130万円の壁、本丸「3号」見直しなぜ進まないのか
はじめに
「年収130万円の壁」を巡る議論が、2026年2月8日投開票の衆院選でも十分に深まりませんでした。配偶者の扶養に入っている人の年収が130万円に達すると社会保険料が発生するため、パートタイム労働者を中心に「働き控え」の原因となっています。
問題の根本にある「第3号被保険者制度」の廃止にまで踏み込む政党は一部にとどまり、厚生労働省は2026年度に実態調査を予定しています。一方で、2026年には106万円の壁撤廃や130万円の壁の緩和など、段階的な改革が進む予定です。この記事では、年収の壁を巡る制度改革の全体像と課題を解説します。
「年収の壁」とは何か
130万円の壁の仕組み
会社員や公務員の配偶者で、年収が130万円未満の人は「第3号被保険者」として、自ら保険料を負担せずに国民年金や健康保険の恩恵を受けることができます。しかし年収が130万円に達すると、自ら社会保険に加入して保険料を支払う必要が生じます。
この境界線が「130万円の壁」と呼ばれ、パートで働く人が年収130万円を超えないように勤務時間を調整する「働き控え」の要因となっています。手取り収入が一時的に減少する逆転現象が起きるため、年末になると勤務時間を大幅に削る労働者が増える問題が長年指摘されてきました。
106万円の壁との違い
130万円の壁に加えて、「106万円の壁」も存在します。従業員51人以上の企業で週20時間以上働くパートは、年収106万円以上で厚生年金への加入が必要になります。この2つの壁が複雑に絡み合い、働く側にとって分かりにくい制度となっています。
2026年の制度改正の全体像
106万円の壁:2026年10月に撤廃
最も大きな改革は、106万円の年収要件の撤廃です。2026年10月から、パートなど短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件が廃止されます。週の労働時間が20時間以上であれば、年収に関係なく厚生年金に加入することになります。
さらに2027年10月には企業規模要件(従業員51人以上)も撤廃される予定です。この改正により、新たに約200万人がパートとして厚生年金に加入する見通しです。
保険料負担の増加に対しては、年収156万円未満の加入者について企業が保険料の一部を肩代わりできる仕組みが導入されます。肩代わりの割合は企業の判断に委ねられますが、全額負担は認められません。
130万円の壁:2026年4月から緩和
2026年4月からは、130万円の壁の判定方法が変更されます。従来は実際の収入で判断されていましたが、今後は「労働契約書ベースの年間収入見込み」で判定されるようになります。
具体的には、労働契約上の年収が130万円未満であれば、残業代などで一時的に130万円を超えても、すぐには扶養から外れない扱いとなります。これにより、繁忙期の残業を恐れて勤務を控えるケースが減ることが期待されています。
本丸「第3号被保険者制度」の問題
なぜ3号は問題なのか
第3号被保険者制度は、会社員の配偶者(主に専業主婦やパート主婦)が保険料を支払わずに基礎年金を受け取れる仕組みです。この制度には根本的な問題が複数指摘されています。
まず、共働き世帯や単身世帯との公平性の問題があります。第3号被保険者の保険料は実質的に厚生年金制度全体で負担しており、共働き世帯や独身の労働者が間接的に他人の配偶者の年金を支えている構図になっています。
次に、女性のキャリア形成を阻害しているとの指摘があります。第3号被保険者の大半は女性であり、扶養の範囲内で働くことを経済的に有利にする制度設計が、女性の就労拡大を妨げ、男女間賃金格差を生む一因となっています。
廃止に踏み込めない政治的背景
第3号被保険者は約700万人にのぼるとされ、制度の廃止は直接的に影響を受ける世帯が膨大です。選挙を控えた政党にとって、700万人の有権者に負担増を求める政策は打ち出しにくいのが実情です。
連合(日本労働組合総連合会)は「全被用者への被用者保険の完全適用」と「第3号被保険者制度の廃止」を明確に主張しています。しかし、今回の衆院選では制度の根本改革まで踏み込む政党は限定的でした。
厚労省の実態調査
厚生労働省は2026年度に第3号被保険者の実態調査を予定しています。この調査では、第3号被保険者がどのような働き方をしているのか、制度がどの程度就労行動に影響を与えているのかを把握することが目的です。調査結果は、選挙後の社会保障改革の議論の基礎資料となる見込みです。
注意点・展望
制度改正の影響を正しく理解する
2026年の制度改正は段階的に進むため、自分がいつ・どの改正の影響を受けるかを正確に把握することが重要です。106万円の壁の撤廃は2026年10月、130万円の壁の緩和は2026年4月からと時期が異なります。
勤務先の企業規模や労働時間によっても適用条件が変わるため、不明な点は勤務先の人事部門や社会保険労務士に確認することをおすすめします。
「壁」の先にある手取りの変化
社会保険への加入は短期的には手取りの減少につながりますが、中長期的には厚生年金の受給額増加や傷病手当金・出産手当金といった保障の充実というメリットがあります。「壁を超えると損」という単純な見方ではなく、将来の年金や保障を含めた総合的な判断が求められます。
選挙後の社会保障改革に注目
今回の衆院選で自民党が大勝した場合、高市政権のもとで社会保障改革がどう進むかが焦点となります。第3号被保険者制度の廃止は数年単位の議論になると見られますが、厚労省の実態調査結果を踏まえて、2027年以降に本格的な制度改革の方向性が示される可能性があります。
まとめ
年収の壁を巡る改革は、2026年に大きな転換期を迎えます。106万円の壁の撤廃と130万円の壁の緩和は着実に進んでいますが、問題の根本である第3号被保険者制度の見直しは依然として政治的ハードルが高い状況です。
約700万人に影響する制度改革だけに、拙速な対応は避けるべきですが、少子高齢化と労働力不足が深刻化する中、制度の持続可能性を確保するための議論は避けて通れません。厚労省の実態調査結果と選挙後の政策論議に注目が集まります。
参考資料:
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