いわき信組を刑事告発へ、20年続いた不正融資の全容
はじめに
福島県いわき市に本店を置くいわき信用組合(いわき信組)に対し、東北財務局が週内にも刑事告発に踏み切る見通しとなりました。約20年にわたって続けられた不正融資の総額は247億円を超え、反社会的勢力への資金提供も発覚しています。
金融庁の調査に対する虚偽報告や虚偽答弁が「協同組合による金融事業に関する法律(協金法)」違反にあたると判断されたことが、今回の告発につながりました。この事案を受けて、金融庁は全国の信用金庫・信用組合に対する監視体制の強化と法改正を進める方針です。
本記事では、いわき信組の不正融資問題の全容と、金融庁が打ち出す再発防止策について詳しく解説します。
いわき信組で発覚した不正融資の実態
247億円に及ぶ不正融資の手口
いわき信組の不正融資は、2004年から2024年にかけて組織的に行われていました。特別調査委員会の報告によると、不正融資の総額は少なくとも1,293件、約247億7,000万円に達しています。
主な不正の手口は以下の通りです。
迂回融資:業況が悪化した大口融資先を救済するため、事業実態のないペーパーカンパニーを経由して資金を供給していました。大口信用供与等規制を逃れるための脱法行為でした。
無断借名融資:預金者に無断で口座を偽造し、架空の融資を実行していました。名義人の承諾を得ずに開設した口座は87件に上り、17億円超の不正が行われました。
これらの不正は歴代の幹部によって引き継がれ、秘密裏に管理されていたことも判明しています。
反社会的勢力への9億5,000万円の資金提供
特別調査委員会の追加調査により、いわき信組が反社会的勢力に約9億5,000万円を提供していた事実が明らかになりました。
この問題の発端は1990年代にさかのぼります。右翼団体による街宣活動を止めるための「解決料」名目で現金を提供したのが始まりでした。その後も関係を断つことができず、資金提供や融資を継続していたとされています。
ある報道によれば、街宣活動中止のために3億円が支払われ、ホテル購入に際しては水増し融資も行われていました。金融機関として毅然とした態度で関係を遮断するという社会的責任を果たさず、不正行為によって隠蔽を続けてきたことが厳しく批判されています。
第三者委員会の厳しい評価
第三者委員会は今回の事案について「我が国の金融機関の歴史を見ても類例をみないほどに悪質」と評価しました。
経営陣のガバナンス欠如、理事会による監視機能の不全、法令遵守意識の著しい低さなど、組織全体の問題が指摘されています。
刑事告発の理由と法的根拠
虚偽報告・虚偽答弁による協金法違反
東北財務局による刑事告発の直接的な理由は、金融庁の調査に対する虚偽報告と虚偽答弁です。
いわき信組が金融庁に提出した調査報告書には、事実と異なる内容が含まれていました。また、立ち入り検査の際にも事実と異なる答弁が行われたとされています。
さらに深刻な問題として、重要情報が保存されていたパソコンについて「破壊した」と説明していたにもかかわらず、実際には当時の役員に渡していたことが判明しました。これは証拠隠滅を図った疑いがあります。
協同組合による金融事業に関する法律では、監督当局への虚偽報告や検査妨害に対して罰則が規定されています。
行政処分の経緯
金融庁は2025年10月31日、いわき信組に対して一部業務停止を含む業務改善命令を発出しました。具体的には、2025年11月17日から12月16日までの1か月間、新規顧客への融資業務を停止するよう命じました。
また、経営管理態勢および法令等遵守態勢の確立・強化、経営責任の明確化(責任追及を含む)などが求められています。
公的資金注入と資本支援の問題
震災後の200億円規模の公的資金
いわき信組は2011年の東日本大震災後、2012年に震災特例として公的資金の注入を受けました。全国信用協同組合連合会(全信組連)を通じて、実質的に公的性格を持つ200億円規模の資本支援が行われています。
