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by nicoxz

丸紅が日立に学ぶ事業改革、失敗を糧に時価総額10兆円へ

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はじめに

丸紅の市場評価が急上昇しています。2025年の株価上昇率は五大商社の中でトップとなり、時価総額は住友商事を抜いて4位に定着しました。この躍進の背景には、過去の失敗から学び、新たな成長戦略を打ち出す経営姿勢があります。

2025年4月に就任した大本晶之社長は、一度退社してマッキンゼー・アンド・カンパニーを経験した「出戻り」という異色のキャリアの持ち主です。その大本社長の下で、丸紅は事業構造改革の「師匠」として日立製作所を参考にしているといいます。

本記事では、丸紅の過去の失敗事例と現在の成長戦略、そして日立製作所のV字回復から何を学ぼうとしているのかを詳しく解説します。

丸紅の「負け筋」ガビロン事業の顛末

穀物メジャーへの野望

丸紅は長年、世界の穀物メジャーへの仲間入りを目指してきました。その象徴が、2013年に約26億ドル(2700億円)で取得した米国穀物大手ガビロンです。この買収により、丸紅の穀物取扱量は5500万トンに到達し、世界トップクラスの穀物メジャーに匹敵する水準となりました。

当初の戦略は、米国での穀物集荷事業と中国を中心としたアジアでの販売網の相乗効果を発揮することでした。しかし、この壮大な計画は、想定通りには進みませんでした。

失敗の要因

ガビロン事業が失敗に至った要因は複合的です。まず、買収額が高すぎたことが挙げられます。買収を発表した2012年は穀物の国際価格が上昇傾向にありましたが、その後は下落に転じました。特に2014年以降は順調な生育による在庫増加で穀物全般に下落圧力がかかり続けました。

また、期待したシナジー効果の実現にも時間がかかりました。販売先の重複解消など、買収後の統合作業が具体的に動き出したのは、買収からかなり経ってからでした。さらに米中貿易摩擦による穀物輸出の減少も追い打ちをかけました。

巨額損失と撤退決断

2015年3月期にガビロンは買収のれんで500億円の減損損失を計上しました。さらに2020年3月期には783億円の減損損失が発生し、丸紅は1974億円の最終赤字に転落しました。過去にガビロン関連で計上した減損額は計約1200億円に上りました。

丸紅は2022年1月、ガビロンの穀物事業をカナダの穀物大手バイテラに売却することを発表。同年10月に売却が完了し、丸紅は30億ドル(4300億円)の資金を回収し、550億円の売却益を得ました。「穀物メジャー」の夢は頓挫しましたが、この決断が現在の復活への起点となりました。

日立製作所のV字回復に学ぶ

日立の危機と再建

丸紅が事業改革の「師匠」と仰ぐ日立製作所は、かつて国内製造業史上最大の危機を経験しています。2009年3月期、リーマンショック後の日立は7873億円という国内製造業で最大の最終赤字を計上しました。

この危機の背景には、コングロマリットの弊害がありました。各工場に大きな権限が与えられるなかでセクショナリズムが生じ、総合力を発揮できなくなっていたのです。「大艦巨砲主義」の悲劇ともいえる状況で、方向転換は容易ではありませんでした。

歴代3トップの改革のバトン

日立の再建を託されたのは、日立マクセル会長だった川村隆氏でした。川村氏は会長兼社長として本体に呼び戻され、トップダウンの意思決定体制を構築しました。緊急性のある事項については、社長兼会長と5人の副社長の計6人だけで100日間という期限を区切って意思決定する仕組みに変更しました。

社内カンパニー制を導入し、各カンパニーで財務状況の経営管理を徹底。薄型テレビからの撤退、自動車機器事業の再建、ハードディスクドライブ事業の売却など、かなり激しい事業構造改革を実施しました。22社あった上場子会社は売却または完全子会社化により整理されました。

構造改革の継承

日立の改革は川村隆氏から中西宏明氏、東原敏昭氏へと3代にわたって継承されました。10年以上も改革の流れが途絶えなかった理由は、構造改革の方向性がぶれなかったことにあります。

結果として、2011年3月期には2388億円の黒字となりV字回復を達成。2021年3月期には過去最高の5016億円の純利益を叩き出し、国内ではトヨタ自動車に匹敵する「最強グループ」となりました。凋落する日本の電機メーカーの中で、日立は事業構造改革に成功したレアケースといえます。

丸紅の新成長戦略

「出戻り社長」の抜擢

2024年11月、丸紅は大本晶之常務執行役員が2025年4月1日付で社長に昇格する人事を発表しました。大本氏は取締役や専務執行役員など14人を抜いての社長就任となり、トップ就任時の年齢55歳は丸紅では歴代3位の若さです。

大本氏の経歴は異色です。1992年に早稲田大学を卒業後、丸紅に入社。コスタリカや中国、トルコ、UAEでの発電事業に従事した後、2004年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。2006年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに転職しましたが、2007年に丸紅に「出戻り」しました。

