原油安がもたらす株高——ベネズエラ攻撃後も市場は冷静
はじめに
米軍によるベネズエラ攻撃という地政学的衝撃にもかかわらず、原油価格は下落基調を維持し、世界の株式市場は堅調に推移しています。
2026年最初の取引となる1月5日の東京株式市場では、日経平均株価が前年末比1493円高と大幅反発。翌6日には過去最高値を更新しました。原油安がインフレ抑制期待を高め、株式市場を支えるという構図が鮮明になっています。
なぜベネズエラ危機にもかかわらず原油は下がったのか、そして株高はどこまで続くのか——市場の反応を読み解きます。
原油市場——予想外の冷静さ
下落で反応した原油価格
トランプ政権が1月3日にベネズエラを攻撃した直後、原油価格は一時的な変動を見せました。日曜夜の取引開始時にWTI(米国産標準油種)は下落し、その後も上下動を繰り返しました。
ブレント原油は1バレル約60ドル、WTIは58ドルを下回る水準で推移。米国がベネズエラ船舶から石油を差し押さえ始めた際には一時60ドルを超えましたが、その後再び57ドル台に戻りました。
世界最大の確認埋蔵量を持つベネズエラへの軍事攻撃という重大イベントにもかかわらず、市場の反応は総じて抑制的でした。
なぜ原油は上がらなかったのか
市場が冷静な理由はいくつかあります。
1. 供給過剰の継続
原油市場は2026年も供給過剰基調が続いています。OPECが増産に転じる中、世界経済の減速でエネルギー需要は伸び悩んでいます。一部のアナリストは「WTI50ドル割れに備えよ」と警告し、ベネズエラからの供給回復がさらなる価格下落圧力になると指摘しています。
2. 石油インフラへの影響なし
米軍は首都カラカスなどを攻撃しましたが、ベネズエラの石油関連インフラへの被害は確認されていません。生産能力が維持されたことで、即座の供給途絶懸念は後退しました。
3. 長期的な増産期待
ベネズエラは現在、日量約110万バレルの原油を生産しており、そのほとんどが中国とインドに輸出されています。米国の制裁解除により、シェブロンなど米国企業が再びベネズエラの石油生産に参入すれば、生産量は大幅に増加する可能性があります。
あるアナリストは「ベネズエラの政権交代は、2026〜27年以降の世界石油供給見通しにとって最大の上振れリスク」と指摘しています。
地政学リスクの過小評価?
一方で、市場が地政学リスクを過小評価しているとの懸念もあります。エネルギー調査会社Kplerのアメナ・バクル氏は「市場は地政学リスクの影響を過小評価しており、価格にリスクプレミアムが十分に織り込まれていない」と警告しています。
短期的には、制裁、封鎖、地政学的混乱への懸念から大手石油会社がベネズエラへの大規模投資を躊躇する可能性があり、供給増には時間がかかるとの見方もあります。
日経平均——大発会で過去最高値更新へ
2026年初日は1493円高
2026年の大発会となる1月5日、日経平均株価は前年末終値(50,339円)から1493円(2.97%)高い51,832円で取引を終えました。上げ幅は一時1200円を超え、市場は新年早々活況を呈しました。
翌6日も上昇が続き、終値は52,518円を記録。2025年10月31日につけた過去最高値(52,411円)を更新しました。
株高の3つの要因
日経平均の急騰には複数の要因が重なりました。
1. 米国半導体株の上昇
2日の米国市場で人工知能(AI)や半導体関連銘柄が軒並み上昇。この流れを引き継ぎ、アドバンテスト、東京エレクトロンなど日本の半導体関連株に買いが集まりました。AI普及を背景に旺盛な半導体需要が続くとの見方が支えています。
2. 原油安によるインフレ抑制期待
原油価格の下落は、インフレ抑制につながるとの思惑を生みました。エネルギー価格の安定は企業のコスト負担を軽減し、消費者の購買力を維持する効果があります。
3. 円安・輸出関連への追い風
