正社員6割が時間外連絡に拒否感、つながらない権利の現状
はじめに
マイナビが発表した「つながらない権利」に関する実態調査で、20〜50代の正社員の6割超が勤務時間外の業務連絡に拒否感を示していることがわかりました。「通知が気になって休めない」という声に代表されるように、スマートフォンの普及が仕事とプライベートの境界を曖昧にしている実態が浮き彫りになっています。
一方で、「つながらない権利」に関するガイドラインの策定に着手していない企業は4割を超えており、企業側の対応の遅れが明確になりました。2026年に予定される労働基準法の大改正では、この権利に関する規定が検討されており、企業・個人の双方に影響を与える重要なテーマです。
この記事では、調査結果の詳細と、国内外の「つながらない権利」の現状について解説します。
マイナビ調査の主要な結果
正社員の7割が時間外連絡を経験
調査によると、20〜50代の正社員のうち70.0%が「勤務時間外に業務連絡がくることがある」と回答しました。連絡元としては「上司・部下の両方から連絡がある」が60.3%で最多となっており、役職を問わず時間外連絡が広く行われている実態が明らかになりました。
管理職に限ると、休日でも業務連絡を受ける割合は約9割に達するとのデータもあり、管理職ほど「常時つながっている」状態に置かれていることがわかります。
6割超が拒否感、20代が最も高い
「勤務時間外の業務連絡を拒否したいと思うか」という質問に対し、64.3%が「そう思う」と回答しました。年代別では20代が68.1%で最も拒否感が強く、40代が65.3%、30代が64.4%と続きます。50代は52.7%と他の年代より低い結果でした。
20代の拒否感が最も高い背景には、ワークライフバランスを重視する価値観の浸透があります。若い世代ほど「仕事は勤務時間内に完結すべき」という意識が強い傾向があり、時間外の連絡はプライベートへの侵害と受け止められやすいです。
上司と部下の「緊急度認識」にギャップ
興味深いのは、時間外連絡における緊急度の認識に大きなギャップがある点です。上司へ連絡する側は約6割が「緊急度が高い」と認識して連絡しています。しかし、部下から受ける連絡について上司が「緊急度が高い」と感じる割合は3割未満にとどまっています。
つまり、発信者と受信者の間で連絡の重要性の認識が大きくずれているのです。部下にとっては緊急の案件でも、上司から見れば翌営業日でも対応可能な内容であることが多いということになります。この認識のギャップが、不要な時間外連絡を増やしている一因です。
企業の対応状況と課題
4割超の企業がガイドライン未着手
「つながらない権利」に関するガイドラインの策定状況について、「未着手」の企業が41.8%に達しました。上場企業と未上場企業では対応状況に差があり、上場企業の「未着手」率は未上場企業より15.4ポイント低くなっています。
上場企業は労務コンプライアンスへの意識が相対的に高く、時間外労働に関連するトラブルの発生率も高いことから、先行してガイドラインの整備に取り組んでいると考えられます。一方で、中小企業を中心に対応が遅れている現状は、労働者の権利保護の観点から懸念されます。
対応が遅れる背景
企業がガイドライン策定に踏み切れない背景には、いくつかの要因があります。まず、業務の特性上、時間外の連絡を完全に排除することが難しい業種・職種が存在します。顧客対応やシステム運用、緊急のプロジェクト対応など、業務の性質上24時間体制が求められる場面は少なくありません。
また、「暗黙の了解」として時間外連絡が組織文化に根付いている企業では、ルールの導入に対する抵抗感が強いことも課題です。特に中間管理職にとっては、部下への連絡手段が制限されることへの不安が大きいです。
海外の「つながらない権利」法制化の動き
先行するフランスとオーストラリア
「つながらない権利」の法制化で先行しているのがフランスです。2017年に施行された法律では、従業員50名を超える企業に対し、つながらない権利について労使で協議し、労働協約を締結することを義務付けています。
オーストラリアでは2024年に労働者の「連絡遮断権」を定めた法律が施行されました。従業員が勤務時間外の業務連絡に対応しなかったことを理由に、不利益な取り扱いを受けることを禁止する内容です。
そのほか、ポルトガルでは2021年に企業が就業時間外の従業員に連絡することを原則禁止し、イタリアでは2017年にスマートワーカーの保護として「つながらない権利」を雇用契約に明記する義務を定めています。
日本における法制化の議論
日本では、2026年に予定される約40年ぶりの労働基準法大改正で、「つながらない権利」に関するガイドライン策定が検討されています。厚生労働省の研究会でも議論が進められており、法的な枠組みの整備に向けた動きが本格化しています。
ただし、日本の企業文化や労働慣行を考慮すると、フランスやオーストラリアのような厳格な法規制をそのまま導入することには議論の余地があります。まずはガイドラインの策定から始め、段階的に対応を進める方向性が有力視されています。
注意点・展望
企業に求められる対応
2026年の労基法改正を見据え、企業には早急な対応が求められます。具体的には、時間外連絡に関する社内ルールの策定、管理職への教育、緊急時の連絡基準の明確化などが重要です。
特に効果的なのは、「緊急度の基準」を明文化することです。前述の調査で明らかになった上司と部下の緊急度認識のギャップを解消するために、どのような状況が「時間外でも連絡すべき緊急事態」に該当するかを具体的に定義することが有効です。
個人としてできること
個人レベルでは、勤務時間外の通知設定を見直すことが第一歩です。スマートフォンの「おやすみモード」やビジネスチャットツールのステータス設定を活用し、意図的にオフラインの時間を確保することが大切です。
また、チーム内で時間外連絡に関する暗黙のルールを話し合い、共通認識を持つことも効果的です。「緊急でない連絡は翌営業日に送る」「メールの件名で緊急度を明示する」といったシンプルなルールでも、大きな改善につながります。
まとめ
マイナビの調査は、正社員の7割が時間外の業務連絡を経験し、6割超が拒否感を持っているという現実を明らかにしました。一方で企業の4割超がガイドライン未着手という状況は、制度面での対応の遅れを示しています。
海外ではフランスやオーストラリアを中心に法制化が進み、日本でも2026年の労基法改正に向けた議論が本格化しています。企業は法改正を待つのではなく、今から社内ルールの整備に着手することが重要です。「つながらない権利」は、働く人の健康とワークライフバランスを守るための重要な一歩となります。
参考資料:
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