ルノー最終赤字2兆円、日産株損失の全容
はじめに
フランス自動車大手ルノーが2026年2月19日に発表した2025年12月期通期決算は、最終損益が109億3,100万ユーロ(約2兆円)の赤字となりました。前年の7億5,200万ユーロの黒字から一転、巨額の損失を計上しています。
赤字の主因は、保有する日産自動車株の会計処理変更に伴う約93億ユーロの非現金損失です。一方で、本業の営業利益は36億ユーロ(営業利益率6.3%)を確保しており、事業そのものは堅調に推移しています。
この記事では、巨額赤字の背景にある日産との関係変化、プロボCEO体制での事業見直し戦略、そしてルノーの今後の展望を解説します。
巨額赤字の背景:日産株の会計処理変更
持ち分法適用から金融資産へ
ルノーは長年にわたり日産の主要株主として、日産株を持ち分法適用対象として会計処理してきました。しかし、2025年3月に両社はアライアンス契約を改定し、相互出資の最低比率を従来の15%から10%に引き下げることで合意しました。
この出資比率の引き下げにより、ルノーは2025年6月30日付で日産株を「金融資産」として再分類しました。持ち分法適用では帳簿上の価値が維持されていましたが、金融資産として時価評価に移行したことで、日産の株価下落がそのまま損失として計上されることになったのです。
非現金損失93億ユーロの意味
この会計処理変更により計上された損失は約93億ユーロにのぼります。2025年上半期決算の時点ですでに111億ユーロの最終赤字を計上していましたが、下半期に日産株の価値が若干回復し、通期では109億ユーロの赤字に着地しました。
重要なのは、この損失が「非現金損失」である点です。実際のキャッシュが流出したわけではなく、会計上の評価変更によるものです。ルノーの事業運営には直接的な影響を与えていません。
本業は堅調:営業利益率6.3%を確保
売上と利益の実態
会計上の巨額赤字とは対照的に、ルノーの本業は安定しています。2025年通期の売上高は579億ユーロで前年比3%増加しました。営業利益は36億ユーロ、営業利益率は6.3%を確保しています。
ただし、2024年通期の営業利益42.6億ユーロ(営業利益率7.6%)と比較すると、利益率は低下しています。自動車部門の営業利益率は5.3%から4.2%に後退しました。為替の影響で2億8,200万ユーロ、価格・ミックス・コストの圧力で3億4,100万ユーロ、保証コストの増加で1億6,000万ユーロの逆風を受けています。
リストラ費用と今後のコスト構造
2025年には早期退職制度を中心にリストラ費用4億ユーロを計上しました。このうち3億ユーロがキャッシュインパクトを伴うものです。プロボCEOは「数量より利益を重視する方針を続ける」と述べており、コスト管理と投資規律を経営の柱に据えています。
プロボCEO体制での事業見直し
前CEO時代の戦略の再評価
フランソワ・プロボ氏は2025年7月にCEOに就任しました。プロボCEOは購買部門出身の経営者で、コスト管理に精通しています。就任後、前CEO時代に推進された事業の見直しに着手しています。
特に注目されるのが、EV専業子会社「アンペア(Ampere)」の戦略変更です。ルノーは当初、アンペアのIPO(新規株式公開)を計画していましたが、2024年1月に市場環境を理由に見送りを決定しました。日産もアンペアへの出資契約を2025年5月末に解約しており、アンペアの事業モデル自体が再検討されている状況です。
2026年の業績見通し
ルノーは2026年の業績ガイダンスとして、グループ営業利益率約5.5%、自動車部門のフリーキャッシュフロー約10億ユーロを示しました。中期的にはグループ営業利益率5〜7%、年平均フリーキャッシュフロー15億ユーロ以上を目標としています。
2025年の6.3%から5.5%への利益率低下見通しは、EV移行に伴う投資負担や欧州市場の競争激化を反映しています。プロボCEOは投資の選別を徹底し、収益性の高い事業に経営資源を集中する方針です。
注意点・展望
日産との関係の今後
ルノーと日産のアライアンスは、相互出資10%という新たな枠組みのもとで継続されます。引き下げた5%分の株式についてはお互いを優先的な売却先とすることで合意しており、完全な資本関係の解消には至っていません。
両社はプロジェクト単位での協業を継続する方針ですが、かつてのような緊密な関係からは大きく変化しています。日産はインド合弁会社の持ち株をルノーに売却するなど、事業面での切り離しも進んでいます。今後のアライアンスの実効性がどこまで維持されるかは注視が必要です。
欧州自動車業界全体の課題
ルノーの苦戦は、欧州自動車業界全体の構造的な課題を映しています。2025年は欧州主要5社すべてが減益または赤字に陥りました。中国メーカーとのEV競争の激化、欧州の環境規制対応コスト、そして関税リスクが重なり、厳しい経営環境が続いています。
まとめ
ルノーの2兆円赤字は、日産株の会計処理変更による非現金損失が大半を占めており、本業の事業基盤が毀損されたわけではありません。営業利益率6.3%を確保し、事業運営自体は安定しています。
しかし、EV移行の投資負担、欧州市場の競争激化、日産とのアライアンス再構築など、プロボCEOが取り組むべき課題は山積しています。投資規律を重視する新経営陣が、前CEO時代の遺産をどう整理し、成長路線を再構築するかが今後の焦点です。
参考資料:
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