マイナ保険証利用率が半数目前、世代差が課題に
はじめに
マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用率が、ようやく国民の2人に1人に迫る水準に到達しました。2025年11月時点の最新データでは利用率49.48%と、半数超えが目前です。2021年10月の本格運用開始から4年あまり、ようやくたどり着いた節目の数字です。
しかし、数字の裏側には新たな課題が見え隠れしています。利用率の計算方法の変更や、世代間で大きく異なる利用実態など、厚労省を悩ませる問題が浮かび上がっています。本記事では、マイナ保険証の現状と課題を多角的に解説します。
利用率49%到達の道のりと計算方法の変更
急上昇の背景にある数字のカラクリ
マイナ保険証の利用率は、長らく低迷が続いていました。2024年2月時点ではわずか4.99%にすぎず、2025年2月でも26.62%にとどまっていました。それが2025年10月に約37%、11月に49.48%と急速に伸びています。
この急上昇には、計算方法の変更が影響しています。従来の利用率は、医療機関の受け付けでオンライン資格確認が行われた件数に対するマイナ保険証の利用件数で算出されていました。しかし、2025年10月分の公表からレセプト件数ベースでの計算に変更されました。
レセプト件数ベースとは、実際に診療報酬が請求された件数を分母とする方式です。この変更により、資格確認が行われても診療に至らなかったケースが除外され、実質的な利用率が高く表示される傾向があります。利用率の上昇は、制度の普及だけでなく、こうした統計上の要因も含まれている点に注意が必要です。
医療DX推進体制整備加算の段階的引き上げ
厚労省は医療機関に対し、マイナ保険証の利用を促す仕組みとして「医療DX推進体制整備加算」を設けています。この加算を算定するために求められるマイナ保険証利用率の基準は、段階的に引き上げられています。
具体的には、2025年9月までは30%、2025年10月から2026年2月までは40%、そして2026年3月から5月にかけては50%に引き上げられる予定です。電子処方箋を導入している医療機関の加算1では、2025年10月以降の基準が60%とさらに高い水準が求められます。
この基準引き上げは医療機関にマイナ保険証利用を促す大きなインセンティブとなっていますが、一方で基準を満たせない医療機関にとっては経営上の負担ともなっています。
浮き彫りになる「利用率の世代差」
65〜74歳がリード、若年層と後期高齢者は低迷
マイナ保険証の利用率を年齢別にみると、明確な世代差が存在します。最も利用率が高いのは65歳から74歳の層で、定期的に医療機関を受診する頻度が高いことが背景にあります。また、0歳から4歳の乳幼児層では保護者が手続きを行うため、直近で利用率の伸びが目立っています。
一方で、利用が低迷しているのが2つの世代です。まず、75歳以上の後期高齢者の利用率は25.79%と低く、70〜74歳の35.16%と比べても大きな差があります。次に、5歳から19歳の若年層も20%前後にとどまっており、15〜19歳では19.75%、10〜14歳では20.15%、5〜9歳では20.38%という状況です。
後期高齢者への特別対応と残る課題
75歳以上の後期高齢者については、機器の操作に不慣れな方が多いことから、特別な対応が取られています。令和8年(2026年)7月末までの間、マイナ保険証の保有状況に関わらず、全員に「資格確認書」が職権で交付される運用です。
この措置は後期高齢者が医療を受ける際の不安を軽減する目的がありますが、結果として「資格確認書があればマイナ保険証は不要」という意識を強める側面もあります。高齢者のデジタルリテラシー向上と並行して、使いやすさの改善が求められています。
若年層が利用しない理由
若年層の利用率が低い背景には、そもそも医療機関の受診頻度が低いことがあります。健康な若者は年に数回しか病院に行かないため、マイナ保険証のメリットを実感する機会が限られます。
また、保護者が手続きを管理する年齢層では、従来の保険証の方が使い慣れており、わざわざ切り替える動機が弱いという事情もあります。マイナ保険証のメリットである薬剤情報の一元管理や医療費控除の自動連携なども、若年層にとっては実感しにくい利点です。
医療現場の課題とトラブルの実態
約7割の医療機関がトラブルを経験
マイナ保険証の利用率向上を阻む要因として、医療現場でのトラブルも見逃せません。全国保険医団体連合会の調査によると、回答した医療機関の約69.8%が、マイナ保険証の資格確認に関する何らかの問題を経験しています。
具体的なトラブルとしては、資格情報の誤登録、カードリーダーの認証エラー、システムの反応遅延などが報告されています。とりわけ窓口が混雑する時間帯での認証エラーは、患者と医療スタッフの双方にストレスを与えます。
「利用率が著しく低い」医療機関への個別対応
厚労省は、利用率が著しく低い医療機関に対して個別アプローチを行う方針を打ち出しています。「なぜ利用が進まないのか」「困り事はないか」といった視点で、各医療機関の状況を把握し改善を支援する取り組みです。
しかし、根本的にはシステムの安定性向上と操作性の改善が不可欠です。医療という生活に密着した分野では、わずかな手続きの煩雑さや不具合が制度全体への不信感につながりやすいことが指摘されています。
注意点・展望
健康保険証廃止後の移行期間に注意
2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行は既に停止されています。ただし、既に発行済みの健康保険証は2025年12月1日まで使用可能です。マイナ保険証を持たない方には「資格確認書」が無償で交付されるため、医療を受けられなくなることはありません。
資格確認書の有効期限は最長5年で、カード型やはがき型などの形式は加入する医療保険者によって異なります。申請不要で交付されるため、手続きを忘れる心配はありません。
50%超えの先に待つハードル
利用率が50%を超えたとしても、その先の道のりは容易ではありません。2026年3月からの医療DX推進体制整備加算の基準値は50%に引き上げられ、さらに将来的には70%を目指す方向が示されています。
世代間の利用格差を埋めるには、後期高齢者向けのサポート体制の充実と、若年層にとってのメリットの明確化が不可欠です。単なる数字の目標達成ではなく、国民全体が便利だと実感できる制度設計が問われています。
まとめ
マイナ保険証の利用率が49.48%に達し、半数超えが目前となりました。しかし、計算方法の変更による押し上げ効果や、世代間で20〜30ポイントの開きがある利用格差など、数字の裏側には課題が残されています。
今後注目すべきは、2026年3月からの基準値引き上げへの対応と、トラブル削減による医療現場の信頼回復です。マイナ保険証を「使わざるを得ない制度」から「使いたい制度」に変えていくためには、利用率という数字だけでなく、利用者の満足度にも目を向ける必要があります。
参考資料:
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