40年債利回りが初の4%台、超長期債急落の背景を解説
はじめに
2026年1月20日、日本の債券市場で歴史的な出来事が起きました。40年物国債の利回りが初めて4%の大台に乗せたのです。償還までの期間が長い「超長期債」の利回りが急上昇(債券価格は急落)し、市場に衝撃が走りました。
背景にあるのは、与野党が相次いで打ち出した消費税減税の公約です。衆院選を控え、財政拡張的な政策への懸念が市場で急速に広がっています。
本記事では、超長期債利回り急上昇の背景、国債市場の仕組み、そして家計や経済への影響について解説します。
超長期債利回り急上昇の状況
40年債が初の4%台
2026年1月20日の国内債券市場で、40年物国債の利回りが初めて4%の大台に乗せました。超長期と呼ばれる20年を超す期間の国債が軒並み急落(利回りは上昇)し、30年国債利回りも3.6%を超えて過去最高水準を更新しました。
長期金利の指標である10年国債利回りも一時2.275%まで上昇し、約27年ぶりの高水準となりました。債券価格と利回りは逆の動きをするため、「利回り上昇」は「債券価格の下落」を意味します。
株式・為替市場への波及
金利上昇を嫌気して、株式市場も大幅に下落しました。金利が上がると企業の資金調達コストが増加し、株式の相対的な魅力が低下するためです。
為替市場では、円は対ドルで158円を挟んで推移しました。一般的に金利上昇は通貨高要因ですが、財政悪化懸念が円の信認を揺るがす形となっています。
利回り急上昇の背景
消費税減税議論の衝撃
利回り急上昇の直接的なきっかけは、与野党が相次いで消費税減税に言及したことです。1月19日、立憲民主党の安住淳幹事長と公明党の西田実仁幹事長が消費税減税について発言。これに続き、高市首相も衆院解散を表明し、消費減税を掲げて2月8日投開票の総選挙に臨む意向を示しました。
消費税は国の基幹税収の一つであり、減税は財政悪化に直結します。日本政府の普通国債残高は1,000兆円を超えており、財政への懸念が一気に高まりました。
財政拡張への警戒
高市政権による積極財政への警戒感は、以前から債券市場でくすぶっていました。参院選を控えて消費税減税を巡る議論が活発化したことで、財政膨張に歯止めがかからなくなるとの懸念が現実味を帯びてきたのです。
ある証券会社のストラテジストは「消費税減税が現実味を帯び、財政がますます緩むとの連想が市場で広がっている」と指摘しています。
日銀の利上げ観測
財政懸念に加え、日本銀行の利上げ観測も金利上昇の要因となっています。日銀は2025年12月に0.25%の利上げを決定し、政策金利は0.75%程度と約30年ぶりの水準に達しました。
金融政策の正常化が進む中、長期金利にも上昇圧力がかかりやすい環境となっています。
超長期国債の仕組み
超長期国債とは
超長期国債とは、満期までの期間が10年を超える国債のことです。日本では20年債、30年債、40年債などがこれに該当します。
日本で超長期国債が発行されるようになったのは1983年の15年債からで、その後年限は拡大し、現在は40年債まで発行されています。政府にとっては、長期間にわたり安定的に資金を調達できるメリットがあります。
主な投資家
超長期国債の主な投資家は、生命保険会社や年金基金です。これらの機関投資家は、将来の保険金支払いや年金給付に備えて、長期で安定した運用利回りを確保する必要があります。
資産と負債を長期にわたって管理する「ALM(Asset Liability Management)」の観点から、超長期国債への投資は合理的な選択とされてきました。
投資家構造の変化
しかし、近年は投資家構造に変化が生じています。主な投資家だった生命保険会社や損害保険会社の買い需要が減少し、代わりに短期的な売買が多い海外投資家が買いの中心となっています。
この変化により、国債の安定消化に黄信号がともっているとの指摘があります。長期保有を前提とする国内機関投資家が減り、相場変動に敏感な海外勢が増えることで、価格変動が大きくなりやすい構造になっています。
財務省の対応
超長期債発行の減額
