経団連、物価超す賃上げを「社会的要請」と明記
はじめに
経団連は2026年1月20日、2026年春季労使交渉(春闘)の基本指針となる「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を発表しました。インフレが続く中、物価上昇率を上回る賃金の伸びが「社会的に求められている」と明記し、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の検討を「賃金交渉におけるスタンダード」と位置づけました。
3年連続となる高水準の賃上げ実現に向け、経営側からも積極的な姿勢が示された形です。本記事では、2026年春闘の注目ポイントと、実質賃金プラス化に向けた課題を解説します。
経労委報告の概要
「賃上げの力強いモメンタムの定着」
2026年春闘の経労委報告では、中小企業を含めて「賃金引き上げの力強いモメンタム(勢い)の定着」を打ち出すことが柱となっています。トランプ米政権の高関税政策など、企業業績の先行き不透明感が強まる中でも、賃上げを継続する姿勢を鮮明にしました。
経団連の筒井義信会長は1月6日の新年祝賀会で、「26年はデフレからの真の脱却に向かう年だ。ベースアップを賃金交渉のスタンダードに位置づける」と強調しました。
ベアの具体的手法を提示
報告書では、ベースアップの具体策として複数の手法を提示しています。若手社員への重点配分、査定配分の拡大、複数年にわたる賃上げ目標の設定など、各企業の状況に応じた柔軟な対応を促しています。
また、物価変動を加味した実質賃金が伸び悩んでいる現状を踏まえ、「名目賃金の継続的引き上げによる実質賃金の安定的なプラス化」を目指すと明記しました。
価格転嫁の必要性を強調
賃上げ原資の確保に向けては、人件費や原材料費などコスト上昇分を価格に転嫁する必要性を改めて訴えています。特に中小企業では価格転嫁が進んでおらず、これが賃上げの足かせとなっている現状への対応を求めました。
実質賃金の現状と課題
11カ月連続のマイナス
2025年11月の実質賃金は11カ月連続でマイナスとなりました。名目賃金は上昇しているものの、3%を超える物価上昇が続き、賃上げが追いついていない状況です。
2024年の年間実績でも、実質賃金指数は前年比0.2%減と3年連続のマイナスでした。2021年平均から2023年平均を比較すると、実質賃金は3.5%も低下しています。
物価高の要因
賃金の実質化に用いられる消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は、2025年10月時点で前年比+3.4%と高い伸びを維持しています。特に食料品価格の高騰が家計を圧迫しており、賃上げの実感を持てない状況が続いています。
プラス転化の見通し
実質賃金の先行きについては、2025年12月から2026年1月はゼロ近傍、2月から3月にはプラス転化するとの予測があります。食料品価格で前年の高い伸びの反動が出ることに加え、電気・ガス代補助金による押し下げで物価上昇率が鈍化することが見込まれています。
ただし、円安による物価上振れリスクには注意が必要です。円安が続けば企業の値上げ意欲が再び高まり、実質賃金にはマイナスとなる可能性があります。
労使双方の姿勢
連合は「5%以上」を要求
労働側の中央組織である連合は、2025年11月に2026年春闘方針を決定し、賃上げ要求の目安を「賃上げ分3%以上、定昇相当分を含め5%以上」としました。中小企業については「6%以上」を目標に掲げ、大企業との格差是正を図る姿勢を示しています。
今回は「その実現にこだわる」と表現を強め、前年以上に5%以上の獲得にこだわる姿勢を強調しました。
経営側も高水準維持に前向き
経営側からも5%を超える賃上げを表明する声が相次いでいます。1月6日の新年祝賀会では、複数の経営トップが高水準の賃上げ継続に意欲を示しました。
2025年春闘では、連合集計で5.32%(ベア3.75%)という1991年以来の高い伸びを達成しました。2026年春闘でも同程度の水準が維持される見通しです。
中小企業の課題
価格転嫁の遅れ
中小企業にとって、賃上げの最大の課題は価格転嫁です。2024年9月の調査では、コスト全般の価格転嫁率は49.7%にとどまり、上昇したコストの半分しか価格に反映できていません。労務費の転嫁率は44.7%とさらに低く、約2割の企業は全く転嫁できていない状況です。
賃上げを「実施しない」企業では、「価格転嫁できていない」企業が36.4%と、「実施する」企業の17.3%を大きく上回っています。価格転嫁が賃上げ実施率向上のカギとなっています。
人手不足と労働分配率
中小企業は、人件費の上昇圧力、原材料・エネルギーコストの高騰、金利上昇リスクという3つの圧力に直面しています。従業員数過不足DIはマイナス22.9%とバブル期に次ぐ深刻な人手不足水準です。
中小企業の労働分配率は8割近くに達しており、更なる賃上げ余力は限られています。収益基盤が盤石ではない中、持続的な賃上げを行いながら労働力を確保することは容易ではありません。
法改正による後押し
2026年1月1日に下請代金支払遅延等防止法が改正され、「予算がない」「他社は値上げしていない」といった理由で価格交渉を拒否することが明確に禁止されました。また、手形払いが原則禁止となり現金払いが原則となるなど、中小企業の価格転嫁を後押しする環境整備が進んでいます。
2026年春闘の見通し
賃上げ率は5%前後を維持
第一生命経済研究所の予測によると、2026年春闘の賃上げ率は厚生労働省ベースで5.20%、連合ベースで4.95%と見込まれています。2025年の5.52%(厚労省ベース)からはやや低下するものの、3年連続で5%前後の高水準を維持する見通しです。
ベースアップ率は3%台半ばが予想されており、定期昇給と合わせて5%程度の賃上げが実現する見込みです。
業績悪化リスクに注意
賃上げ率がやや鈍化すると予測される背景には、トランプ関税の影響による企業業績の下振れがあります。特に自動車関連企業では業績悪化が目立っており、賃上げ余力への影響が懸念されています。
経団連は、こうした不透明な環境下でも「デフレからの完全脱却」に向けて賃上げを継続する必要性を強調しています。
まとめ
経団連の2026年春闘指針は、物価上昇率を上回る賃上げを「社会的要請」と位置づけ、ベースアップを賃金交渉のスタンダードとする方針を打ち出しました。3年連続となる高水準の賃上げ実現に向け、労使双方が前向きな姿勢を示しています。
一方で、実質賃金は11カ月連続でマイナスが続いており、物価高に賃上げが追いついていない現状があります。特に中小企業では価格転嫁の遅れが課題となっており、持続的な賃上げ実現には構造的な課題の解決が求められています。
参考資料:
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