2026年春闘スタート:物価を超える賃上げは実現するか
はじめに
2026年1月27日、経団連の筒井義信会長と連合の芳野友子会長が会談し、2026年の春季労使交渉(春闘)が事実上スタートしました。両者は「賃上げの勢いを定着させる」という方向性で一致しています。
しかし、物価の伸びを超える賃上げを実現できるかは依然として不透明です。特に中小企業における「賃上げ疲れ」や価格転嫁の難しさなど、課題は山積しています。本記事では、2026年春闘の注目ポイントと見通しを解説します。
2026年春闘の幕開け
労使トップ会談の内容
経団連の筒井会長と連合の芳野会長は1月27日に東京都内で会談し、インフレが続く中での高水準の賃上げ実現に向けた方針を共有しました。
筒井会長は「賃金引き上げの力強いモメンタム(勢い)をさらに定着させるべく、経団連は社会的責務として先導役を果たす」と述べ、高水準の賃上げ継続に意欲を示しました。
芳野会長は「5%以上の賃上げを交渉の共通基盤に据えたい」と訴え、会談後には「方向性は一致している」「力強い決意に似たものを経団連から感じた」と評価しました。
連合の賃上げ目標
連合は2025年11月に2026年春闘方針を正式決定しています。賃上げ目標は以下のとおりです。
- 全体: 定期昇給相当分を含め「5%以上」、ベースアップで「3%以上」
- 中小労組など: 「6%以上・18,000円以上」(格差是正分1%超を上乗せ)
これは2024年、2025年と同じ水準であり、3年連続で高い目標を維持する形です。
経団連の姿勢
経団連など経済3団体は2026年1月6日の新年祝賀会で、5%を超える賃上げを表明する経営者が相次ぎました。筒井会長は「26年はデフレからの真の脱却に向かう年だ。ベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置づける」と強調しています。
物価と実質賃金の現状
続く物価上昇
2026年春闘で交渉の材料となる2025年の消費者物価指数(CPI)は、総合・コアともに前年比3%を上回る水準で推移しました。2025年12月分のCPIは前年同月比2.1%の上昇となっています。
特に食料品価格の上昇が顕著であり、家計への負担は大きくなっています。円安の影響による輸入物価の上昇も続いており、企業の値上げ意欲は依然として高い状況です。
実質賃金は10ヶ月連続マイナス
2024年、2025年の春闘では「歴史的な賃上げ」が実現しましたが、「歴史的な物価高」も進んだため、実質賃金はマイナスが続いています。2025年10月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比2.6%増となったものの、実質賃金は同0.7%減と10ヶ月連続の減少となりました。
家計は賃上げの実感を持てていないのが現状です。
今後の見通し
第一生命経済研究所の分析によれば、実質賃金は2025年11月まで減少が続いた後、12月から26年1月はゼロ近傍、2月から3月にはプラス転化が予想されています。
食料品価格で前年の高い伸びの裏が出ることに加え、電気・ガス代補助金による押し下げで物価上昇率が鈍化することが主因とされています。2026年通年では、実質賃金は前年比1.5%程度のプラスになるとの見通しもあります。
中小企業における課題
大企業との賃上げ格差
労働者の約7割を雇用する中小企業では、大企業との賃上げ格差が深刻な課題となっています。2025年春闘の結果を見ると、大企業(300人以上)の賃上げ率が5.33%だったのに対し、中小企業(300人未満)は4.65%でした。
連合が目標とする「5%以上」に中小企業も届くかどうかが、2026年春闘の最大の焦点といえます。
価格転嫁の難しさ
中小企業が賃上げを継続するには、人件費の増加分を製品・サービス価格に転嫁できることが前提です。しかし、大企業との取引条件の厳しさもあり、十分な価格転嫁ができていない企業が多いのが現状です。
日本商工会議所の調査によれば、2025年度に所定内賃金の引き上げを予定している中小企業のうち、約3分の2は業績改善がみられない中で「防衛的な賃上げ」を行うとしています。人材確保や離職防止のためにやむを得ず賃上げするケースが多いのです。
「賃上げ疲れ」の広がり
「賃上げ疲れ」という言葉が聞かれるようになりました。ある調査では、春闘による賃上げ圧力を感じた企業は7割以上に達し、そのうち約9割が自社の賃上げ率に影響があったと回答しています。
2026年度の賃上げ継続の見込みについては、大企業では約7割が継続を見込む一方、中小企業では半数程度にとどまっています。企業規模による「温度差」が明確になっています。
政府・産業界の動き
政府の対応
高市首相は2025年11月に政労使会議を開催し、「物価高騰に負けない5%を超える賃上げを確かなものとして定着させるため、協力をお願いしたい」と労使トップに要請しました。
政府の総合経済対策には、適切な価格転嫁・取引適正化の推進や、中小企業の「稼ぐ力」強化などが盛り込まれています。
産業別の動向
金属労協(JCM)は「すべての組合で1万2,000円以上の賃上げにこだわる」とする2026年闘争方針を決定しました。自動車総連もベースアップ要求額の目安を「1万2,000円以上」としています。
主要産業での高い賃上げ要求が続いており、これが中小企業への波及効果を生むかどうかが注目されます。
注意点・展望
円安リスク
懸念されるのが円安による物価上振れリスクです。円安が続けば、企業の値上げ意欲が再び積極化し、物価上昇率が高止まりする可能性があります。そうなれば、せっかくの賃上げも実質賃金の改善につながりません。
為替動向は春闘の成果を左右する大きな要因となります。
賃上げの持続可能性
2年連続で5%超の賃上げを実現してきましたが、この水準を続けることは容易ではありません。特に中小企業では、業績改善を伴わない「防衛的賃上げ」が限界に近づいている可能性があります。
賃上げが持続可能なものとなるには、価格転嫁環境の整備や、中小企業の生産性向上が不可欠です。
2026年春闘の予測
各シンクタンクの予測では、2026年春闘の賃上げ率は4.4%から5.3%程度と見込まれています。2025年春闘(5.25%)からはやや鈍化する可能性がありますが、依然として高い水準を維持するとの見方が多数です。
まとめ
2026年春闘が事実上スタートし、経団連と連合は「賃上げの勢いを定着させる」方向で一致しました。4年連続の高水準賃上げを目指す一方で、物価上昇を上回る「実質賃金のプラス転化」が実現するかは不透明な状況です。
特に、労働者の7割を雇用する中小企業における賃上げの持続可能性が焦点となります。価格転嫁の促進や、「賃上げ疲れ」への対応など、課題は山積しています。今後の労使交渉と、3月の集中回答日に向けた動向が注目されます。
参考資料:
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