財務省は、超長期債の金利上昇(価格下落)を踏まえ、発行計画の圧縮を進めています。2025年6月には、20年債、30年債、40年債の発行額を合計で3.2兆円減額することを発表しました。
具体的には、20年債の年間発行額は10兆2,000億円(1兆8,000億円減額)、30年債は8兆7,000億円(9,000億円減額)、40年債は2兆5,000億円(5,000億円減額)となりました。
超長期債の発行を減らし、短期の資金調達に比重を移すことで、金利上昇リスクを軽減する狙いがあります。
入札の弱さ
超長期国債の入札では、「衝撃的な弱さ」と形容される結果が続いています。2025年11月の40年債入札では、落札利回りが過去最高を記録しました。投資家の需要が弱く、政府が高い金利を提示しなければ国債を消化できない状況を示しています。
家計・経済への影響
住宅ローン金利の上昇
国債利回りの上昇は、住宅ローン金利に直接影響します。特に固定金利型の住宅ローンは、長期金利(10年国債利回り)に連動して決まります。
2026年1月適用分では、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが10年固定金利をそろって引き上げました。三菱UFJは前月比0.42ポイント上げて2.68%、三井住友は0.3ポイント上げて2.65%、みずほは0.25ポイント上げて2.55%となっています。
住宅ローン金利が上がると、同じ物件価格でも購入できる範囲が縮小します。たとえば借入4,000万円、返済期間35年の場合、金利が1%上がると月々の返済額は約2万円増加し、総返済額では約700万円の差が生じます。
変動金利への影響
変動金利型の住宅ローンも、日銀の利上げを受けて上昇が見込まれます。2026年4月に各銀行が0.25%前後引き上げ、2026年7月以降の返済に反映される流れが予想されています。
変動金利は現在も低水準を維持していますが、今後の日銀の追加利上げ次第では、さらなる上昇の可能性があります。
財政運営への影響
国債利回りの上昇は、政府の利払い費を増加させます。日本政府の普通国債残高は1,000兆円を超えており、継続的な金利上昇局面になると、利払費が急激に膨らむ構造にあります。
これは財政をさらに悪化させ、金利上昇を招くという悪循環に陥るリスクをはらんでいます。
今後の展望とリスク
格下げリスク
一部の専門家は、消費税減税を決めれば日本国債の格下げもあり得ると警告しています。格下げが現実となれば、国債の信用力低下により、さらなる利回り上昇(価格下落)を招く可能性があります。
2022年に英国で起きた「トラス・ショック」では、大型減税政策が財政懸念を招き、国債利回りが急騰して首相辞任に追い込まれました。日本でも同様のシナリオを懸念する声があります。
金融政策の行方
日銀の金融政策も注目されます。2026年に政策金利が0.75%〜1%に引き上げられる可能性が指摘されており、金利上昇圧力は当面続く見通しです。
一方で、急激な金利上昇は経済や財政に悪影響を及ぼすため、日銀は市場との対話を慎重に進めると予想されます。
選挙結果の影響
2月8日に予定される衆院選の結果も、今後の金利動向を左右する重要な要素です。消費税減税を掲げる政党が勝利すれば、財政懸念がさらに高まる可能性があります。
逆に、財政規律を重視する勢力が台頭すれば、市場の懸念が和らぐ可能性もあります。
まとめ
40年物国債利回りが初めて4%の大台に乗せたことは、日本の金融市場にとって歴史的な転換点を示しています。低金利時代から「金利のある世界」への移行が、急速に進んでいることの表れです。
背景には、消費税減税議論に端を発した財政拡張懸念と、日銀の金融政策正常化があります。国債市場の投資家構造の変化も、価格変動を大きくする要因となっています。
家計にとっては、住宅ローン金利の上昇という形で影響が及びます。固定金利はすでに上昇しており、変動金利も今後の上昇が見込まれます。
今後の動向は、衆院選の結果や日銀の金融政策、そして政府の財政運営次第です。市場は引き続き、財政規律に対する政治の姿勢を注視することになるでしょう。
参考資料:
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