楽天が1.5万人にストックオプション付与、その狙いと意義
はじめに
楽天グループは2026年1月15日、グループの役員および従業員約1万5000人を対象とした大規模なストックオプション(株式購入権)の発行を発表しました。この施策は、100株をわずか1円で購入できるという破格の条件で、優秀な人材の確保とグループ全体の士気向上を目指すものです。
日本のIT企業において、これほど広範な従業員を対象としたストックオプション制度は珍しく、業界内外から注目を集めています。本記事では、今回の施策の詳細と背景、そして楽天グループの経営戦略における位置づけについて詳しく解説します。
ストックオプション付与の詳細
対象者と付与数
今回のストックオプション付与の対象となるのは、楽天グループの子会社取締役3人と、楽天グループ本体および子会社の役員・従業員1万5584人です。それぞれに対して、計93個と計5万221個の新株予約権が付与されます。
特筆すべきは、入社2年目以降の一般従業員から取締役まで、幅広い層が対象となっている点です。これは「役職員の大多数が潜在的株主になることで、企業価値向上に対する当事者意識を強める」という楽天グループの方針を反映しています。
行使価格と権利行使期間
今回付与されるストックオプションでは、100株をわずか1円で購入することが可能です。これは事実上、株式の無償付与に近い条件であり、従業員にとって非常に魅力的なインセンティブとなります。
権利行使期間は、発行日から1年後を起点として10年間となっています。例えば2026年2月1日が発行日となった場合、2027年2月1日から2036年2月1日までが権利行使期間となります。
段階的な権利行使スケジュール
ストックオプションの行使には段階的な制限が設けられています。発行日から1年間は権利行使ができず、その後は以下のスケジュールで行使可能な割合が増加します。
- 発行日の1年後〜2年後:付与された権利の15%まで行使可能
- 発行日の3年後〜4年後:付与された権利の65%まで行使可能
- 発行日の4年後以降:すべての権利を行使可能
このような段階的な制限は、優秀な人材の長期的な定着を促進する効果があります。
大規模ストックオプション導入の背景
IT業界における人材獲得競争
日本のIT業界では、デジタルトランスフォーメーションの加速に伴い、エンジニアやデータサイエンティストなどの高度人材の獲得競争が激化しています。特に楽天グループのような大手IT企業は、外資系テック企業やスタートアップとの人材獲得競争に直面しています。
経済産業省が公開した「インセンティブ報酬ガイダンス」によると、ほとんど(80〜90%)のスタートアップが採用のためにストックオプションを活用しており、付与比率も年々増加傾向にあります。楽天グループとしても、こうした潮流に対応する必要があったと考えられます。
楽天グループの報酬制度設計
楽天グループは、職位や役割が大きい人ほど、業績連動報酬やストックオプションの総報酬に占める割合が高くなるよう報酬制度を設計しています。一方で、比較的職位が低い従業員にも広くストックオプションを付与することで、グループ全体としての一体感を醸成する狙いがあります。
報酬総額の決定においては、グループの営業利益目標の達成度、各グループ会社・事業の業績、個人の人事評価結果などが反映されます。ストックオプションの価値は株価に連動するため、従業員は株主と利益・不利益を共有する形となり、業績向上への貢献意欲が高まる効果が期待されています。
楽天グループの現状と今後の展望
業績回復の兆し
楽天グループの2025年12月期第3四半期決算では、売上収益が前年同期比10.5%増の1兆7876億円、Non-GAAP営業利益が583億円の黒字に転換するなど、業績は大幅に改善しています。長らく赤字が続いていた楽天モバイル事業も、2024年12月にEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の単月黒字化を達成しました。
楽天モバイルの契約者数は2025年11月時点で950万回線を突破しており、1000万回線の達成も視野に入っています。これらの改善を背景に、株価も回復基調にあり、アナリストの平均目標株価は約1008円と、現在の株価水準から上昇余地があるとの見方が示されています。
人材戦略の重要性
楽天グループは国内外で70以上のサービスを展開しており、EC、フィンテック、モバイルなど多岐にわたる事業を運営しています。2024年12月時点での連結従業員数は約2万9334人で、これだけの規模の組織を効率的に運営し、成長させていくためには、優秀な人材の確保と定着が不可欠です。
今回のストックオプション付与は、既存従業員のモチベーション向上だけでなく、新規採用における競争力強化にも寄与すると期待されています。特に人材獲得競争が激しい海外拠点においては、魅力的な報酬パッケージが採用活動の成否を左右する重要な要素となります。
注意点と展望
ストックオプションのリスク
ストックオプションは株価上昇時には大きなリターンをもたらしますが、株価が下落した場合には期待した利益が得られない可能性があります。楽天グループの株価は過去数年で大きく変動しており、2021年3月には1545円の高値を記録した一方、2023年6月には466円まで下落した経緯があります。
従業員としては、ストックオプションを報酬の一部として捉えつつも、株価変動リスクを認識しておく必要があります。
今後の動向
楽天グループは2025年度の通期EBITDA黒字化を目標として掲げており、達成されれば株価のさらなる上昇が期待できます。一方で、自己資本比率が4.3%と低い水準にあるなど、財務体質の課題も指摘されています。
今回のストックオプション制度が従業員のエンゲージメント向上と業績改善の好循環を生み出せるかどうかが、楽天グループの中長期的な成長を左右する重要な要素となるでしょう。
まとめ
楽天グループが実施する約1万5000人規模のストックオプション付与は、日本のIT業界において注目すべき人材戦略の一例です。100株を1円で購入できる破格の条件と、入社2年目から取締役まで幅広い層を対象とする点が特徴的です。
業績回復の兆しが見える中、従業員と株主の利益を一致させることで、グループ全体の一体感と成長意欲を高める狙いがあります。人材獲得競争が激化する中、このような大規模なインセンティブ制度が今後の企業経営においてどのような効果をもたらすか、引き続き注目されます。
参考資料:
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