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by nicoxz

ジョブ型雇用の現在地、期待した成果は出たか

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はじめに

「ジョブ型雇用」が日本企業の人事制度として注目を集めてから数年が経ちました。日立製作所や富士通などの大手企業が相次いで導入を進めてきましたが、その成果はどうなっているのでしょうか。

学習院大学の守島基博教授は、ジョブ型雇用が「期待した成果は確認できていない」と指摘しています。本記事では、ジョブ型雇用の導入状況と課題、そして日本企業が目指すべき方向性について解説します。

ジョブ型雇用とは何か

基本的な定義

ジョブ型雇用とは、企業が職務内容・必要なスキル・経験などを明確に定めた職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づいて従業員を雇用する形態です。欧米では一般的な仕組みであり、「この仕事をやる人」として雇用契約を結びます。

対照的に、日本の伝統的な「メンバーシップ型雇用」は、「この会社の一員」として採用し、配置転換や異動を通じて幅広い業務を経験させる仕組みです。終身雇用や年功序列と深く結びついており、日本の雇用慣行の根幹をなしてきました。

なぜ注目されたのか

ジョブ型雇用が注目された背景には、複数の要因があります。グローバル競争の激化により、専門性の高い人材の確保が急務となりました。また、年功序列型の賃金体系では優秀な若手人材の報酬が抑えられ、外資系企業への流出が問題化しています。

政府も2024年8月に「ジョブ型人事指針」を公表し、日立製作所や富士通など先行企業の事例を紹介しました。制度面でもジョブ型への移行を後押しする環境が整いつつあります。

先行企業の導入実態

日立製作所の取り組み

日立製作所は2021年4月からジョブ型人事制度の運用を開始しました。全社員の職務記述書(300〜400種類程度)を作成し、職務の内容と求められるスキルを明確化しています。一律の初任給ではなく、個別の処遇設定を盛り込んだ「デジタル人財採用コース」も新設しました。

1on1ミーティングの導入や自律的キャリア形成のサポートなど、制度の運用を支える仕組みも併せて整備しています。2024年度中にジョブ型雇用への完全移行を目指して取り組みを進めてきました。

富士通の大胆な改革

富士通は2020年より段階的にジョブ型人材マネジメントを導入し、2023年には全社員を対象に年収を平均約7%、最大24%引き上げました。ジョブレベルに応じてグローバルに競争力のある報酬水準への底上げを実施しています。

新卒採用においても、あらかじめ計画数を定めず、必要な職務を担う人材を通年で採用する方式に転換しました。入社前に1〜6カ月の有償インターンシップの機会を設け、より実践的な業務に挑戦できる仕組みを導入しています。

期待した成果が確認できない理由

守島教授の指摘

守島基博教授は、人的資源管理論の第一人者として知られる研究者です。一橋大学名誉教授であり、現在は学習院大学経済学部で教鞭をとっています。

守島教授は、ジョブ型雇用が人材マネジメントシステムの「一部でしかない」と指摘しています。組織力や人材力を強化するためには、人事制度の変更だけでなく、組織文化の変革やマネジメントの転換が不可欠です。制度だけを入れ替えても、運用の段階で課題が生じます。

ハイブリッド型の矛盾

現在、多くの日本企業はメンバーシップ型雇用にジョブ型の評価要素を加えた「ハイブリッド型」を採用しています。しかし守島教授は、双方の特徴が混在することで「各々の良さが活かされていない」と懸念を示しています。

たとえば、職務記述書を作成しても、実際には従来通りの異動や配置転換が行われるケースがあります。ジョブ型の評価基準を導入しながら、年功的な昇進慣行が残るなど、制度と運用の乖離が生じています。

「号令だけで実態が伴わない」問題

調査データでも、ジョブ型雇用の課題は明らかです。従業員の65.2%、中途採用権者の72.7%が「ジョブ型雇用へシフトという号令だけで、実態が伴っていない」と回答しています。また、「人材育成方針を見直す必要がある」との回答も従業員の62.2%、中途採用権者の71.3%に上っています。

ジョブ型雇用に反対する理由としては、「採用や評価の制度を構築するのが難しい」(30.4%)、「従業員のスキルや成果を正しく評価できるか疑わしい」(22.8%)が上位に挙がっています。

注意点・展望

ジョブ型雇用の導入は、単なる人事制度の変更ではありません。守島教授が強調するように、企業運営の方法、現場管理職のマネジメント、さらには働く人の意識(キャリア観など)も変えなければ実現できないものです。

今後は、完全なジョブ型への移行ではなく、日本の雇用慣行に適合した「日本型ジョブ型」の模索が続くでしょう。重要なのは、制度の形式ではなく、従業員の専門性を高め、適切に評価・報酬に反映する仕組みを実質的に機能させることです。

2026年度からは、新卒入社時からジョブ型を適用する企業も増える見通しです。採用段階からの変革が進むことで、ジョブ型雇用の効果がより明確に表れる可能性があります。

まとめ

ジョブ型雇用は導入企業が増加しているものの、期待した成果は十分に確認できていない状況です。制度の導入だけでなく、組織文化や管理職のマネジメント、従業員の意識改革を一体で進める必要があります。

日立や富士通などの先行企業の経験から学びつつ、自社の実態に合った制度設計と運用を行うことが重要です。ジョブ型雇用は万能薬ではなく、企業全体の変革の一部として位置づけるべき取り組みです。

参考資料:

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