世界の社債発行が過去最高540兆円、AI・脱炭素がけん引

by nicoxz

はじめに

世界の企業による社債発行が活況を呈しています。2025年の発行額は前年比11%増の3.4兆ドル(約540兆円)に達し、5年ぶりに過去最高を更新しました。

この記録的な社債発行を支えているのは、人工知能(AI)向けデータセンターへの巨額投資と、自動車など各業界での脱炭素投資です。加えて、世界的な金融緩和の流れと、高い利回りを求める投資家の旺盛な需要が下支えとなっています。

本記事では、社債発行急増の背景、主要企業の動向、そして投資家にとっての意味合いを解説します。

社債発行額が過去最高を更新した背景

AI投資が資金需要を押し上げる

社債発行急増の最大の要因は、テック大手によるAI関連投資の爆発的な拡大です。データセンター建設、AIチップの調達、クラウドインフラの増強に膨大な資金が必要となっています。

米テック大手6社(マイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタ、アップル、エヌビディア)の2025年の設備投資は合計で3000億ドルを超える見通しです。前年から約46%の増加で、そのほとんどがAI関連に振り向けられています。

脱炭素投資の加速

自動車業界を中心に、脱炭素に向けた設備投資も社債発行を押し上げています。電気自動車(EV)の開発・生産には従来のガソリン車の約2倍の投資が必要とされ、各社は資金調達を急いでいます。

グリーンボンド(環境債)の発行も増加傾向にあり、環境改善効果のある事業に限定して資金を使途とする債券が投資家の関心を集めています。

金融緩和が追い風に

世界的な金融緩和の流れも社債市場の活況を後押ししています。米連邦準備制度理事会(FRB)は2024年9月に4年半ぶりの利下げを実施し、その後も段階的に利下げを進めました。欧州中央銀行(ECB)も2024年6月から利下げサイクルに入っています。

金利低下は企業にとって調達コストの低減を意味し、社債発行の好機となります。同時に、債券利回りの低下を見越した投資家が高利回りの社債に資金を振り向ける動きも活発化しました。

テック大手の巨額社債発行

メタの4.6兆円調達に殺到するマネー

米メタは2025年10月、計300億ドル(約4兆6000億円)の社債を発行しました。この募集には4倍強となる1250億ドルもの買い注文が殺到し、投資家の旺盛な需要を象徴する出来事となりました。

調達資金はAI向けデータセンターなどの設備投資に充てられます。メタは2025年の設備投資を前年比約6割増の600億〜650億ドル(約9.4兆〜10.1兆円)とする計画を発表しています。

主要テック企業の社債発行

テック大手4社は過去2か月で計約900億ドルの公募債を発行しました。

  • アルファベット(グーグル親会社): 250億ドル
  • メタ: 300億ドル
  • オラクル: 180億ドル
  • アマゾン: 150億ドル

各社ともAIインフラ投資を資金使途として掲げており、データセンター建設や次世代コンピューティング基盤の整備に資金を投入しています。

今後5年で1.5兆ドル規模の予測

JPモルガンのアナリストは、今後5年間で1兆5000億ドル規模のAIデータセンター向け債券発行が見込まれると試算しています。2030年までに投資適格債券市場の2割を上回る可能性があるとの見方も示されています。

一方で、データセンター向け投資の急増が投資適格市場にとって「重大なリスク要因となりかねない」との警戒感も一部で出ています。

脱炭素投資とグリーンボンド

自動車業界の環境債発行

自動車業界では、EV開発に向けた大型の環境債発行が相次いでいます。

ホンダはドル建てで27.5億ドル(約3100億円)のグリーンボンドを発行しました。2040年までに新車販売での脱エンジンを目指し、2050年には全製品と企業活動を通じた脱炭素を達成する計画です。EV開発などに充てる研究開発費は2021年からの6年間で過去最高となる5兆円を見込んでいます。

グリーンボンド市場の拡大

グリーンボンドは、調達資金の使途が環境改善効果のある事業(グリーンプロジェクト)に限定される債券です。資金が確実に追跡管理され、発行後のレポーティングで透明性が確保されている点が特徴です。

COP28では2025年までの世界全体の排出量のピークアウトの必要性が認識され、再生可能エネルギーをはじめとしたグリーンプロジェクトへの民間資金導入が不可欠とされています。この政策的な後押しもグリーンボンド市場の拡大を支えています。

日本企業の動向

日本企業の社債発行も活発です。2025年に国内で発行された円建て社債は約16兆5000億円と、1999年以降で最高を記録しました。2026年も記録を塗り替える可能性があるとみられています。

国内企業の外債(海外通貨建て債券)発行額も過去最高を更新しており、大型起債や初めての起債に踏み切る企業が増えています。

投資家にとっての社債投資

高利回りへの需要

金融緩和局面では既発の高利回り債券の価値が上がるため、投資家は利下げ前に社債への投資を積極化する傾向があります。国債よりも高い利回りが期待できる社債は、運用難に直面する機関投資家にとって魅力的な投資先となっています。

2025年のメタの社債発行に1250億ドルもの買い注文が集まったことは、投資家の債券需要の強さを如実に示しています。

リスク要因

社債投資には信用リスク(発行企業の債務不履行リスク)が伴います。特に、AI投資が期待通りの収益を生まなかった場合、巨額の設備投資を社債で賄った企業の財務状況に影響が及ぶ可能性があります。

また、テック企業の社債発行が集中することで、市場の偏りが生じるリスクも指摘されています。セクター分散を意識した投資判断が重要になります。

2026年の見通し

社債発行は2026年も高水準が続くと予想されています。AI関連投資は引き続き旺盛で、企業と投資家の双方に需要があるためです。

ただし、FRBの利下げペースは当初の予想より鈍化しており、2026年の利下げ回数は限定的との見方が広がっています。金利動向によっては社債市場の環境が変化する可能性もあり、市場参加者は注視を続けています。

まとめ

2025年の世界の社債発行額は3.4兆ドル(約540兆円)と過去最高を更新しました。AI向けデータセンター投資と脱炭素投資が資金需要を押し上げ、世界的な金融緩和が企業の調達環境を後押ししました。

テック大手による数百億ドル規模の大型起債が相次ぎ、投資家の需要も旺盛です。今後5年でさらに1.5兆ドル規模のAIデータセンター向け発行が見込まれており、社債市場の構造を変える可能性があります。

投資家にとっては高利回りの機会である一方、セクター集中リスクや金利動向への注意も必要です。AI革命と脱炭素という二大テーマが企業の資金需要を牽引する流れは、当面続くと見られています。

参考資料:

関連記事

アサヒのサイバー被害、営業と物流が昭和に逆戻りした教訓

2025年9月29日、アサヒグループがランサムウェア攻撃を受け、システム停止により営業・物流が「昭和に逆戻り」。191万件の個人情報流出の可能性、売上1〜4割減、競合他社も出荷制限に追い込まれた大規模サイバー攻撃の全貌と企業が学ぶべき教訓を詳しく解説します。

最新ニュース