いわき信組が刑事告発へ、20年の不正融資と虚偽答弁の全容
はじめに
福島県いわき市に本部を置くいわき信用組合が、約20年にわたり不正融資を続けていた問題で、東北財務局が週内にも刑事告発に踏み切る見通しとなりました。告発の理由は、金融当局の検査において虚偽の報告や答弁を行ったことが協同組合による金融事業に関する法律(協金法)に違反すると判断されたためです。
この事件は、地域金融機関のガバナンス(企業統治)の脆弱性を浮き彫りにしました。反社会的勢力への約10億円の資金流出、歴代理事長による不正の隠蔽、そして当局検査への虚偽対応という三重の問題が絡み合っています。
本記事では、いわき信組の不正融資問題の全容、刑事告発に至る経緯、そして金融庁が進めるガバナンス強化策について詳しく解説します。
刑事告発の背景と虚偽答弁の実態
東北財務局による告発の決定
東北財務局は2026年1月中にも、いわき信用組合と元役員らを福島県警に刑事告発する方針を固めました。告発容疑は協金法違反(虚偽答弁・虚偽報告)です。
金融庁および東北財務局の検査において、いわき信組の特定の役職員らは検査官に対して事実と異なる答弁を繰り返しました。この行為が当局による実態把握に重大な影響を与えたとして、刑事責任を問う判断に至ったのです。
具体的な虚偽答弁の内容
特に悪質とされたのは、不正に関する重要情報を保存したパソコンの取り扱いについての虚偽説明です。担当者が当時の役員にパソコンを渡していたにもかかわらず、元役員らは「破壊した」と検査官に報告していました。
このような虚偽答弁により、全容解明に重大な支障が生じたと金融庁は問題視しています。協金法第10条第3号は検査における虚偽答弁を禁じており、違反には罰則が科せられます。
行政処分から刑事告発へ
金融庁は2025年10月31日、いわき信組に対して業務の一部停止命令と業務改善命令を出しました。新規顧客への融資業務を2025年11月17日から12月16日まで1カ月間停止する厳しい処分でした。
しかし、行政処分だけでは不十分と判断され、刑事告発という異例の対応に踏み切ることになりました。金融機関に対する刑事告発は極めて稀であり、事態の深刻さを物語っています。
20年に及ぶ不正融資の全容
不正融資の規模と手法
特別調査委員会の報告によると、いわき信組は2004年3月期から2025年3月期までの約20年間で、総額279億8,400万円もの不正融資を実行していました。
不正融資には3つのパターンがありました。第一に「迂回融資」で、名目上の融資先を経由させる手法です。第二に「無断借名融資」で、顧客の名義を無断で使用するものです。第三に「水増し融資」で、融資額を水増しして差額を還流させる方法でした。
このうち254億3,300万円は不正融資の返済や利息として組合に還流しましたが、残りの25億5,100万円が外部に流出したと認定されています。
反社会的勢力への約10億円流出
流出した資金の大部分は反社会的勢力への支払いに充てられました。特別調査委員会は、約9億4,900万円が反社会的勢力に支払われた疑いがあると認定しています。
この問題の発端は1990年代初頭にさかのぼります。当時、いわき信組を標的とした右翼団体による街宣活動が繰り返されていました。1994年、街宣活動を中止させるための「解決料」として、反社会的勢力の仲介者に3億円超が支払われたのが始まりでした。
歴代理事長による継続的な資金提供
鈴木勇夫理事長(在任:〜2001年)は、街宣活動の中止を条件に数回にわたり計数億円を支払いました。その後を継いだ江尻次郎理事長(在任:2004年〜2016年)も、不当要求に屈して支払いを継続しました。
特別調査委員会の貞弘賢太郎委員長は「脅しに屈して資金提供したことが弱みとなり、どつぼにはまった」と分析しています。江尻氏自身も「もっと早く関係を切るべきだった」と後悔を口にしたとされます。
反社会的勢力からの要求は2018年まで続き、いわき信組は長年にわたって「食い物」にされる状態が続いていたのです。
ガバナンス崩壊の構造的要因
理事会・監事の機能不全
いわき信組の不正が20年も続いた最大の要因は、ガバナンスの著しい欠如です。不正行為を主導した歴代理事の法令遵守意識が欠如していただけでなく、業務執行を監視・監督すべき理事会がその役割を果たしていませんでした。
他の理事・監事においても、不正行為への加担や黙認に及ぶ者がいました。コンプライアンスや内部監査を担当する監査部でさえ、経営陣の不法・不合理な指示に盲従し、不正行為やその隠蔽への加担を繰り返していたのです。
