被災地を裏切るいわき信組不正 公的資金200億円を受けた金融機関の背信
はじめに
金融業を営むうえで最も大切な信用は、完全に失墜しました。福島県のいわき信用組合(いわき市)について、東北財務局が同信組と旧経営陣を福島県警に刑事告発し、受理されました。金融庁・東北財務局は虚偽説明など「協同組合による金融事業に関する法律」違反にあたるとみています。
いわき市は、2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故の被災地域における中核の「30万都市」です。同信組は公的資金の注入を受け、被災地の金融インフラとして復興を支えるはずでした。その信組が約20年にわたり不正融資を続け、反社会的勢力に資金を流していた実態は、被災地への重大な背信行為といえます。
刑事告発の概要
東北財務局として初の刑事告発
2026年1月21日、東北財務局は福島県警察に対し、いわき信用組合に係る虚偽報告および虚偽答弁について告発を行いました。東北財務局が金融機関を刑事告発するのは初めてのことです。
金融当局が預金を取り扱う金融機関を告発するのは極めて異例で、直近では2004年の旧UFJ銀行、2010年の旧日本振興銀行に対する銀行法違反(検査忌避)での刑事告発以来です。
虚偽報告の実態
旧経営陣は、反社会的勢力との関係性が明るみに出るのを恐れ、隠蔽を図りました。2025年11月に東北財務局から報告徴求命令を受けたにもかかわらず、事実と異なる答弁を続けました。
特に悪質だったのは、無断借名融資リストを保管したパソコンについての説明です。当初「ハンマーで壊した」と説明していましたが、後に「役員に返し、廃棄された」と説明を変えました。監督官庁を欺き続けた責任は極めて重いと判断され、異例の刑事告発に至りました。
約20年にわたる不正の全容
不正融資の規模
特別調査委員会の報告によると、2004年3月期から2025年3月期までの不正融資の実行額は合計279億8400万円に上ります。そのうち254億3300万円は不正融資の返済や利息などの支払いとして組合に還流しましたが、残りの25億5100万円が反社会的勢力や大口融資先などの外部に流出したと考えられています。
不正の手口
不正は2004年3月から始まりました。まずペーパーカンパニー3社を通じた迂回融資を開始し、2007年3月ごろからは預金者の口座を使った架空融資へとエスカレートしました。
架空融資では、預金者に無断で口座を悪用し、融資を実行したように見せかけて資金を流出させました。第三者委員会の調査では、偽造口座87件、17億円超の不正が確認されています。
震災後の隠蔽工作
2011年3月の東日本大震災後、融資先企業の経営が困難となったにもかかわらず、架空口座から返済があったように見せかける工作が行われました。
さらに深刻なのは、公的資金注入直後の2012年3月ごろから、架空融資に使った口座の償却が始まったことです。第三者委員会は、自己資本が手厚くなったことをきっかけに不正の穴埋めを進めた可能性を指摘しています。つまり、被災地支援のための公的資金が、不正融資の後始末に使われた疑いがあるのです。
反社会的勢力への資金提供
約10億円の資金流出
いわき信用組合は、1992年頃から反社会的勢力やゆすりに来た複数の情報誌経営者らに、約10億円を支払っていたことが発覚しました。本店や幹部宅への右翼団体の街宣活動を止めさせるための資金提供でした。
金融機関が反社会的勢力と資金的なつながりを持つことは、金融システム全体の健全性を損なう重大な問題です。いわき信組は、この関係を約30年以上にわたって維持し、組合員の預金を原資に資金を流し続けていました。
組織的な隠蔽体質
反社会的勢力との関係は、特定の個人による逸脱行為ではなく、経営陣が組織的に関与していた疑いがあります。金融庁は「旧経営陣が反社会的勢力との関係性が明るみに出るのを恐れ、隠蔽を図った」と指摘しています。
公的資金の扱いと返済計画
震災特例で200億円注入
いわき信用組合は2012年1月、東日本大震災の復興支援を目的とした「金融機能強化法」に基づく震災特例として、200億円の公的資金を受けました。内訳は整理回収機構から175億円、全国信用協同組合連合会から25億円です。
この資金は、被災地の中小企業や住民の生活再建を金融面から支えるために注入されたものでした。それが不正融資の穴埋めに使われた疑いがあることは、公的資金の趣旨を根本から裏切る行為です。
60億円の返済計画
2026年1月、いわき信用組合は200億円の公的資金のうち60億円を2026年度内に返済するとした経営強化計画を金融庁に提出し、認定を受けました。
しかし、残る140億円の返済見通しは不透明です。不正融資による損失や旧経営陣への損害賠償請求の帰趨によっては、公的資金が毀損するリスクも残されています。
行政処分と損害賠償請求
業務停止命令と改善命令
金融庁は2025年10月31日、いわき信用組合に対し、11月17日から1カ月間の新規顧客に対する融資業務の一部停止処分を発出しました。また、経営責任の明確化、反社会的勢力との取引遮断、全役職員への研修などを求める2度目の業務改善命令も出されています。
旧経営陣への32億円賠償請求
2025年12月19日、いわき信用組合は長年にわたる不正融資や反社会的勢力への資金提供に関わったとして、旧経営陣20人を相手取り、約32億円の損害賠償を求めて福島地裁いわき支部に提訴しました。
現経営陣が旧経営陣の責任を法的に追及する姿勢は評価できますが、訴訟の結果如何によっては、組合員(預金者)が被害を被る可能性も残されています。
被災地金融の信頼回復に向けて
地域金融機関の役割
いわき市は人口約30万人を擁する福島県浜通りの中核都市であり、原発事故からの復興途上にあります。地域金融機関は、中小企業への融資や住民の生活資金を支える重要なインフラです。
その地域金融機関が約20年にわたって不正を続けていた事実は、被災地の金融システム全体への信頼を揺るがしかねません。
徹底した真相究明を
福島県警による捜査の徹底が求められます。誰がどのような経緯で不正融資を始め、反社会的勢力との関係を構築したのか。公的資金が不正の穴埋めに使われた実態はどうだったのか。すべての真相が明らかにされなければなりません。
また、金融庁・東北財務局による監督体制の検証も必要です。約20年もの長期間にわたって不正を見抜けなかった監督のあり方についても、反省と改善が求められます。
まとめ
いわき信用組合の不正事案は、被災地支援のために注入された公的資金が、不正融資の穴埋めに使われた可能性があるという点で、極めて深刻な背信行為です。約20年にわたる不正融資と反社会的勢力への資金提供、そして監督官庁への虚偽報告は、金融機関としての信用を完全に失墜させました。
東北財務局による刑事告発は異例の対応ですが、その悪質性を考えれば当然の判断といえます。福島県警の徹底した捜査と、関係者の責任追及を通じて、被災地の金融システムへの信頼回復を図ることが急務です。
参考資料:
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