住宅ローンの誤算、年収ピーク時の借入がリースバックに至る理由
はじめに
「住宅ローンを借りた時が年収のピークだった。今になって思えば荷が重かった」。東京都在住の自営業男性(60歳)は2025年秋、自宅を売却し賃借して住み続けるリースバックを契約しました。約12万円の毎月のローン返済が厳しくなったためです。
住宅ローンの完済年齢は近年上昇傾向にあり、借入時点での完済予定年齢の平均は70歳を超えています。定年後も続く返済は、老後の生活設計に大きな影響を与えます。年収ピーク時に組んだローンが、その後の収入減少で重荷になるケースは珍しくありません。
事例:年収800万円時代の借入
40歳で4000万円のローン
この男性が自宅を購入したのは約20年前、40歳の時でした。当時は中小企業でデザイン関係の仕事をしており、大企業からの受注が多く、年収は800万円ほどありました。約4000万円の住宅ローンを組み、35年返済で契約しました。
毎月の返済額は約12万円。年収800万円であれば無理のない金額に思えましたが、その後の人生設計通りには進みませんでした。
収入減少と返済困難
その後、景気の変動や取引先の変化により、収入は徐々に減少。60歳を迎えた今、かつての年収を維持することは難しくなっていました。毎月12万円の返済は生活を圧迫するようになり、リースバックという選択に至りました。
住宅ローンと老後リスク
完済年齢の上昇
住宅購入年齢の上昇や不動産価格の高騰により、住宅ローンの完済年齢は近年上昇傾向にあります。借入時点での完済予定年齢の平均は70歳を超えており、80歳まで返済が続くケースも珍しくありません。
完済年齢が80歳の場合、65歳定年であれば退職後15年間、70歳定年でも退職後10年間はローン返済が続く計算になります。
再雇用と収入減少
定年後に再雇用で働き続けても、給与や役職が下がる傾向にあります。調査によると、高年齢者雇用確保措置を実施している企業の約7割が再雇用制度を採用しており、大半の方の収入が減少しています。
住宅ローンの返済額は変わらないのに、収入が減少すれば、返済負担は相対的に重くなります。
年収カーブの変化
かつての日本企業では、年功序列により年収は定年まで上がり続けるのが一般的でした。しかし、近年は成果主義の導入や経済環境の変化により、40代後半〜50代で年収がピークを迎え、その後は横ばいまたは減少するケースが増えています。
住宅ローンを組む際に、将来の収入増加を前提とした返済計画を立てると、計画通りにいかないリスクがあります。
リースバックとは
仕組みの概要
リースバックとは、自宅を売却して現金化し、売却後も賃貸として住み続けることができるサービスです。売却代金でまとまった資金を調達しながら、住み慣れた自宅に住み続けられることが最大の特徴です。
調達した資金は、住宅ローンの返済、老後資金の確保、医療・介護費用など、様々な用途に利用できます。
メリット
リースバックには以下のようなメリットがあります。
- 住宅ローンの利息負担がなくなる
- 固定資産税など物件所有に伴う税金の負担がなくなる
- 修繕費の負担がなくなる
- まとまった現金を手元に確保できる
- 住み慣れた自宅に住み続けられる
- 近隣に売却を知られにくい
デメリットと注意点
一方で、以下のような注意点もあります。
- 売却後は家賃の支払いが必要になる
- 売却価格が市場相場より低くなることがある
- 家賃が相場より高くなることがある
- 自宅の所有権を失う
- 賃貸期間に制限がある場合がある
- 将来、退去を求められる可能性がある
リースバック利用の条件
住宅ローン残債との関係
リースバックを利用するには、売却代金で住宅ローンを一括返済できることが条件となります。残債があっても売却代金で完済できれば問題ありませんが、売却代金や自己資金で残債を支払えない「オーバーローン」の状態では、利用が難しくなります。
与信力の確認
リースバックでは売却後も家賃を毎月支払うことが前提です。そのため、家賃支払い能力を証明するための与信力が求められます。安定した収入があるか、年金収入で家賃を賄えるかなどが審査されます。
任意売却という選択肢
オーバーローンの状態で、自己資金も用意できない場合は、任意売却を検討する選択肢もあります。任意売却は競売を避けながら、金融機関との交渉で残債を整理する方法です。
住宅ローンの返済リスクを減らすには
無理のない借入額
住宅ローンを組む際は、現在の年収だけでなく、将来の収入変動リスクも考慮することが重要です。年収のピークを過ぎた後も無理なく返済できる金額に設定することが、老後の安心につながります。
繰上返済の活用
余裕がある時期に繰上返済を行い、完済年齢を前倒しすることも有効です。定年前に完済できれば、老後の返済負担をなくすことができます。
定期的な見直し
ライフプランの変化に合わせて、住宅ローンの返済計画を定期的に見直すことも大切です。借り換えによる金利引き下げや、返済期間の延長など、状況に応じた対応が可能です。
まとめ
「借りた時が年収のピークだった」という誤算は、多くの住宅ローン利用者に起こりうる問題です。年収カーブの変化や再雇用による収入減少を考慮せずに組んだローンが、老後の生活を圧迫するケースが増えています。
リースバックは、住宅ローンの返済に行き詰まった際の選択肢の一つです。住み慣れた自宅に住み続けながら資金を調達できますが、条件やデメリットを十分に理解した上で検討することが重要です。
住宅ローンを組む際は、将来の収入変動リスクを織り込んだ慎重な計画が求められます。
参考資料:
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