この公的資金を注入された金融機関は、2026年1月から2月にかけて返済計画の作成期限(注入から14年)を迎えます。経営改善が進めば返済への道筋がつきますが、困難な場合は「事業再構築・資本整理」に移行します。
50億円の追加資本支援後に発覚した反社関係
全信組連は2025年3月、いわき信組に対して優先出資として50億円の追加資本支援を実施しました。しかし、この支援後に反社会的勢力との関係が明らかになったことから、全信組連関係者は「言語道断だ」と憤りを示しています。
いわき信組が「再構築型」に移行した場合、公的資金の棄損という問題が生じます。これが現実となれば、2003年11月に経営破綻した足利銀行以来のケースとなり、金融機能強化法のもとでは初めての事態となります。
金融庁による監視強化と法改正の動き
信金・信組への検査体制の刷新
金融庁は信用金庫と信用組合に対する検査の運用を抜本的に見直します。
従来は各地の財務局が主に検査を担当していましたが、今後は金融庁が企業統治や財務状況などテーマ別にデータを分析・監視する体制に移行します。要注意先や実地検査で重点的に確認すべき項目を財務局と共有し、不祥事や財務リスクの早期発見につなげる狙いです。
2025年8月に公表された「2025事務年度金融行政方針」にも、協同組織金融機関に対するモニタリング強化の方針が明記されています。
外部監査役員の義務化と再建計画変更命令
金融庁は公的資金を注入した金融機関に対する監視も強化します。
主な施策として、不祥事が発覚した場合に再建計画の変更を金融庁が命令できる仕組みの導入が検討されています。また、信用金庫や信用組合に対して、外部から経営を監査する役員を1人以上置くことを義務付ける方針です。
これらの施策は、2025年中に金融庁が策定する「地域金融力強化プラン」に盛り込まれる予定です。
他の金融機関でも問題が顕在化
信金・信組を巡っては、いわき信組以外でも問題が表面化しています。
栃木信用金庫では、日銀の利上げに伴い保有する日本国債の含み損が自己資本を上回り、金融庁の「早期是正措置」の基準に抵触しました。2025年7月、信金中央金庫から50億円規模の資本支援を受けています。
こうした事例が相次いでいることが、金融庁による監視強化の背景にあります。
注意点・今後の展望
地域金融機関のガバナンス課題
いわき信組の事案は、地域金融機関におけるガバナンスの脆弱性を浮き彫りにしました。
特に問題なのは、不正が約20年にわたって発覚しなかった点です。理事会による監視機能が形骸化し、外部からのチェックも十分に機能していませんでした。協同組織金融機関は会員・組合員による相互扶助を理念としていますが、その閉鎖性がガバナンス不全につながるリスクがあることが改めて認識されました。
刑事告発後の展開に注目
東北財務局による刑事告発後、捜査当局がどこまで責任を追及するかが注目されます。
元役員らの個人責任がどの程度問われるのか、また組織としてのいわき信組に対してどのような処分が下されるのかは、今後の信金・信組の経営に対する警鐘となるでしょう。
預金者・地域経済への影響
いわき信組は福島県いわき市を中心に地域経済を支えてきた金融機関です。今回の問題により、預金者や融資先企業への影響が懸念されます。
全信組連による資本支援で当面の経営は維持されていますが、信頼回復には相当の時間がかかると見られています。
まとめ
いわき信用組合の刑事告発は、地域金融機関のガバナンス問題に一石を投じる重大な事案です。約20年にわたる不正融資、反社会的勢力への資金提供、調査に対する虚偽報告など、その内容は「類例をみないほど悪質」と評されています。
金融庁は今回の事案を受けて、信用金庫・信用組合への監視体制を強化し、外部監査役員の義務化や再建計画変更命令などの法改正を進める方針です。
地域金融機関を利用する方は、自身の取引先のガバナンス体制や経営状況に関心を持つことが重要です。また、金融機関関係者は、今回の事案を他山の石として、自組織のコンプライアンス体制を再点検する必要があるでしょう。
参考資料:
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