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by nicoxz

仕事の「因数分解」がAI時代の生産性を左右する理由

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はじめに

JR盛岡駅前のビルに、地図づくりのプロ約200人が集う拠点があります。ゼンリンと並ぶ有力地図会社ジオテクノロジーズ(東京・文京)の開発拠点です。住所や道路、建物などのデータを大量に管理し、カーナビソフトや検索サービスを提供する同社は、2025年に米Googleから出資を受けました。

注目すべきは、同社が地図の更新に「社外の個人の力」を活かし始めている点です。2024年公開のアプリ「ジオクエスト」で、一般ユーザーが街中の施設を撮影し、その情報を地図データに反映しています。この取り組みは、AI時代における「仕事の因数分解」の好例といえます。

本記事では、複雑な業務を要素に分解し、人・AI・外部リソースで最適に分担する「因数分解」思考の重要性について解説します。

ジオテクノロジーズの革新的アプローチ

30年の歴史を持つ地図会社

ジオテクノロジーズは1994年の創業以来、一貫してデジタル地図を提供してきた企業です。翌1995年には地図ソフト「MapFan」を発売し、国内初のiモード地図、カーナビ、法人向け地図データ、そして高度な自動運転に不可欠なAD/ADAS用地図まで、幅広いソリューションを展開しています。

同社は元々パイオニアの子会社でしたが、2021年に独立。以来、新たな成長戦略を模索してきました。その象徴が、2025年9月に発表されたGoogleとの資本業務提携です。

Googleとの戦略的パートナーシップ

ジオテクノロジーズの地図データは、すでにGoogleマップでも採用されています。今回の提携では、単なるデータ提供を超え、AIを活用した地図データベース開発の効率化、自動運転・安全運転分野のソリューション強化など、幅広い分野での技術革新を目指しています。

八剱洋一郎社長は「従来の地理空間データ提供という枠組みを超え、Googleとの戦略的パートナーシップへと関係を深化させることができた」と述べています。この提携は、日本の地図会社がグローバルテック企業と対等に連携する好例といえます。

「ジオクエスト」に見る仕事の因数分解

クラウドソーシングによる地図更新

ジオテクノロジーズが2024年6月に公開した「ジオクエスト(GeoQuest)」は、地図更新作業を「因数分解」した好例です。従来、地図の更新には専門調査員が現地に赴き、写真撮影や情報収集を行う必要がありました。ビル名、コインパーキング、飲食店の開閉店情報など、人力での調査が必要な項目は多岐にわたります。

ジオクエストは、こうした調査作業を30種類以上の「クエスト」に分解し、一般ユーザーに開放しました。ユーザーは街中で指定された施設を撮影するだけでマイルが貯まり、Amazonギフトカードなどに交換できます。同社にとっては、より詳細でフレッシュな地図データを効率的に収集できる仕組みです。

専門性と汎用性の切り分け

この仕組みが機能する理由は、仕事の「専門性」と「汎用性」を明確に切り分けているからです。

専門家が担う部分:

  • データベース設計・管理
  • 品質管理・検証
  • AIによる画像解析
  • 地図サービスの開発

一般ユーザーが担える部分:

  • 現地の写真撮影
  • 施設情報の報告
  • 位置情報の提供

誰でもスマートフォンがあれば参加できる作業と、専門知識が必要な作業を分離することで、全体の効率が大幅に向上しています。

AI時代の「因数分解」思考

タスク分解の重要性

「因数分解」思考は、ジオテクノロジーズの事例に限らず、AI時代の働き方全般に適用できる考え方です。複雑な仕事を「小さな要素に分け(分解)」、その後「価値ある形にまとめ直す(統合)」能力が、これからのビジネスパーソンに求められています。

AIがあらゆる作業を高速で代替する時代、人が活躍する領域は「判断・構造化・意味づけ」といった上位概念へ移行しています。仕事を「目的」「要素」「手段」の3つに分けるところから、因数分解は始まります。

AIとの役割分担

AIはタスク分解に非常に適しています。その理由は以下の通りです。

  1. 論理的思考が得意: 順序立てて物事を考えられる
  2. 細かいステップも拾い上げる: 人間が見落としがちな要素も抽出
  3. 感情に左右されない: 冷静に分析できる

例えば「GoblinTools」のようなAIタスク分解ツールでは、行いたい仕事を一文入力するだけで、AIがその内容をToDoリストに分解してくれます。適切にタスクを分解することで、心理的ハードルの低下や進捗の可視化といったメリットが生まれます。

日本企業の課題と可能性

生成AI活用の遅れ

総務省の「令和6年版 情報通信白書」によると、「生成AIを活用する方針を定めている」と回答した日本企業の割合は約4割にとどまっています。同質問で約8割を超えた米国・ドイツ・中国と比較すると、半分以下という状況です。

しかし、この遅れは「因数分解」思考の欠如とも関連しています。AIをどう使うかという前に、そもそも自社の業務がどのような要素で構成されているか、どこがAIに任せられるかを分析できていない企業が多いのです。

生産性向上の実績

AI活用を進めた企業では、着実な成果が出ています。ハーバード大学の実証研究によれば、AI利用者は週間労働時間の5.4%に相当する時間を節約しています。重要なのは、その創出された時間を高付加価値業務に振り向けることで、時間あたりの生産性(時給)が明確に向上している点です。

AIが代替するのは「作業量」であり、人間が高めるべきは「労働の質」です。

今後の展望

代替されやすい仕事の特徴

AIに代替されていく仕事は、「多少間違っても許容される仕事」と指摘されています。いわゆるホワイトカラーのオフィスワーク・デスクワークの大部分がこれに該当します。

一方、AIによる影響を決めるのは年齢や役職ではなく、「どのようなスキル・仕事を担っているか」という点です。定型的なデータ入力、基本的な文書作成、単純な顧客対応といった高エクスポージャー職の雇用が減少する一方、創造的判断や複雑な対人関係を要する仕事は影響を受けにくいとされています。

因数分解できる人材の価値

これからの時代、仕事を因数分解し、AIや外部リソースと適切に役割分担できる人材の価値が高まります。ジオテクノロジーズの事例が示すように、専門性と汎用性を見極め、最適な担い手に割り当てる能力こそが、生産性向上の鍵となるでしょう。

まとめ

ジオテクノロジーズの「ジオクエスト」は、地図更新という専門的な業務を因数分解し、一般ユーザーの力を活用した好例です。Googleとの資本業務提携によってさらなる成長が期待される同社の取り組みは、AI時代の働き方変革を先取りしています。

複雑な仕事を要素に分解し、人・AI・外部リソースで最適に分担する「因数分解」思考は、これからのビジネスパーソンに必須のスキルです。自社の業務を見つめ直し、何をAIに任せ、何を人が担うべきかを明確にすることが、生産性向上への第一歩となるでしょう。

参考資料:

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