円相場が1ドル=157円台まで下落したことで、トヨタ自動車など輸出関連株にも買いが入りました。円安は輸出企業の円建て収益を押し上げる効果があります。
ベネズエラ攻撃の影響は「限定的」
野村證券の分析によれば、米国によるベネズエラ攻撃はリスクイベントではあったものの、結果的に株式市場には追い風となった面が強いとされています。
ベネズエラの原油資源活用への期待から、エネルギー関連企業の株価が上昇したことも、市場全体のセンチメントを改善させました。
米国株市場——「異例のパターン」
株と金が同時に上昇
興味深いのは、米国市場でリスク資産である株式と、安全資産である金が同時に上昇した「異例のパターン」が見られたことです。
通常、地政学リスクが高まると投資家は株式から金などの安全資産に資金を移します。しかし今回は、ベネズエラの石油資源活用への期待(株式上昇要因)と、地政学リスクへの備え(金上昇要因)が同時に作用しました。
エネルギーセクターの恩恵
トランプ大統領が「米国がベネズエラの石油埋蔵量を管理する」と発言したことで、米国エネルギー企業への恩恵期待が高まりました。シェブロン、エクソンモービルなど大手石油株が買われ、エネルギーセクター全体を押し上げました。
今後の注目点
原油価格の行方
短期的には原油価格の下落基調が続く可能性があります。供給過剰という基本構造に加え、ベネズエラの生産回復期待が重しとなっています。
ただし、ベネズエラの政治的安定には時間がかかる見通しで、石油生産の本格回復には不確実性が残ります。地政学リスクが顕在化すれば、原油価格が急騰するシナリオも排除できません。
株式市場への影響
原油安が続く限り、インフレ抑制期待が株式市場を下支えする構図は続くと見られます。特に、米国FRBの金融政策に影響を与える可能性があり、利下げ期待が高まれば株高の追い風となります。
一方で、AI・半導体関連株の高騰がバブル的との懸念もあり、バリュエーションの正当性には注意が必要です。
注意点と今後の展望
地政学リスクの再燃に警戒
現在の市場は「良いとこ取り」の状態にあるとも言えます。ベネズエラ攻撃という重大イベントを消化しつつ、原油安と株高の恩恵を享受しています。
しかし、ベネズエラの政情が不安定化したり、ロシアや中国が強硬に反発したりすれば、市場のセンチメントは急変する可能性があります。
日本株の独自要因にも注目
日経平均の上昇は海外要因だけでなく、東京証券取引所の資本効率改革や企業の株主還元強化といった国内要因も寄与しています。外部環境に左右されにくい構造的な株高要因があるかどうかの見極めが重要です。
まとめ
トランプ政権によるベネズエラ攻撃という地政学的衝撃にもかかわらず、原油価格は下落基調を維持し、日経平均は過去最高値を更新しました。供給過剰による原油安がインフレ抑制期待を高め、株式市場を支える構図が鮮明です。
ただし、この「原油安=株高」の方程式がいつまで続くかは不透明です。ベネズエラの政治的安定、米中関係、FRBの金融政策など、複数の変数が絡み合う中で、投資家は引き続き慎重な姿勢が求められます。
参考資料:
- 日経平均終値1493円高 2026年もAI活況、ベネズエラ攻撃の影響限定的 - 日本経済新聞
- 原油市場、ベネズエラショック吸収可能の見通し - Bloomberg
- 原油市場ひとまず静観 ベネズエラの生産量、政権安定なら倍増観測 - 日本経済新聞
- 日経平均株価が最高値を更新 米国のベネズエラ攻撃でも株高が進んだ3つの要因 - 野村證券
- Venezuela attack unlikely to shake oil markets in near term - CNBC
- Oil prices set to face limited impact after US attack on Venezuela - The National
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