2026年春闘、経営トップが5%超賃上げ表明で勢い継続
はじめに
2026年1月6日、経団連など経済3団体が開催した新年祝賀会で、経営トップたちから5%を超える賃上げを表明する声が相次ぎました。経団連の筒井義信会長は「ベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置づける」と強調し、デフレ完全脱却への決意を示しました。
2025年の春闘では平均賃上げ率が5.25%に達し、1991年以来34年ぶりの高水準を記録しました。2026年もこの勢いを継続できるかが、日本経済の正常化にとって重要な分岐点となります。本記事では、2026年春闘の見通しと日本経済への影響について解説します。
経営トップの賃上げ表明
経団連・筒井会長の強いメッセージ
経団連の筒井義信会長は新年祝賀会後の記者会見で、「2026年はデフレからの真の脱却に向かう年だ」と宣言しました。特に注目されるのは「ベースアップ実施の検討を『賃金交渉のスタンダード』に位置づける」という発言です。
これは一時的な賃上げではなく、基本給の恒久的な引き上げを標準化するという意味を持ちます。経団連は「経営労働政策特別委員会報告」においても、賃上げモメンタム(勢い)のさらなる定着を強調しています。
各社トップの具体的なコミットメント
新年祝賀会では、複数の経営トップが昨年を上回る賃上げへの意欲を示しました。ファミリーマートの細見研介社長は「昨年の水準を超えたい」と表明。伊藤忠商事の石井敬太社長は「外国人材にとっても日本を理想的な選択肢にする必要がある」と述べ、人材確保の観点から賃上げの必要性を強調しました。
2025年の経団連集計によると、大手企業の平均賃上げ率は5.39%に達し、2年連続で5%を超えました。この流れを2026年も維持することが、経営者間の共通認識となっています。
連合の要求と労使交渉の焦点
「5%以上」の目標維持
日本最大の労働組合連合体である連合は、2025年11月28日に2026年春闘方針を正式決定しました。賃上げ目標は、定期昇給とベースアップを合わせて「5%以上」を維持。このうちベア分は「3%以上」と設定しています。
特筆すべきは、連合が「実質賃金を1%上昇軌道に乗せる」という目標を明確にした点です。名目賃金が上がっても物価上昇に追いつかなければ生活は改善しません。実質賃金のプラス転換を明確な目標として掲げたことは、労働者の生活水準向上への強い意志の表れです。
中小企業とパート従業員への波及
連合は中小企業の賃上げ目標を「6%以上」と、大企業を上回る水準に設定しました。日本の労働者の約7割が中小企業で働いていることを考えると、この層への賃上げ波及が経済全体の消費拡大に不可欠です。
さらに画期的なのは、パート・非正規労働者の賃上げ目標として「7%」という数値を初めて明示したことです。正規・非正規間の賃金格差是正が、2026年春闘の重要なテーマとなっています。
日本経済の転換点
デフレ脱却への道のり
政府は「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」をデフレ脱却と定義しています。2025年の日本経済は、賃金上昇と企業の価格転嫁が進み、正常化しつつあります。
2025年の実質GDP成長率は潜在成長率を上回る前年比1.2%程度に達し、需給ギャップは大幅に縮小しました。しかし、デフレ完全脱却の最大の課題は、中小・零細企業や公的分野への賃上げ波及が途上にあることです。
物価と為替の影響
日本の物価上昇率は2025年にG7諸国の中で最も高い水準となりました。2025年4月時点で消費者物価は前年比3.6%上昇し、特に食料品価格の上昇が目立ちます。背景には円安による輸入コスト増加があります。
2025年は1ドル=150円台での推移が続き、輸入食料品や原材料価格を押し上げました。2026年については、価格転嫁の一巡や政府の物価高対策により、物価上昇率は2%程度に落ち着くと予想されています。
実質賃金のプラス転換
元日銀理事の門間一夫氏は、2026年について「実質賃金はプラス転化か」と予測しています。物価上昇が鈍化し、春闘で5%を超える賃上げが実現すれば、長年マイナスが続いた実質賃金がプラスに転じる可能性があります。
個人消費は実質賃金の改善により拡大が続く見通しです。設備投資も企業の強気な投資計画を背景に堅調が予想され、2026年の日本経済は「曇りの中にわずかな薄日」という表現で、緩やかな回復基調が期待されています。
国際情勢のリスク
円安と物価高への懸念
新年祝賀会では、円安による物価上昇への懸念も聞かれました。円安は輸出企業にとってはプラスですが、輸入に依存する食料品やエネルギー価格を押し上げ、家計の負担を増加させます。
日銀は2026年に政策金利を0.25%ずつ2回引き上げ、1.25%にすると見られています。金融政策の正常化が進む一方で、急激な円高への揺り戻しリスクも存在します。
日中関係と国際リスク
経営者からは日中関係など国際情勢への懸念も示されました。中国経済の減速や地政学的リスクは、日本の輸出や企業業績に影響を与える可能性があります。
また、トランプ関税政策の影響も注視が必要です。第一生命経済研究所は、2026年春闘の賃上げ率を4.95%と予測していますが、これは関税による企業業績の下振れリスクを考慮した数字です。
注意点・今後の展望
中小企業への波及が鍵
大企業での高い賃上げ率が注目されますが、経済全体への波及には中小企業の動向が重要です。多くの中小・零細企業では賃上げの余裕がなく、大企業との賃金格差が拡大するリスクがあります。
政府は賃上げ促進税制を強化し、赤字法人でも賃上げを促進する繰越控除制度の創設を進めています。中小企業が価格転嫁を進められる環境整備も課題です。
持続可能な賃上げの条件
一過性ではなく持続的な賃上げを実現するには、企業の生産性向上が不可欠です。人手不足が深刻化する中、省人化投資やAI活用による効率化が進んでいます。こうした取り組みが賃上げ原資の確保につながります。
2026年春闘の見通し
民間エコノミストの予想平均(ESPフォーキャスト調査)では、2026年春闘の賃上げ率は4.81%と予測されています。2025年の5.25%からはやや鈍化するものの、依然として高い水準が維持される見通しです。
まとめ
2026年春闘に向けて、経営トップから5%超の賃上げを表明する声が相次いでいます。経団連は「ベースアップを賃金交渉のスタンダードに」と位置づけ、連合も5%以上の賃上げ目標を維持しています。
2026年は日本経済がデフレから真に脱却できるかの正念場です。大企業から中小企業、正規から非正規へと賃上げの波及が進めば、実質賃金のプラス転換と消費拡大の好循環が実現する可能性があります。円安や国際情勢のリスクを注視しつつ、賃上げモメンタムの定着が期待されます。
参考資料:
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