投資マネーが日本国債を敬遠、財政持続性への懸念高まる
はじめに
2026年1月19日、日本の長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが2.27%台を記録しました。これは1999年2月以来、約27年ぶりの高水準です。投資マネーが日本国債を敬遠する動きが鮮明になっています。
背景にあるのは、次期衆院選を控えた消費税減税論の台頭と、それに伴う財政悪化への警戒感です。政府の国債利払い費は、10年後には2024年度の約3倍に近づくとの民間試算もあり、財政の持続可能性に疑問を持つ市場関係者が増えています。
この記事では、長期金利上昇の背景、財政への影響、そして日本国債を取り巻く投資環境の変化について詳しく解説します。
長期金利上昇の現状と背景
27年ぶりの金利水準
2026年1月19日、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時2.25%まで上昇しました。これは1999年2月以来およそ27年ぶりの高水準です。さらに、30年物国債の利回りは3.14%、40年物は3.60%に達し、いずれも史上最高を更新しています。
超長期債の売買では、海外投資家の存在感が増しており、償還までの期間が10年を超える国債に上昇(価格下落)圧力がかかっています。国内投資家だけでなく、海外勢も日本の財政状況に敏感になっていることがうかがえます。
消費税減税論が財政懸念を加速
金利上昇の大きな要因の一つが、与野党で広がる消費税減税論です。2月8日投開票が見込まれる衆院選の公約に、消費税減税を盛り込む動きが活発化しており、財政拡張を警戒した国債売りが膨らんでいます。
自民党の鈴木俊一幹事長は1月18日、日本維新の会との連立合意書を踏まえ、食品の消費税率を時限的にゼロとすることに前向きな姿勢を示しました。立憲民主党も食料品の消費税率を一時的にゼロにする公約を掲げています。
日銀の利上げ継続観測
金利上昇のもう一つの要因が、日銀の金融政策です。日銀は2024年12月の金融政策決定会合で政策金利を0.5%から0.75%に引き上げ、1995年以来30年ぶりの高い水準としました。
円安に伴うインフレが続く中、今後も金利が一段と上昇するとの見方が根強く、国債の売り圧力となっています。QUICKの月次調査によると、市場参加者が予想する2026年の長期金利の最高値は2.3%(中央値)とされています。
財政への深刻な影響
過去最大の予算と国債費
政府が2025年12月に決定した2026年度予算案は、一般会計総額122兆3,092億円と2年連続で過去最大を更新しました。このうち、国債の返済や利払いにあてる国債費は31兆2,758億円に上り、過去最大です。
特に注目すべきは利払い費です。2026年度予算では13兆371億円と、かつてない水準に膨らみました。国債の利払い費の計算に使う想定金利も、2.1%から3.0%に引き上げられています。
10年後に利払い費が3倍という試算
内閣府の中長期試算(成長実現ケース)では、長期金利が2033年度に3.4%まで上がり、利払い費は22.6兆円に膨らむ見通しです。これは2023年度の7.6兆円のおよそ3倍に相当します。
また、財務省の試算では、2028年度にかけて金利が2.5%まで上昇した場合、利払い費は約16.1兆円まで増加し、その後金利が横ばいでも2034年度には約25.6兆円まで膨らむとされています。
普通国債残高は2026年度末時点で1,145兆円に達する見通しです。これだけの残高を抱える中で金利が上昇すれば、利払い費の増加は財政を大きく圧迫することになります。
格下げリスクへの懸念
日本の巨額債務と選挙結果への懸念から、国債格付けの早期引き下げリスクについての議論が活発化しています。歳入に対する利払い費の比率は2026年3月までの年度に8年ぶりの高水準に達する見通しです。
チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は「日本は再び格下げのリスクに直面している」との見方を示しています。格下げが実現すれば、さらなる金利上昇を招く悪循環に陥る恐れがあります。
日銀の量的引き締めと国債市場
段階的な買い入れ縮小
日銀は2024年3月に異次元緩和を終え、同年8月以降、月間の国債買い入れ額を段階的に減らす事実上の量的引き締め(QT)を進めています。2024年末時点で約560兆円と国債発行残高の52%を占めていた日銀保有分は、今後縮小に向かいます。
当初の計画では、月間買い入れ額を毎四半期4,000億円ずつ減額し、2026年1〜3月に3兆円程度とする予定でした。しかし、超長期金利の急上昇を受け、2025年6月に日銀は減額ペースの緩和を決定しています。
減額ペース緩和の背景
2025年5月には、20年国債利回りが2000年以来の高水準を、30年・40年国債利回りは発行開始以来の最高水準を記録しました。日銀は超長期国債を中心とした需給環境の悪化に配慮し、2026年4月以降の減額幅を四半期ごと2,000億円程度に縮小することを決めました。
この結果、月間買い入れ額は2027年1〜3月期に2.1兆円程度となる見込みです。日銀は月間2兆円程度が当面の下限になることを暗に示唆したとも受け止められています。
国債保有者構成の変化
日銀依存からの転換期
日本国債の保有者構成に変化が生じています。日銀の保有比率は2025年第3四半期時点で50.0%まで低下し、このペースでは次期にも50%を割り込む見通しです。
日銀が買い入れを縮小する中、他の投資家が国債を吸収できるかが焦点となります。財務省が10年債入札を実施する際にも、低調な結果となることへの警戒から投資家が様子見姿勢を強めるケースが見られます。
海外投資家の動向
海外投資家の国債保有比率は、2024年12月末時点で11.9%(144.2兆円)です。日本の海外保有比率は欧米諸国の30〜45%と比べると低い水準ですが、2000年代後半以降は徐々に上昇しています。
特に超長期債の売買では海外投資家の存在感が増しており、財政拡張への懸念が高まれば売り圧力が強まる可能性があります。2024年3月の日銀の金融政策見直し後には、海外勢が国債を売り越した時期もありました。
海外の教訓:トラスショック
英国の事例
財源の裏付けのない財政拡張策がもたらすリスクは、2022年秋の英国で顕著に表れました。トラス内閣は大規模減税を財源の手当てなく打ち出し、国債金利の急上昇と通貨ポンドの急落を招きました(トラスショック)。
市場の混乱を受け、トラス首相は就任わずか45日で辞任に追い込まれました。2024年秋にも、スターマー内閣が国債発行に頼る経済政策を打ち出した際、金利がトラスショック時を超える水準まで上昇しています。
日本への示唆
専門家からは、日本でも消費税減税を財源の裏付けなく進めれば、市場の信認が損なわれ、金利急上昇を招くリスクがあるとの警告が出ています。基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化が見込めないまま利払い費が増えれば、財政は一層悪化する悪循環に陥りかねません。
まとめ
日本の長期金利が27年ぶりの高水準に達し、投資マネーが日本国債を敬遠する動きが鮮明になっています。背景には、衆院選を控えた消費税減税論の台頭と財政悪化への警戒感、そして日銀の利上げ継続観測があります。
政府の利払い費は10年後に現在の約3倍に膨らむ可能性があり、財政の持続可能性に対する市場の疑念が深まっています。国債格下げリスクの議論も活発化しており、減税政策と財政規律のバランスが問われる局面です。
日銀が量的引き締めを進め、国債市場での存在感を縮小する中、誰が日本国債を保有するのかも重要な課題となっています。選挙公約で減税を競うだけでなく、財源の裏付けと財政の持続可能性を示すことが、市場の信認を維持する上で不可欠といえます。
参考資料:
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