勤務時間外の業務連絡、7割が経験し6割が拒否感の実態
はじめに
「退勤後にスマホの通知が鳴るたびに、心が休まらない」。そんな経験を持つ方は少なくないでしょう。マイナビが実施した「つながらない権利をめぐる個人の本音と企業の実態調査」の結果が公表され、勤務時間外の業務連絡に関する実態が明らかになりました。
調査によると、20〜50代の正社員の70%が勤務時間外に業務連絡を受けた経験があり、64.3%が時間外の連絡に拒否感を示しています。一方で、「つながらない権利」に関するガイドラインの策定に未着手の企業は41.8%に上り、企業側の対応の遅れが浮き彫りになりました。
2026年の労働基準法改正では「つながらない権利」の法制化も検討されています。この記事では、調査結果の詳細と、企業が今から取るべき対策を解説します。
マイナビ調査が明らかにした「時間外連絡」の実態
管理職ほど深刻な時間外連絡
調査は2025年12月に実施され、20〜50代の正社員1,446名と企業の人事担当者1,500名が回答しました。勤務時間外に業務連絡がくることが「ある」と回答した正社員は70.0%に上ります。
役職別にみると、部長職では90.3%と極めて高い割合です。課長職や係長職でも高い水準を示しており、管理職ほど時間外連絡に巻き込まれやすい構造が確認されました。一方、非管理職では55.5%にとどまり、役職によって大きな差が生じています。
管理職は部下と上司の双方から連絡が集中するポジションにあり、時間外連絡の「ハブ」となりやすいことが背景にあります。
緊急度認識の大きなギャップ
調査結果で特に注目すべきは、立場による「緊急度の認識ギャップ」です。部下が上司に勤務時間外の連絡をする際、60.9%が「緊急度が高い」と認識しています。つまり、部下側は本当に急ぎだと判断して連絡しているケースが多いということです。
ところが、上司が部下からの時間外連絡を受けた場合、「緊急度が高い」と感じた割合は29.9%にとどまりました。送る側と受ける側で緊急度の認識に約2倍の開きがあるのです。このギャップが時間外連絡の削減を難しくしている要因のひとつです。
6割超が時間外連絡に拒否感
正社員の64.3%が勤務時間外の業務連絡に拒否感を示しています。具体的な声としては「通知が気になって休めない」「プライベートと仕事の境界が曖昧になる」といった意見が挙がっています。
特にテレワークの普及以降、仕事と私生活の境界線が物理的に曖昧になったことで、時間外連絡への心理的負担はさらに増大しています。常にスマートフォンを手元に置く生活が当たり前となった現在、「連絡が来るかもしれない」という待機状態そのものがストレス要因です。
企業側の対応は4割超が未着手
ガイドライン策定の遅れ
人事担当者への調査では、「つながらない権利」に関するガイドラインの策定に「着手していない」企業が41.8%に上りました。2026年の労働基準法改正を控えながら、4割超の企業がまだ具体的な動きを見せていない状況です。
ガイドラインの策定が進まない背景には、業種ごとの事情の違いがあります。医療、運輸、設備保守など緊急対応が前提となる業種では、時間外連絡を一律に禁止することが現実的ではありません。一方、オフィス業務中心の職場でも「どこまでが緊急連絡か」の線引きが難しく、ルール策定に二の足を踏む企業が少なくありません。
2026年労働基準法改正の方向性
厚生労働省は、2026年の労働基準法改正において「つながらない権利」の制度化を検討しています。ただし、一律の義務化ではなく、まずはガイドラインの策定や助成金を通じた企業の「自主的な取り組み」を促す方向です。
想定されるルールとしては、「緊急時以外の時間外連絡は控える」「時間外の連絡に返信しなくても人事評価で不利益な扱いをしない」といった内容が挙がっています。すべての連絡を完全に禁止するのではなく、合理的な範囲での制限を求める形になる見通しです。
海外ではすでに法制化が進む
フランスが先駆け
「つながらない権利」の法制化で先行しているのはフランスです。2016年の労働法典改正により、従業員50名以上の企業に対して、勤務時間外のログオフ権を保障する手続きの策定を義務付けました。企業は従業員代表と交渉し、休憩時間や休暇、個人・家庭の時間を確保する仕組みを整備する必要があります。
ただし、フランスの制度には罰則規定がなく、実効性の面で課題が残ります。法律があっても実際の運用が伴わなければ、制度は形骸化してしまいます。
イタリア・オーストラリアなど各国に拡大
イタリアは2017年にスマートワーカーの雇用契約にログオフ権の明記を義務化しました。スペイン、ポルトガル、ベルギーもそれぞれ法制化を進めています。2021年1月には欧州議会が「つながらない権利」を保護する法制化の勧告を採択しました。
比較的最近の動きとしては、オーストラリアが2024年に「つながらない権利」を法制化し、違反した雇用主には罰則を設けています。罰則付きの法制化は、制度の実効性を高める上で重要なポイントです。
注意点・展望
企業が「つながらない権利」のガイドラインを策定する際には、いくつかの注意点があります。まず、業種や職種ごとに「緊急連絡」の定義を明確にすることが重要です。すべての連絡を禁止するのではなく、緊急度に応じた段階的なルールが現実的です。
また、ルールだけでなく運用の文化も変える必要があります。上司が深夜にメールを送る習慣があれば、部下は暗黙的に対応を強いられます。「送信予約機能」を活用して翌営業日に届くようにする、チャットツールのステータスを「退勤済み」に設定するなど、具体的な仕組みの導入が効果的です。
2026年の法改正に向けて、まだ着手していない企業は早急に社内の実態調査とルール策定に取りかかるべきです。法制化の有無にかかわらず、従業員の心理的安全性と生産性の両立は、人材確保の観点からも不可欠な経営課題です。
まとめ
マイナビの調査で、勤務時間外の業務連絡が7割の正社員に及び、6割超が拒否感を持つ実態が明らかになりました。管理職ほど時間外連絡が集中し、上司と部下の間には緊急度認識に約2倍のギャップが存在します。
「つながらない権利」のガイドライン策定に未着手の企業が41.8%に上る中、2026年の労働基準法改正が迫っています。海外ではフランスやオーストラリアを中心に法制化が進んでおり、日本企業も業種特性に応じた社内ルールの整備を急ぐ必要があります。従業員のウェルビーイングと企業の生産性向上を両立させるための具体的なアクションが求められています。
参考資料:
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