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by nicoxz

中外製薬がリバウンドを防ぐ次世代肥満症薬を開発、2028年承認申請へ

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はじめに

中外製薬がリバウンドを防ぐ肥満症薬を2028年にも承認申請する方針を明らかにしました。開発中の「GYM329」は、体重が減っても体が消費するエネルギーの水準を保つのが特徴です。治療後に体重が戻るのを阻むと期待されています。

肥満症薬の世界市場は約4兆5000億円(約300億ドル)で、2020年以降に急拡大しました。需要が伸びる中、使いやすさや副作用の少なさを備えた次世代薬をめぐる競争が熱を帯びています。

本記事では、中外製薬の次世代肥満症薬と、急成長する市場の動向を解説します。

GYM329の特徴と開発状況

ミオスタチンをターゲット

中外製薬が開発中のGYM329は、バイオ医薬品(生物由来の細胞などを利用する種類の医薬品)です。独自の「スイーピング抗体技術」を活用して開発されています。

GYM329はミオスタチンという物質を除去することで筋肉量を増やす効果が期待されています。ミオスタチンは筋肉の成長を抑制するタンパク質であり、これを阻害することで筋肉量の維持・増加が可能になります。

GLP-1薬との併用で相乗効果

中外製薬は2024年5月、GYM329とチルゼパチド(GLP-1/GIP受容体作動薬)との併用による第2相(P2)臨床試験を開始しました。

既存のGLP-1受容体作動薬は、体重減少効果が高い一方で、筋肉量の減少やリバウンドが課題とされています。GYM329との併用により、これらの弱点を克服することが期待されています。

承認申請は2028年以降

中外製薬はGYM329について、2028年以降の承認申請を予定しています。臨床試験の結果次第では、肥満症治療に新たな選択肢が加わることになります。

既存の肥満症薬とリバウンド問題

中止後の体重増加

現在普及しているGLP-1受容体作動薬には、服用を中止すると体重が再び増加する「リバウンド」の問題があります。

米国ワイルコーネル医科大学の試験では、GLP-1/GIP二重作動薬を9カ月間投与して20%以上の体重減少に成功した患者が、薬をやめると1年で元の体重の約3分の2がリバウンドしたと報告されています。

リバウンドのメカニズム

リバウンドが起こる原因は複数あります。まず、薬の服用を中止すると食欲抑制や代謝促進などの薬理作用が失われます。また、人間の体には恒常性という働きがあり、急激に体重が減少すると、元の体重に戻そうとする力が働きます。

さらに深刻なのは筋肉量の減少です。急激にカロリー摂取を減らすと、体は飢餓状態と判断し、代謝を抑えてエネルギー消費をセーブしようとします。これに加えて筋肉量が減少すると基礎代謝が落ち、食事を元に戻した途端に体重が戻りやすくなります。

長期投与の必要性

日本では、ウゴービは最大68週間、ゼップバウンドは72週間という最大投与期間が設定されています。しかし、肥満は慢性的な症状であり、専門家の間では高血圧や糖尿病と同じく長期的な管理が必要と考えられています。

急成長する肥満症薬市場

市場規模の急拡大

肥満症治療薬市場は急速に拡大しています。1年前には2030年に1000億ドル規模と予想されていましたが、今年には1500億ドル、さらに2000億ドルまで拡大する可能性が指摘されています。

GLP-1受容体作動薬市場は、2026年の733.9億ドルから2034年には2541.9億ドルに成長し、年平均成長率(CAGR)は16.80%と見込まれています。

主要製品の売上

ノボノルディスクのオゼンピックは2024年の世界総売上が458.78億ドルで、医薬品としてダントツの首位です。肥満症向けのウゴービも154.08億ドルと急成長しています。

イーライリリーのゼップバウンドも2025年第2四半期の売上が33.8億ドル(前年比172%増)と好調です。直接比較試験では、ゼップバウンドの72週時点での体重減少率が20.2%で、ウゴービの13.7%を大きく上回りました。

次世代薬の開発競争

経口薬の開発

次世代の競争軸は経口肥満症治療薬です。現在の主力製品は注射薬ですが、患者の利便性を考えると経口薬の需要は大きいです。

中外製薬が創製した経口GLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロンは、米イーライリリーに導出されました。臨床試験では10%程度の体重減少が確認されており、2026年の発売が見込まれています。

各社の開発状況

ノボノルディスクはGLP-1とアミリンをターゲットとするカグリセマの米国承認が2026年中に予想されます。臨床第3相試験では22%の減量効果が示されました。

ロシュ、ベーリンガーインゲルハイム、アストラゼネカ、メルクなど大手製薬会社も臨床試験を進めており、競争は激化しています。

中外製薬の戦略

中外製薬は肥満症・糖尿病領域に本格参入しています。オルフォルグリプロンをイーライリリーに導出する一方、スイス・ロシュが買収で獲得したGLP-1/GIP受容体作動薬「CT-388」を導入しました。

GYM329はミオスタチンをターゲットとする新しいアプローチであり、既存のGLP-1薬とは異なる角度から肥満症治療に貢献する可能性があります。

今後の展望と課題

日本市場の状況

日本の肥満症治療薬市場はまだ立ち上がりの段階です。ウゴービは投与にあたって6カ月間の食事・栄養指導が必要なこともあり、2024年9月までに処方実績が上がったのは32施設と低調でした。

国の試算では、ウゴービのピーク時年間売上は約328億円、ゼップバウンドが319億円と見込まれています。

リバウンド問題の解決が鍵

肥満症治療の普及には、リバウンド問題の解決が欠かせません。追跡調査では、投薬中止後も生活習慣の改善を維持した患者ではリバウンド率が大幅に低下したとの報告もあります。

中外製薬のGYM329のように、筋肉量を維持しながら体重を減らすアプローチは、リバウンド問題の解決に貢献する可能性があります。

まとめ

中外製薬が開発中のGYM329は、ミオスタチンを除去して筋肉量を維持することで、既存のGLP-1薬の弱点であるリバウンドを防ぐことが期待されています。2028年以降の承認申請を目指しており、実用化されれば肥満症治療に新たな選択肢が加わります。

肥満症薬市場は2000億ドル規模まで拡大する可能性があり、次世代薬をめぐる競争は激化しています。使いやすさ、副作用の少なさ、そしてリバウンド防止という課題を克服した薬が、市場を制することになるでしょう。

参考資料:

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