「保守」「中道」の定義が揺らぐ日本政治、識者が問う大きな問い
はじめに
2026年2月8日に投開票を迎える衆院選を前に、日本政治のあり方が改めて問われています。高市早苗首相による通常国会冒頭での衆院解散に対しては、議会制民主主義の観点から批判の声も上がっています。
政治学者で東京大学名誉教授の御厨貴氏は、今回の解散について「国会が国民の意思を代行する制度の趣旨に反する」と指摘。また、「保守」「中道」といった政治的概念が実態を失いつつある現状に警鐘を鳴らしています。
本記事では、御厨氏の見解を軸に、日本政治における「保守」と「中道」の意味の変容、そして政治に求められる「大きな問い」について考えます。
高市首相の衆院解散に対する批判
解散の理由と批判
高市早苗首相は2026年1月19日、通常国会の冒頭で衆院を解散することを表明しました。理由として、「衆参で過半数を得ていない自民党の総裁として、政権選択選挙の洗礼を受けていないことを気にかけてきた」「堂々と審判を仰ぐことが民主主義国家のリーダーの責務」と説明しています。
しかし、この説明に対しては各方面から批判が寄せられています。東京新聞のアンケートでは、「納得しない」と答えた人が89%に達しました。「党利党略でしかない」「自己中解散だ」「解散権の乱用だ」といった厳しい意見が相次いでいます。
議会制民主主義の観点からの疑問
御厨貴氏は、自民党内で選ばれ、国会で選出された首相が「自分が首相に適しているか国民に決めてほしい」と訴えることは、国会が国民の意思を代行する制度の趣旨に反すると指摘しています。
「『自分にすべての権限を与えてくれ』と言っているのと同じで、非常に傲慢な意図が垣間見える」という批判は、議会制民主主義の本質を問うものです。補正予算の審議や当初予算の策定など、国会で果たすべき責務がある中での解散は、「解散の大義として成り立っていない」という見方が示されています。
「保守」「中道」の意味の変容
保守とは何か
御厨氏は「保守」について、「人々の住む社会への感覚で、堅実な人生観を持てば生きていけると考えるもの」と定義しています。ただし、この概念自体が「非常に曖昧」であることも認めています。
戦後の自民党政権は、実は「軽武装・経済重視」を軸とするリベラル的な政権が主流でした。しかし2000年代以降、小泉純一郎氏、安倍晋三氏ら保守色が強い政権が続くようになり、「保守」の意味合いも変化してきました。
中道勢力の再結集
2026年1月16日、立憲民主党と公明党の衆議院議員により「中道改革連合」が結党されました。自民党の高市政権や日本維新の会への対抗軸として、中道思想を掲げています。
公明党の斉藤鉄夫代表は「日本政治も右傾化が見られる中、中道勢力の結集が重要だ」と強調しています。26年にわたった自民党と公明党の連立が解消され、公明党が野党第1党の立憲民主党と連携する形は、日本政治の大きな転換点といえます。
有権者の意識変化
選挙ドットコムとJX通信社の世論調査によると、有権者の約52%が「保守寄り」でも「リベラル寄り」でもない「中間」と自認しています。保守寄りは約28%、リベラル寄りは約20%にとどまりました。
これは、有権者が「右か左か」という単一の軸ではなく、収入、情報源、世代など多様な観点で投票先を判断するようになっていることを示しています。「保守・リベラル」という従来の分類が、有権者の実態を捉えきれなくなっているのです。
自民党統治の終焉と日本政治の課題
連敗が意味するもの
御厨氏は、2度の国政選挙を経て自民党が衆参両院で過半数を割り少数与党に転落したことについて、「今回の連敗はこれまでとは意味が違う」と分析しています。「いよいよ自民党統治の終焉を意味している可能性が高い」という見立てです。
自民党は1955年の結党以来、わずかな例外を除いて政権の座にあり続けてきました。その統治システムが根本から揺らいでいるという認識は、日本政治の大きな転換期を示唆しています。
大きな問いを語る政治の必要性
御厨氏は、人口減少が避けられない中で成長モデルを掲げ続けること自体が問題だと指摘しています。積極的に移民を受け入れるか、低成長を前提とする成熟経済路線を採用するか、という選択を迫られているのです。
しかし、与野党ともにこうした「大きな問い」に正面から向き合うことを避けているように見えます。消費税減税といった有権者受けする政策を競い合うだけでは、日本が直面する構造的な課題の解決にはつながりません。
皇位継承問題の先送り
御厨氏はまた、皇位継承問題についても警鐘を鳴らしています。現状のままでは天皇が空位となる可能性があり、その場合、日本国憲法が機能しなくなる事態も想定されます。
しかし、この問題は政治的にセンシティブであるため、議論が進んでいません。御厨氏は「この議論から逃げ続けることはできない」と、政治の責任を問うています。
今後の展望と課題
多党化時代の政治
今回の衆院選では、自民党、立憲民主党、中道改革連合、日本維新の会、国民民主党など、複数の政党が競い合う構図となっています。一党優位から多党化への移行は、連立政権や政策協議の重要性を高めます。
有権者にとっては、各党の政策を比較検討し、自らの判断で投票先を選ぶ必要性が増しています。「保守だから自民党」「リベラルだから野党」という単純な図式は、もはや通用しなくなっています。
政策論争の深化
「大きな問い」に向き合う政治を実現するためには、選挙における政策論争の深化が不可欠です。人口減少時代の社会保障のあり方、経済成長と財政規律の両立、安全保障政策の方向性など、国民的な議論が求められるテーマは山積しています。
有権者側も、個別の政策だけでなく、各党が描く日本の将来像を見極める姿勢が求められます。
政治的教養の回復
政治学者の村上弘氏は、若い世代における政治的教養の低下が「保守・リベラルの揺らぎ」の原因の一つだと指摘しています。政治的な理念や立場を教育で教えない、新聞を読まない、友人と政治の話をしない、労働組合に加入しないといった傾向が、政治への関心低下につながっています。
民主主義を機能させるためには、有権者一人ひとりが政治に関心を持ち、自らの意見を持つことが重要です。
まとめ
高市首相の衆院解散を契機に、日本政治のあり方が改めて問われています。「保守」「中道」といった政治的概念は実態を失いつつあり、有権者は多様な観点から投票先を判断するようになっています。
御厨貴氏が指摘するように、日本は人口減少や皇位継承といった構造的な課題に直面しています。しかし、与野党ともにこうした「大きな問い」から逃げる傾向があります。
自民党統治の終焉が現実味を帯びる中、日本政治は大きな転換期を迎えています。有権者一人ひとりが、各党の政策と将来ビジョンを見極め、自らの判断で投票先を選ぶことが、民主主義の健全な発展につながるでしょう。
参考資料:
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