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by nicoxz

ジョブ型雇用の導入企業が直面する成果と課題の実態

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はじめに

ジョブ型雇用が日本企業の人事制度として注目を集めてから数年が経過しました。日立製作所、富士通、KDDIといった大手企業が相次いで導入し、政府も2024年8月に「ジョブ型人事指針」を公表するなど、制度としての認知度は着実に高まっています。しかし、2025年の調査ではジョブ型雇用の導入率は全体で約2割にとどまり、「導入しておらず今後も予定なし」と回答する企業が約半数に上っています。

本記事では、ジョブ型雇用の導入企業が実際にどのような成果と課題に直面しているのか、最新の調査データと専門家の知見をもとに整理します。

ジョブ型雇用の導入状況と企業の実態

導入率は約2割、大企業と中小で格差

JAC Recruitmentが実施した「ジョブ型雇用の今 2025」調査によると、日本企業全体のジョブ型雇用導入率は21.8%です。前年の19.8%から2.0ポイント増加しており、緩やかな拡大傾向にあります。ただし、企業規模による差は大きく、従業員1,000人以上の企業では36.0%(前年比6.5ポイント増)に達する一方、100人未満の企業では11.0%にとどまっています。

別の調査(日本の人事部「人事白書2025」)では、「全社的に導入」が11.4%、「一部の部署・職種・役職で導入」が17.2%で、合計約3割が何らかの形でジョブ型を取り入れています。一方で「導入しておらず今後も予定なし」が48.8%と最多であり、日本企業全体としては依然として慎重な姿勢が目立ちます。

先行企業の導入事例と成果

ジョブ型雇用を先行導入した大企業には、一定の成果が見られます。富士通は2020年4月に国内グループの幹部社員約15,000人を対象にジョブ型人事制度を導入し、2022年には一般社員45,000人へ拡大しました。全世界共通の7段階格付けを採用し、職責の大きさに応じた報酬体系を構築しています。2022年度にはポスティング(社内公募)への応募者が7,902名、異動者数が3,419名に達し、社員の自律的なキャリア形成を促進する効果が確認されています。

KDDIは2020年8月に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しました。同社の特徴は、専門能力だけでなく「人間力」も評価に組み込んだ独自の設計にあります。欧米型のジョブ型をそのまま移植するのではなく、日本の組織文化に合わせた「ハイブリッド型」を志向している点が注目されます。2021年4月入社の新卒社員からは一律初任給が撤廃され、能力に応じた給与体系が導入されています。

期待した成果が見えにくい構造的な要因

評価制度への不安と納得度の問題

ジョブ型雇用の導入に賛成する声は増えています。JAC Researchの調査では、採用側の73.7%、人材側の63.8%がジョブ型雇用の普及に賛成と回答しています。賛成理由として最も多いのは「働く人が専門力やスキルを磨き、競争力を高められる制度だから」(48.7%)であり、前年調査から10.7ポイント上昇しています。

しかし、反対意見にも注目すべき論点があります。人材側が反対する最大の理由は「正しく成果を評価してもらえるとは限らないから」です。採用側も「採用や評価の制度を構築するのが難しいから」と回答しており、評価制度の設計と運用が最大のハードルになっています。たとえ客観的に適切な評価が行われたとしても、被評価者が「不当な評価」と感じれば企業へのエンゲージメントは低下します。この「納得感の醸成」が、ジョブ型雇用の成否を分ける決定的な要素です。

日本型メンバーシップとの摩擦

学習院大学の守島基博教授は、ジョブ型雇用について「すべての企業に適しているとは限らない」と指摘しています。日本企業では長年、メンバーシップ型雇用が定着してきました。新卒一括採用、ジョブローテーション、年功序列といった仕組みは、社員の幅広い能力開発と組織への帰属意識を育ててきた側面があります。

ジョブ型への転換は、こうした既存の仕組みを根本から見直す作業を伴います。ジョブディスクリプション(職務記述書)の作成ひとつをとっても、各職務の実態を現場にヒアリングし、情報を精査したうえで条件を明文化する必要があり、人事部門に大きな負荷がかかります。富士通では、ジョブ型移行後にマネジャーや経営陣の説明責任や検討事項が従来より増大したことが報告されています。

さらに、ジョブ型雇用では景気変動や技術革新により特定の業務自体が消滅した場合、ジョブローテーションという選択肢がないため退職につながるリスクがあります。メンバーシップ型であれば配置転換で対応できた状況が、ジョブ型では雇用の安定性を損なう要因となり得る点は見過ごせません。

注意点・展望

ジョブ型雇用の導入を検討する際、いくつかの重要な留意点があります。まず、欧米型のジョブ型をそのまま導入しても日本の労働慣行や法制度との整合性が取れない場合が多いです。守島教授が提唱する「職務・役割の明確化」から始めるアプローチは、段階的な移行を図るうえで現実的な選択肢です。

2026年度以降の新卒社員に対しては、初任給を一律とせずジョブレベルに応じて金額を決める動きが広がっています。これは若年層の専門性やスキルを入社時点から評価する流れを示しており、日本型ジョブ型雇用の新たな進化形といえます。

今後は、完全なジョブ型でもメンバーシップ型でもない「ハイブリッド型」の設計が主流になるとの見方があります。KDDIのように専門性と人間力の両方を評価に組み込む制度や、社内公募制度を拡充して社員の自律的キャリア形成を促す仕組みが、日本企業に適した解として定着していく可能性があります。制度の形だけを整えるのではなく、運用面での継続的な改善が成功の鍵を握っています。

まとめ

ジョブ型雇用は導入から数年が経過し、先行企業では社内公募の活性化や報酬体系の透明化といった一定の成果が見られます。一方で、評価制度への不安、ジョブディスクリプション作成の負荷、メンバーシップ型からの移行コストなど、期待した成果を十分に実現できていない企業も少なくありません。

重要なのは、ジョブ型かメンバーシップ型かという二項対立ではなく、自社の事業特性や組織文化に合った制度設計を追求することです。専門性の向上と組織としての一体感を両立させる「日本型ジョブ型雇用」の模索は、今後も続いていくことになります。

参考資料:

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