中期経営戦略「GC2027」

丸紅は2025年2月、2025年度から3カ年の中期経営戦略「GC2027」を発表しました。2030年度までに時価総額10兆円超を目指すという目標を公表したのは同社初のことです。現在の約4兆円から2.5倍以上の成長を目指す野心的な計画です。

この3カ年を「成長加速の3カ年」と位置付け、1兆7000億円を新規投資や設備投資に充てます。そのうち1兆2000億円は、市場成長性の高い農業資材販売事業、北米モビリティ事業、電力事業などに振り向けます。残りの5000億円のうち、資源投資とインフラ・ファイナンス事業にそれぞれ2000億円、長期目線の「種まき」投資に1000億円を充てる計画です。

種まき投資の拡大

注目すべきは「種まき」投資の大幅な拡大です。2024年度までの資本配分では200億円だった種まき投資を、次期計画では5倍の1000億円に増額します。これは、ガビロン事業の失敗を経験しながらも、新領域への投資を躊躇せず、むしろ加速させる姿勢の表れです。

大本社長は「他社さんのことを意識しないということを大切にしている。自分たちの企業価値向上のために独自路線で考え抜くことを大切にしている」と述べています。時価総額10兆円も「あくまで通過点でしかない。もっと上があると思っている」との強気な姿勢です。

失敗から学ぶ企業文化

チャレンジを促す人事制度

丸紅では「チャレンジ」を重視し、一人ひとりがより高いレベルのミッションに果敢に挑戦できる風土づくりを進めています。過去の失敗を引きずってしまう可能性のある累積評価を改め、単年で評価を行い資格や報酬を洗い替える制度を導入しました。

この制度改革は、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成するためのものです。日立が「失敗から学ぶ」を人財育成の重要な要素として位置づけているように、丸紅も同様の姿勢で組織改革に取り組んでいます。

危機感の共有

丸紅の社員には強い危機感があるといいます。「10年後に丸紅という会社はないかもしれない」という意識から、自身の業務から得られる知識やスキルだけでなく、新しい学びを得たいと考える社員が多いとされています。

この危機感は、ガビロン事業の失敗という具体的な経験に裏打ちされています。失敗を他人事ではなく自分事として捉え、次のチャレンジに活かす姿勢が、組織全体に浸透しつつあります。

五大商社の中での丸紅の立ち位置

株価パフォーマンスでトップ

丸紅の2025年の株価上昇率は五大商社の中で首位となっています。ウォーレン・バフェット氏が2020年に五大商社株を取得して以来、商社株への注目は高まっていましたが、その中でも丸紅の評価が特に上昇しています。

商社・卸売セクター全体としても過去5年間で2.9倍という最も高いパフォーマンスを記録し、約1.8倍となった市場平均のTOPIXを大きく上回っています。

好調な業績

丸紅の2025年3月期連結決算では、純利益は前期比6.7%増の5029億円となり、アナリスト予想を上回りました。2026年3月期も純利益5100億円と前期比1.4%増を見込んでいます。

ガビロン事業からの撤退後、電力や金融・リースといった非資源分野を中心に安定的に収益を稼ぐ基盤が整いました。この構造改革の成果が、現在の好業績と株価上昇につながっています。

注意点・展望

課題とリスク

丸紅の成長戦略には、いくつかの課題もあります。1兆7000億円という大規模投資の実行には、適切な案件の発掘と精査が不可欠です。ガビロン事業のような高値掴みを繰り返さないための規律が求められます。

また、時価総額10兆円という目標は野心的であり、三菱商事(約14兆円)、三井物産(約12兆円)、伊藤忠商事(約11兆円)に追いつくためには、さらなる収益力の向上が必要です。

今後の見通し

大本社長の下で、丸紅は「独自路線」を貫く姿勢を明確にしています。日立製作所のように、失敗を糧にした構造改革を継続的に推進できるかが、今後の成長を左右する鍵となります。

五大商社間の競争は激化していますが、丸紅は「負け筋」から学んだ経験を武器に、新たな成長フェーズに入ろうとしています。失敗を恐れずにチャレンジし、失敗から学ぶという企業文化が根付けば、さらなる飛躍が期待できるでしょう。

まとめ

丸紅は、ガビロン事業という大きな失敗を経験しながらも、それを糧にして新たな成長戦略を打ち出しています。日立製作所のV字回復を「師匠」として学び、失敗から学ぶ企業文化の醸成に取り組んでいます。

「出戻り社長」である大本氏のリーダーシップの下、2030年度の時価総額10兆円という野心的な目標に向けて、1兆7000億円の投資を計画。五大商社の中で株価上昇率トップという評価は、市場がこの変革への期待を織り込み始めている証といえます。

失敗を認め、学び、次のチャレンジに活かす。この姿勢こそが、丸紅を五大商社の中で輝かせる原動力となっています。

参考資料:

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