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by nicoxz

肥満症薬で乗客が軽くなり、航空会社の燃費が改善

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はじめに

肥満症治療薬の普及が、意外な分野に追い風をもたらしています。航空業界です。

米国では、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる新世代の肥満症治療薬が成人の1割超に普及し、「国民病」ともいわれてきた肥満の比率が3年連続で低下しました。この社会的な変化が、航空機の燃費向上につながり、航空会社の利益を押し上げるという試算が注目を集めています。

本記事では、GLP-1薬の普及状況、航空会社への経済効果、そして今後の展望について解説します。

米国の肥満率が3年連続で低下

肥満症治療薬の急速な普及

米調査会社ギャラップによると、2025年の米国成人の肥満率は37.0%でした。肥満率は2022年に39.9%のピークに達してから3年連続で低下しています。これは推計で760万人の肥満成人が減少したことを意味します。

背景にあるのが、GLP-1受容体作動薬の普及です。2025年の米成人の使用率は12%と、前年の約2倍に増加しました。女性の使用率(15.2%)は男性(9.7%)を上回っていますが、いずれも過去1年で2倍以上に増えています。

錠剤タイプの登場で普及が加速

2026年1月、デンマークの製薬大手ノボノルディスクが錠剤タイプの肥満症治療薬「ウゴービ」の米国での販売を開始しました。同社によると、服用を続ければ体重の17%減少が期待できるとしています。

これまでGLP-1薬は週1回の自己注射が必要でしたが、経口薬の登場により利便性が大幅に向上しました。ウゴービ錠剤のキャッシュ価格は月額149ドルから299ドルと、市場で最も低い価格帯となっています。

イーライリリーも経口薬の承認を数か月以内に予定しており、2026年はGLP-1経口薬の年になると予想されています。

価格引き下げも追い風に

トランプ政権下で、GLP-1系肥満治療薬の価格を引き下げる新しい薬価スキーム(通称TrumpRx)が導入されました。これにより、ウゴービの月額費用は1,350ドルから最終的に250ドルまで削減され、メディケア患者の自己負担はわずか50ドルになります。

2025年には、Costcoがウゴービとオゼンピックを現金払い顧客向けに月額499ドルで販売を開始し、Walmartもイーライリリーのゼップバウンドについて同様の取り組みを展開しています。

航空会社への経済効果

年間5.8億ドルの燃料費削減試算

米投資銀行ジェフリーズは1月、顧客向けレポートで注目の試算を発表しました。乗客の平均体重が10%減少すれば、航空機の総重量が約2%減り、燃料費が最大1.5%削減され、1株当たり利益が最大4%向上するというものです。

米大手4社(アメリカン、デルタ、サウスウエスト、ユナイテッド)で年間5億8,000万ドル(約880億円)の燃料費削減が見込めると試算しています。これらの航空会社は今年、燃料費に合計386億ドルを費やすと予想されています。

具体的な計算例

ジェフリーズはボーイング737MAX8型機を例に試算を行いました。同機の運航時空虚重量は約99,000ポンド(約4万5,000キログラム)で、燃料約46,000ポンド、積載量約36,000ポンドの容量があります。

178人乗りの構成で、乗客の平均体重を180ポンド(約82キログラム)と仮定すると、乗客の総重量は約32,000ポンドになります。平均体重が10%減って162ポンドになれば、乗客の総重量は約3,200ポンド減少し、最大離陸重量の約2%に相当します。

年間数千便を運航する中で、この効果は無視できない規模になります。

燃料費は最大のコスト要因

国際航空運送協会(IATA)によると、航空機燃料の費用は航空会社の運営コストの2〜3割を占めています。サウスウエスト航空は2025年7〜9月期の四半期報告書で、燃料価格が1ガロン当たり1セント変動すれば、四半期の燃料費が数百万ドル単位で増減すると説明しています。

わずかな体重変化でも、業界全体で見れば大きなコスト削減につながる可能性があります。

注意点・今後の展望

懐疑的な見方も

すべての専門家がこの試算に同意しているわけではありません。ニューヨークの形成外科医クリシュナ・ヴィヤス医師は、現在の状況では「GLP-1薬の使用は限定的で、不均一かつ短期間であり、人口レベルで平均乗客体重を有意に下げるには至らない」と指摘しています。

実際、多くの患者が1〜2年以内に治療を中止しており、服用を止めると体重が戻ることが一般的です。長期的な効果については不確実性が残ります。

副次的な影響も考慮が必要

ジェフリーズのレポートでも、燃料費削減の試算には、乗客の体重減少に伴う機内軽食販売の減少など、付随的な収益減少は考慮されていないと注記されています。

GLP-1薬には食欲を抑える効果があるため、機内での飲食消費が減少する可能性があります。航空会社にとっては、燃料費削減と引き換えに他の収益源が減るトレードオフがあるかもしれません。

次世代薬のさらなる効果

イーライリリーは、次世代GLP-1薬「レタトルチド」の臨床試験を完了しつつあります。この薬はGLP-1とGIPに加え、グルカゴンという第3のホルモンもターゲットにしており、2025年12月の第3相臨床試験では、最高用量の患者が約16か月後に平均で体重の約29%を減少させました。

より効果の高い薬が普及すれば、航空業界への経済効果もさらに大きくなる可能性があります。

まとめ

GLP-1肥満症治療薬の普及は、米国社会に大きな変化をもたらしています。成人の1割超が使用し、肥満率は3年連続で低下しました。錠剤タイプの登場と価格引き下げにより、今後さらに普及が進むと予想されています。

航空業界にとっては、乗客の体重減少が燃料費削減という形で恩恵をもたらす可能性があります。年間5.8億ドルという試算は楽観的な見方かもしれませんが、燃料費が最大のコスト要因である航空会社にとって、無視できない要素になりつつあります。

肥満症治療薬という医療分野のイノベーションが、思わぬ形で他の産業に波及効果をもたらす事例として、今後の動向が注目されます。

参考資料:

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