老朽火力の廃止情報を事前共有へ、電力安定供給に向けた新たな仕組み
はじめに
経済産業省は、火力や原子力などの大規模電源の休廃止情報を、発電会社から送配電会社に事前に伝えるよう義務付ける方針を示しています。9カ月以上前の連絡を求める制度で、電気事業法の改正案に盛り込む予定です。
老朽火力が増える中、送配電会社の送電網の整備や運用に支障が生じないようにすることが目的です。現行制度では発電会社は経産省への届出義務がある一方、送配電会社に伝える義務はなく、休廃止直前まで情報が共有されないケースもありました。
本記事では、電力の安定供給に向けた新たな制度の背景と、老朽火力の廃止が進む日本の電力事情について解説します。
火力発電所の休廃止が加速
7年間で1600万kW減少
日本の火力発電所の設備容量は急速に減少しています。経済産業省の資料によると、2016年度と2023年度を比較して、火力の設備容量は約1600万kW程度減少しました。燃種別では、石油等火力が約2200万kW減、LNG火力が約300万kW減となっています。
この背景には、2016年の電力小売自由化があります。多くの新規事業者が参入する中で電力会社の採算が悪化し、収益性の低い余剰設備を稼働・保有し続けることが困難になりました。その結果、老朽化した火力発電設備の休廃止が相次いでいます。
計画的でない廃止も
経産省は「老朽火力の休廃止が加速している」と分析しています。「十分なリードタイムを持って計画的に休廃止しているケースもあれば、1〜2年前に急遽休廃止を決定するケースもある」と、休廃止計画の実態を明らかにしています。
急な廃止決定は、送配電網の整備計画や電力需給の見通しに支障をきたす可能性があります。
2026年夏の電力需給逼迫
東京エリアで予備率0.9%
経済産業省が公表した「2026年度の電力需給見通し」によると、東京エリアの2026年8月の予備率はわずか0.9%と、安定供給の目安である3%を大きく下回る見通しです。この数値は2025年8月の7.2%から6.3ポイントも低下しており、経産省は「非常に厳しい見通し」と明記しています。
2026年8月は、供給力の減少(256万kW減)に加え、需要の増加(129万kW増)が重なり、需給バランスが危機的な状況になる見込みです。
緊急対応の可能性
経産省は「準備中の追加対策を講じなければ、需給バランスが崩れるリスクがある」としています。現時点では、他エリアからの融通や一部火力の稼働率向上によって最終的には3%以上を確保できる見込みとしていますが、補修が長引いた場合やトラブル発生時には、節電要請を含む緊急対応を実施する可能性を示唆しています。
新制度の内容と狙い
送配電会社への事前連絡を義務化
現行制度では、発電会社は電源の休廃止を経産省に9カ月前に届け出る義務があります。しかし、送配電会社に伝える義務はなく、休廃止直前まで情報が共有されないケースがありました。
新制度では、発電会社から送配電会社への事前情報共有を義務付けます。これにより、送配電会社は送電網の整備計画や運用計画を早期に見直すことができるようになります。
電力広域的運営推進機関の権限強化
また、電力需給の調整機関である電力広域的運営推進機関(OCCTO)の法的権限も拡大されます。経産相に対して供給力の確保に向けた措置をとるよう意見できるようになり、電力の安定供給に向けた体制が強化されます。
廃止の踏みとどまりを促す措置
供給不足が予想されるときは、発電会社に廃止を踏みとどまってもらうための維持費補塡措置も講じられます。いったん休止した発電所の再稼働を促す施策も含まれています。
送電網の課題と対策
地域間連系線の増強
日本の電力系統は、北海道や東北、東京といったエリアごとに需給バランスが管理されており、エリア同士は地域間連系線という送電線で結ばれています。しかし、送電可能な容量が十分ではないとの問題は以前から指摘されていました。
北海道本州間の連系設備や東北東京間連系線、東京中部間連系線の増強が進められており、2027年度中の増強完了が予定されています。これにより、あるエリアで供給力が不足した場合でも、他エリアから電力を融通しやすくなります。
再エネ拡大への対応
再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、送電網の役割はより重要になっています。太陽光や風力は天候によって発電量が変動するため、広域での電力融通が欠かせません。火力発電所の休廃止情報を事前に把握することで、送配電会社は再エネを含めた全体の電力需給をより正確に予測できるようになります。
今後の見通し
2027年度以降も供給力減少の見込み
2027〜2033年度にかけては、現在より約200万kW程度火力の設備容量が減少する状態が見込まれています。容量市場のオークションで必要な供給力を確保できなくなるおそれも指摘されています。
GX政策との両立
2026年度にはGX排出量取引が本格稼働し、2028年度から化石燃料賦課金が新たに導入される見通しです。脱炭素化を進めながらも電力の安定供給を確保するという、難しいバランスが求められています。
企業の対応策
電力需給の逼迫リスクに備え、企業には契約メニューの見直し、需要ピーク時の負荷抑制(デマンドレスポンス)、自家消費型再エネ・蓄電池導入によるピークカットなどの取り組みが求められています。
まとめ
経産省が進める火力発電所の休廃止情報の事前共有義務化は、電力の安定供給を確保するための重要な施策です。老朽火力の廃止が加速し、2026年夏には東京エリアで電力需給が逼迫する見通しの中、送配電会社が早期に情報を把握できる仕組みの構築は急務となっています。
脱炭素化と電力安定供給の両立という課題に向けて、電力システム全体の改革が進められています。電気事業法の改正を通じて、より柔軟で強靱な電力供給体制の構築が期待されます。
参考資料:
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