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by nicoxz

J-REITはなぜ都心を買えないのか 物件高騰が迫る地方シフト

by nicoxz
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はじめに

J-REITが「都心の優良物件を買いたくても買えない」局面に入りつつあります。背景にあるのは、東京の地価と賃料が上がり続ける一方で、取得時の利回りはむしろ縮んでいることです。物件価格が高すぎるため、借入金利や投資口の期待利回りを含む資本コストに見合う案件が減っています。

その結果、REITは都心の物件を高値で売却し、相対的に利回りの高い地方資産や用途分散型の物件へ入れ替える動きを強めています。短期的には分配金を守りやすい戦略ですが、長期で見ると賃料成長力や資産の流動性が落ち、投資口価格の評価まで重くなる恐れがあります。本記事では、なぜこのねじれが起きているのか、地方シフトがどこで悪循環に変わるのかを解説します。

都心を買えなくなった3つの理由

東京の物件価格は上がるのに、利回りは下がっている

まず確認したいのは、東京の不動産価格の強さです。国土交通省の2026年地価公示では、全国の商業地が前年比4.3%上昇したのに対し、東京都は12.2%上昇でした。都心のオフィス立地や商業立地には、国内外の資金がなお集中しています。

賃貸市場も強いままです。CBREによると、2025年10〜12月期の東京Aグレードオフィス空室率は0.7%まで低下し、賃料は坪4万1050円と17年ぶりに4万円台を回復しました。三鬼商事の2026年2月データでも、都心5区の平均空室率は2.20%、平均募集賃料は2万1969円で、前年同月比7.27%上昇しています。

問題は、これほど市況が良いにもかかわらず、取得利回りは逆に縮んでいることです。CBREは、東京プライムオフィスの期待NOI利回りが2025年末に3.13%まで低下し、過去最低を更新したとしています。賃料上昇期待があっても、入口利回りがここまで低いと、J-REITが投資家に約束すべき分配利回りや借入コストとの間に余裕がなくなります。

金利正常化で資本コストの壁が厚くなった

次に効いているのが金利です。日本銀行は2025年1月に政策金利を0.5%へ引き上げ、その後も同水準を維持しています。J-REITは借入依存度が高いビジネスモデルのため、金利正常化は新規投資の採算に直結します。以前なら成立した「低利借入で都心の低利回り物件を買い、賃料改善で回収する」戦略が、今は成立しにくくなっています。

さらに、J-REITは内部留保が薄く、外部成長には公募増資が欠かせません。ところがJAPAN-REIT.COMの分析によると、2025年の公募増資額は736億円と、リーマン危機直後以来の低水準でした。投資口価格が純資産価値を十分に上回らなければ、新規発行は既存投資主にとって希薄化要因になりやすく、増資に踏み切りにくいからです。

実際、2026年3月時点のJ-REIT市場では、P-NAVが0.7倍台の銘柄も珍しくありません。市場全体の平均分配金利回りは4.56%で、都心プライムオフィスの取得利回り3%台前半とは大きな開きがあります。もちろん単純比較はできませんが、物件を買っても一口当たり価値を押し上げにくいという感覚は、この数字から十分に読み取れます。

地方シフトはなぜ悪循環になりやすいのか

目先の分配金は守れても、成長力は薄まりやすい

都心物件を高く売って、地方や周辺都市の物件をより高い利回りで買う。これは会計上もキャッシュフロー上も理にかなう戦略です。J-REIT市場で最近増えているのは、まさにこの「資産入れ替え」です。CBREの集計でも、2024年後半から2025年にかけてJ-REITの売却が増え、ポートフォリオの組み替えが活発化していました。

ただし、ここに落とし穴があります。東京の優良オフィスや都心住宅は、賃料改定の余地が大きく、流動性も高い資産です。景気が多少揺れても、買い手が付きやすく、借り手も厚い。一方で地方資産は、取得時利回りこそ高く見えても、将来の賃料上昇率や出口の厚みでは都心に劣るケースが多くなります。

もちろん地方資産が一律に悪いわけではありません。福岡や札幌のように賃料上昇が続く都市もあります。ただ、都心の「希少性プレミアム」と同じ水準の資本価値成長を期待するのは難しいのが実情です。したがって、都心を売って地方を買う戦略を繰り返すほど、ポートフォリオ全体の成長期待は少しずつ削られやすくなります。

成長期待が下がると、次の増資がさらに難しくなる

悪循環の核心はここです。地方シフトで目先の利回りを確保しても、投資家が「将来の賃料成長は限定的だ」と判断すれば、投資口価格は上がりにくくなります。投資口価格が上がらなければ、公募増資のハードルはさらに高くなります。すると、都心の大型案件に再挑戦する資金調達力が一段と弱まり、また地方の高利回り物件に頼るしかなくなるわけです。

最近の事例でも、その方向性は見えます。Oneリート投資法人は2026年3月、東京のオフィス1件に加えて、那覇、成田、福岡、札幌、鹿児島のホテルをまとめて取得すると発表しました。用途分散と地方分散で収益基盤を安定させる狙いは合理的です。ただ、こうした案件が増えるほど、投資家の評価軸は「都心の賃料成長を取り込むREIT」から「利回り確保型REIT」へ寄りやすくなります。

つまり、地方シフトの問題は地方そのものではなく、都心アセットを取り込み続ける成長ストーリーを失うことにあります。大型スポンサーを持つ一部REITはなお都心の大型取得が可能ですが、中堅以下ではこの差が広がりやすいとみられます。

注意点・展望

今後を考えるうえで、よくある誤解は「東京が高すぎるなら地方へ行けば解決する」という見方です。実際には、地方物件は賃料上昇の天井、出口流動性、テナント代替性で都心より慎重な評価が必要です。利回りだけで判断すると、将来の資産価値成長を取りこぼす可能性があります。

一方で、すべてのJ-REITが悲観的というわけでもありません。東京の賃貸市況が強く、ホテルや物流など一部用途は成長余地があります。重要なのは、どのREITが単なる高利回り追求ではなく、都心の成長資産をどう維持しながら選別的に地方を組み込むかです。今後はスポンサー力、増資のしやすさ、賃料改定の実績が、J-REITの優勝劣敗をいっそう分けることになりそうです。

まとめ

J-REITが都心物件を買いにくくなった理由は明快です。東京の地価と賃料は上がり続ける一方、取得利回りは3%台前半まで低下し、日銀の金利正常化で資本コストは上がりました。しかも投資口価格が純資産価値を十分に上回らないため、公募増資も簡単ではありません。

その結果として起きる地方シフトは、短期的には分配金を守る現実策です。ただし、それが長引けば都心の成長力を捨てることになり、投資家評価の低下を通じて次の成長機会まで細らせる恐れがあります。J-REIT市場の本当の課題は、地方を買うことではなく、都心の強い成長資産に再びアクセスできる資本市場の回路をどう維持するかにあります。

参考資料:

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