如月千早が武道館で単独公演、ソニー技術で実現した新時代ライブ
はじめに
2026年1月24日と25日の2日間、東京・日本武道館で異例のライブが開催されました。ステージに立ったのは、バンダイナムコエンターテインメントのゲーム「アイドルマスター」シリーズに登場するキャラクター・如月千早です。2次元のアイドルが「音楽の聖地」とも呼ばれる武道館で単独公演を行うという、エンターテインメント史に新たな一ページを刻む出来事となりました。
この公演では、ソニーグループが開発した最新のロボット技術「groovots(グルーボッツ)」が初めて大規模に導入され、MR(複合現実)技術と融合した演出が実現しています。本記事では、この公演の背景にある技術と、2次元アイドルのライブエンターテインメントが切り開く新たな可能性について解説します。
如月千早武道館単独公演「OathONE」の全貌
シリーズ初のアイドル単独ライブ
如月千早は、2005年にスタートした「アイドルマスター」シリーズに初期から登場するキャラクターです。300人以上いるアイマスのキャラクターの中でも、特に音楽への強い思い入れを持つ存在として知られています。今回の武道館単独公演「OathONE(オースワン)」は、20年以上の歴史を持つシリーズにおいて、キャラクター個人による初めての単独ライブとなりました。
公演は当初1月24日の1日のみの予定でしたが、応募多数により翌25日に追加公演が決定しています。会場オリジナルCDも制作され、新曲「輝夜」を含む全11曲を収録。「蒼い鳥」「眠り姫」など如月千早の代表曲が、本公演のためにリレコーディングされた特別バージョンで披露されました。
2日目には他ブランドとの「蒼」の系譜も
追加公演となった2日目では、「学園アイドルマスター」の月村手毬による楽曲「アイヴイ」が披露されるなど、他ブランドのキャラクター楽曲も取り上げられました。シリーズの枠を超えた「蒼の系譜」として、音楽を通じたキャラクター間のつながりが表現された演出は、来場者から大きな反響を得ています。
ソニーの群ロボット「groovots」が切り開く演出の新次元
groovots とは何か
「groovots」は、ソニーが開発中のエンターテインメント向け群ロボットシステムです。LEDパネルを搭載した複数のロボットが自律的に移動し、その動きや映像表示が音響・照明と高精度に同期することで、従来にない空間演出を実現します。
開発を担当しているのは、ソニーグループ内でペットロボット「aibo」やドローン「Airpeak S1」を手がけてきた技術チームの系譜にあるエンジニアたちです。エンターテインメントとロボティクスの知見を融合させた、ソニーならではのプロジェクトといえます。
精密な制御を支える3つのコア技術
groovots の技術基盤は、3つの要素で構成されています。
1つ目は「センシング」です。タイヤの回転数によるオドメトリに加え、筐体に搭載したカメラで床面のマーカーを検出することで、1cm以下の精度での位置制御を実現しています。ソニーセミコンダクタ製のイメージセンサー「IMX471」やLiDARも搭載されています。
2つ目は「モーション」です。滑らかな加減速制御により、ステージ上での自然な動きを実現します。
3つ目は「通信」です。タイムコード同期技術により、音響や照明と完全に同期した演出が可能となっています。
武道館での初の大規模導入
今回の公演では、約0.3m×1.3m(幅×高さ)の標準サイズのロボットに加え、本公演のために新たに開発された約2m×2mの大型モデルが初めて投入されました。大型・小型合わせて計13台のgroovots がステージ上を自律移動し、如月千早のパフォーマンスと完璧にシンクロする演出を披露しています。
MRプロジェクトが実現した「アイドルの実在性」
2022年から続く技術的挑戦
今回の武道館公演は、バンダイナムコエンターテインメントが2022年7月に始動させた「“MR”-MORE RE@LITY-プロジェクト」の集大成ともいえる位置づけです。このプロジェクトは、xR(VR・AR・MRの総称)やリアルタイムモーションキャプチャ技術を活用し、ゲーム内のキャラクターであるアイドルたちの活動を現実世界に拡張することを目指しています。
バンダイナムコ研究所が開発したリアルタイムキャラクターコントロール統合技術や、同社保有のxRスタジオ「MIRAIKEN studio」の4面LEDを活用した制作環境が、こうした表現を技術的に支えています。
バンダイナムコとソニーの戦略的提携
本公演は、2025年7月に発表されたバンダイナムコホールディングスとソニーグループの戦略的業務提携の成果でもあります。バンダイナムコエンターテインメントが演出の企画・制作を主導し、ソニーPCLが技術面でのディレクションを担当するという役割分担で実現しました。
IPコンテンツの豊富さを持つバンダイナムコと、エンターテインメント技術に強みを持つソニーの協業は、今後のライブエンターテインメント市場に大きな影響を与える可能性があります。
注意点・展望
「ホログラム」ではないという事実
2次元キャラクターのライブについて「ホログラム」という表現が使われることがありますが、現時点で用いられている技術は厳密にはホログラムではありません。LEDパネルや半透明スクリーンへの投影、MR技術を組み合わせた演出が主流です。技術の正確な理解は、今後の発展を見守る上でも重要です。
エンターテインメント産業への波及効果
如月千早の武道館公演が示した最も重要な点は、技術がエンターテインメントの本質を損なわないということです。取材者からは「技術への関心はいつの間にか『アイドルそのもの』への感動に変わっていた」という声が上がっています。裸眼で楽しめるMR体験の実現は、特殊なデバイスを必要としないライブエンターテインメントの新しい形として、業界全体に影響を与えるでしょう。
今後、groovots の技術はアイドルマスター以外のIPや、音楽以外のエンターテインメント領域への展開も期待されます。ソニーとバンダイナムコの提携関係がどのような新しい体験を生み出していくのか、注目が集まっています。
まとめ
如月千早の日本武道館単独公演「OathONE」は、2次元アイドルのライブエンターテインメントが新たな段階に到達したことを示す画期的な出来事でした。ソニーの群ロボット「groovots」の大規模導入とMR技術の活用により、キャラクターが実際にそこにいるかのような体験が実現しています。
バンダイナムコとソニーの戦略的提携、そして20年にわたるアイドルマスターシリーズの蓄積が結実した本公演は、IPビジネスとテクノロジーの融合がもたらす可能性を明確に示しました。エンターテインメントの未来を考える上で、この事例は重要な参照点となるでしょう。
参考資料:
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