労働力人口7000万人突破でも人手不足が続く理由
はじめに
総務省が2026年1月30日に発表した2025年の労働力調査で、労働力人口が7004万人に達し、初めて7000万人の大台を突破しました。就業者数も6828万人と過去最高を記録しています。人口減少が進む日本で、なぜ労働力人口は増えているのでしょうか。
その背景には、女性や高齢者の労働参加率の大幅な上昇があります。しかし、パートやアルバイトなど短時間勤務の増加により、1人当たりの就業時間は減少傾向にあります。数字の上では働き手が増えているにもかかわらず、多くの企業が深刻な人手不足に直面しているのが現状です。
本記事では、労働力人口7000万人突破の内訳を分析し、人手不足が解消されない構造的な要因と、2026年以降の制度改正がもたらす影響について解説します。
労働力人口7000万人の内訳と特徴
女性の労働参加が急拡大
労働力人口7000万人突破の最大の要因は、女性の労働参加率の上昇です。2025年平均の女性労働力人口は3200万人で、前年比43万人の増加となりました。男性の増加が5万人にとどまったのに対し、女性の伸びが全体の増加を牽引しています。
日本の15〜59歳の女性就業率は74.4%に達しており、かつて問題視された「M字カーブ」の谷も大幅に浅くなっています。2000年に58.7%だった女性就業率が20年余りで約16ポイント上昇した計算です。この伸び幅は主要先進国の中でもトップクラスの水準にあります。
高齢者の就業が21年連続増加
もう一つの大きな要因が高齢者の就業拡大です。65歳以上の就業者数は930万人と21年連続で増加し、就業者全体に占める割合は13.7%と過去最高を更新しました。働く人のおよそ7人に1人が65歳以上の高齢者という状況です。
国際比較でみても、日本の高齢者就業率は際立っています。55〜64歳の就業率は78.7%でOECD平均の64%を大きく上回り、65〜69歳でも52%とOECD平均の29%のほぼ倍の水準です。年金支給開始年齢の引き上げや健康寿命の延伸に加え、賃金上昇が高齢者の就労意欲を後押ししています。
正規雇用も11年連続増加
注目すべき点として、正規の職員・従業員数が3708万人と前年比54万人増加し、11年連続の増加を記録したことが挙げられます。人手不足を背景に、企業が非正規から正規への転換を進めていることや、処遇改善による人材確保の動きが反映されています。
人手不足が解消されない構造的要因
就業時間の減少が労働供給力を相殺
労働力人口が増えても人手不足が解消されない最大の理由は、1人当たりの就業時間の減少です。パートやアルバイトなど短時間で働く人の割合が増えており、頭数は増えても総労働時間としては十分に伸びていません。
特に「年収の壁」の影響は大きく、パート労働者の多くが年収103万円や130万円を超えないよう労働時間を調整しています。第一生命経済研究所の試算によると、就業調整がなければ約250万人分のパート労働力が追加で得られた計算になります。さらに賃上げが進むことで時給が上がり、同じ年収枠内で働ける時間がさらに短くなるという逆説的な状況も生じています。
業種・地域による偏在
人手不足は全産業で均等に起きているわけではありません。帝国データバンクの調査では、正社員が不足している企業の割合は50.8%に達していますが、建設、運輸、宿泊・飲食、介護などの現場労働を中心とする業種で特に深刻です。
産業別の就業者数をみると、「医療・福祉」は947万人と25万人の増加で最も伸びた一方、「卸売業・小売業」は16万人減、「製造業」は13万人減と、業種間の明暗が分かれています。また、大企業よりも中堅・中小企業、都市部よりも地方での人材確保がより困難な状況にあり、地域間格差も拡大しています。
人手不足倒産の増加
人手不足の深刻さを端的に示すのが、人手不足を原因とする倒産の増加です。2025年1月から10月までの人手不足倒産は323件と、前年同期比30.7%増で過去最多を更新しました。必要な人材を確保できず事業の継続が困難になる企業が増えている現実は、労働力人口の増加だけでは問題が解決しないことを物語っています。
2026年の制度改正と今後の展望
「年収の壁」の段階的見直し
2026年は労働供給に影響を与える制度改正が相次ぎます。まず2026年4月から「130万円の壁」の判定方法が変更され、残業代を含めずに年収を計算できるようになります。これにより、パート労働者は残業代を気にせず働けるようになります。
さらに大きな変化が2026年10月に予定されている「106万円の壁」の撤廃です。社会保険加入の賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃され、週20時間以上働くパート労働者の多くが社会保険の対象となります。所得税の非課税上限も178万円に引き上げられる予定で、就業調整の緩和が期待されています。
中長期的な課題は依然として深刻
制度改正による効果が期待される一方で、中長期的な見通しは楽観できません。労働政策研究・研修機構(JILPT)の予測では、労働力人口は2030年に6556万人、2040年には6002万人まで減少する見込みです。女性や高齢者の労働参加率がすでに高い水準に達しているため、今後の伸びしろは限られています。
企業にとっては、DXによる省力化、外国人材の活用、柔軟な働き方の整備など、複合的な対策が不可欠です。単に人を増やすだけでなく、限られた労働力をいかに効率的に活用するかという視点がこれまで以上に重要になっています。
まとめ
2025年の労働力人口が7000万人を突破したことは、女性と高齢者の労働参加が着実に進んだ成果です。しかし、短時間勤務の増加による就業時間の減少、業種・地域による人材の偏在、そして中長期的な生産年齢人口の減少という構造的課題は変わっていません。
2026年には「年収の壁」の見直しが段階的に実施され、パート労働者の就業調整が緩和される見通しです。ただし、それだけで人手不足が解消されるわけではありません。企業も個人も、労働の質と生産性の向上に目を向けることが、今後の日本経済の持続的な成長にとって欠かせない課題です。
参考資料:
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