソリューション事業に占める構成比は10%から30%へと高まる見込みです。
Uvanceは、従来の受託開発型SIビジネスからオファリング中心のリカーリング型ビジネスモデルへの転換を象徴する取り組みです。Data & AIを中核とする「Uvance 2.0」への進化を進めており、AIエージェント戦略では「業務特化型」「マルチ」「信頼性」の3本柱を掲げています。
株主還元の強化方針
上振れ分を全額還元するメッセージ
今回の決算で特に注目されるのは、磯部武司CFOが「成長投資は着実に進めている」としたうえで、業績の上振れ分を全て株主還元に充てる方針を明確にした点です。これは成長投資と株主還元を両立させるという富士通の姿勢を端的に示しています。
富士通は2024年3月期から2026年3月期の3年間で合計6,000億円の総還元を計画しています。2025年3月期には1,800億円を上限とする自社株買いも実施しており、配当と合わせた総還元性向は100%を超える水準に達しました。
投資単位の引き下げで個人投資家にも門戸
2024年4月には1株→10株の株式分割を実施し、投資単位当たりの金額を約200万円から約20万円に引き下げました。これにより新NISAの成長投資枠でも購入しやすくなり、個人投資家層の拡大につながっています。
注意点・展望
富士通の業績好調は国内ITサービスの堅調さに支えられていますが、いくつかの注意点があります。最終利益の大幅増には富士通ゼネラル株式の売却益という一時的な要因が含まれており、本業の実力を判断する際には調整後の数字を確認する必要があります。
また、Uvanceの7,000億円目標の達成に向けては、Vertical領域の拡大が課題として残っています。2030年度にはサービスソリューション全体の5割をUvanceで占めるという高い目標が設定されており、パートナー戦略の強化や営業体制の充実が求められます。
今後の焦点は、2026年度以降の次期中期経営計画で成長投資と株主還元のバランスをどう設計するかです。国内DX需要の継続性とグローバル展開の進捗が、中長期的な企業価値を左右するでしょう。
まとめ
富士通の2026年3月期第3四半期決算は、国内ITサービスの好調とUvance事業の成長を背景に大幅な増益を達成しました。配当を年50円に引き上げ、前期比1.8倍という過去最高水準の還元を実現します。業績の上振れ分を全額株主還元に充てるという方針は、成長投資との両立を明確にしたものです。
投資家としては、一時的な売却益を除いた本業の収益力と、Uvance事業の成長軌道を引き続き注視していくことが重要です。
参考資料:
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