内部告発による発覚
この長年の不正が発覚したきっかけは、2024年9月の元職員による内部告発でした。融資業務や預金管理における不正が明らかとなり、いわき信組は第三者委員会を設置。2025年5月30日に調査報告書が公表されました。
内部告発がなければ、不正はさらに長期化していた可能性があります。内部通報制度の重要性を改めて示す事例といえるでしょう。
公的資金との関係
いわき信組には2012年、東日本大震災後の金融機能強化法に基づき200億円の公的資金が注入されています。公的資金注入先で、これほど大規模な不正が発覚したことは極めて重大な問題です。
公的資金注入先の金融機関は2026年1月から2月にかけて、返済計画の作成期限(公的資金注入から14年)を迎えます。いわき信組の不正は、公的資金の管理・監督のあり方にも疑問を投げかけています。
金融庁のガバナンス強化策
信金・信組への監視強化
いわき信組の問題を受けて、金融庁は信用金庫・信用組合に対する監視を強化する方針を打ち出しています。2025年8月末に公表された金融行政方針では、協同組織金融機関に対して財務局と連携したモニタリング強化が明記されました。
特に重視されるのは「ガバナンス」と「有価証券運用リスク」の2つです。いわき信組のようなガバナンス崩壊事例や、栃木信用金庫のような運用失敗による含み損問題が相次いでいるためです。
法改正による制度的対応
金融庁は金融機能強化法等の改正も検討しています。具体的には、公的資金を注入した金融機関の経営体制への監視を強化し、不祥事が発覚した場合には再建計画の変更を金融庁が命令できるようにする方針です。
また、信用金庫や信用組合に対して、外部から経営を監査する役員を1人以上置くよう義務付けることも検討されています。閉鎖的になりがちな協同組織金融機関に外部の目を入れることで、不正の早期発見につなげる狙いがあります。
他の問題事例との関連
いわき信組だけでなく、他の信金・信組でも問題が相次いでいます。苫小牧信用金庫は旧経営陣主導で法令禁止の土地取得等に手を染め、2025年5月に業務改善命令を受けました。福島県商工信用組合も、旧経営陣が不祥事を隠蔽したとして2025年3月に業務改善命令を受けています。
これらの事例は、協同組織金融機関全体のガバナンス向上が急務であることを示しています。
注意点・今後の展望
地域金融機関利用者への影響
いわき信組は福島県いわき市を中心に地域経済を支える重要な金融機関です。刑事告発や業務改善命令により、一時的に業務が制限される可能性がありますが、預金者保護の観点から預金そのものが失われることはありません。
全国信用協同組合連合会(全信組連)は2025年11月、いわき信組に対して50億円の追加出資を行いました。これにより当面の経営安定は図られていますが、信頼回復には長い時間がかかるでしょう。
刑事告発後の展開
刑事告発が行われた場合、福島県警による捜査が本格化します。元役員らの刑事責任が問われるだけでなく、組合としての責任も追及される可能性があります。
金融機関に対する刑事告発は極めて異例であり、今後の地域金融機関の監督行政に大きな影響を与えることは間違いありません。
制度改革の行方
金融庁は「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」で協同組織金融機関のガバナンス強化について議論を進めています。2026年の通常国会で関連法案が提出される可能性があり、信金・信組を取り巻く規制環境は大きく変わることが予想されます。
まとめ
いわき信用組合の刑事告発は、約20年にわたる不正融資と反社会的勢力への資金流出、そして当局検査への虚偽答弁という三重の問題が引き起こした異例の事態です。
この事件から得られる教訓は、ガバナンスの重要性です。理事会や監事が本来の監視機能を果たしていれば、これほど長期にわたる不正は防げたはずです。また、内部通報制度の整備と活用も不正の早期発見に不可欠であることが改めて示されました。
金融庁は今後、信金・信組への監視強化と法改正による制度的対応を進める方針です。地域金融機関を利用する方は、自身が取引する金融機関のガバナンス体制にも関心を持つことが重要といえるでしょう。
参考資料:
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