2026年春闘「RIZAP春闘」の行方、自動車産業が賃上げの鍵を握る
はじめに
「2026年はRIZAP春闘だ」。自動車や電機メーカーなど主要製造業の労働組合でつくる金属労協は、2026年春闘においてベースアップ(ベア)「月1万2000円以上」の実現に強いこだわりを見せています。同じ要求水準だった2025年は、小規模労組で未達が相次ぎました。
2026年春闘では「結果にコミット」できるかが問われています。その成否を左右するのは、幅広い中小企業を抱える自動車産業の行方です。本記事では、2026年春闘の注目ポイントと、日本の賃上げ動向における課題を解説します。
2026年春闘の要求水準と背景
金属労協の闘争方針
金属労協は2025年12月に開催した協議委員会で、2026年闘争方針を正式に決定しました。方針には「定期昇給などの賃金構造維持分を確保したうえで、実質賃金向上を確固たるものにするべく、すべての組合で1万2000円以上の賃上げにこだわる」と明記されています。
この「月1万2000円以上」という水準は、ベア額を明示する現行の要求方式となってからの最高額だった前年と同水準です。米国の関税政策による企業業績への悪影響が懸念される中でも、高水準の要求を継続し、物価高を上回る賃上げの実現を目指しています。
傘下産別の要求動向
金属労協の傘下産別も、高い要求水準を掲げています。中小製造業の労組で構成するJAMは、過去最高となる「月1万7000円以上」を方針として発表しました。電機連合も月1万8000円以上を要求する方向で調整しており、1998年に現在の要求方式になって以来、最高額となります。
自動車総連は「1万2000円以上」を要求目安としていますが、2025年春闘の「1万2000円」に「以上」を付け加えることで、要求水準の引き上げを図っています。
なぜ「RIZAP春闘」なのか
2025年春闘の未達問題
2025年春闘で金属労協は、加盟組合平均で前年実績を上回る回答を得ました。連合全体の平均賃上げ率も5.46%と、2年連続で5%台を達成しています。しかし、この数字の裏で、小規模労組を中心に要求未達のケースが相次ぎました。
経団連の調査によると、2025年春闘における従業員500人未満の中小企業の賃上げ率は4.35%でした。大手企業の5.38%と比較すると、約1ポイントの差があります。金額ベースでは、大手企業の1万9342円に対し、中小企業は1万1826円と、7500円以上の開きがあります。
結果にこだわる姿勢
金子晃浩議長は記者会見で「物価上昇を上回る賃上げを何としても獲得する」と訴えました。「結果にコミット」するRIZAPになぞらえた表現は、単なる目標設定ではなく、実現への本気度を示すものです。
2025年の春闘では、大企業と中小企業の格差が再び拡大しました。この流れを食い止め、すべての労働者が物価上昇を上回る賃上げを実現できるかが、2026年春闘の焦点となっています。
自動車産業が成否の鍵を握る理由
サプライチェーンの広さと深さ
自動車産業は、日本の製造業において最も裾野が広い産業です。完成車メーカーを頂点に、1次・2次・3次と続くサプライヤー企業は、全国に数万社存在します。その多くは中小・零細企業であり、自動車産業全体で約80万人の労働者を抱えています。
この「裾野の広さ」と「取引階層の深さ」が、自動車産業の賃上げ動向を特に重要なものにしています。大手完成車メーカーの賃上げが、どこまでサプライチェーン全体に波及するかが、日本全体の賃上げ動向を左右するからです。
2025年春闘の実績
2025年春闘では、大手自動車メーカーは高水準の賃上げを実施しました。トヨタ自動車は5年連続の満額回答で、最も高いケースで月額2万4450円の賃上げを行いました。ホンダは1万5000円、経営再建中の日産自動車も1万6500円(賃上げ率4.5%)で妥結しています。
全トヨタ労働組合連合会の平均賃上げ額は1万4074円と、比較可能な2000年以降で最高となりました。しかし、300人未満の中小企業の賃上げ率は4.66%(1万1889円)にとどまり、大手との格差は依然として存在しています。
米関税政策の影響
2026年春闘に向けて、自動車産業には逆風が吹いています。日銀の植田総裁は「製造業、特に自動車について、関税が収益に下押し圧力を与えている状況を注視する」と発言しています。
米国の関税引き上げにより、自動車関連企業の業績悪化が目立っています。自動車輸出は2025年9月まで6カ月連続で前年を下回っており、マージンが圧迫されています。日銀の調査でも、一部の自動車関連メーカーから「2025年度並みの高い賃上げを継続するのは難しい」との声が上がっています。
実質賃金と消費の回復に向けて
続く実質賃金のマイナス
2024年度の名目賃金上昇率は33年ぶりの高さとなる3.0%を記録しましたが、物価上昇率も3.0%となり、実質賃金は横ばいにとどまりました。2025年に入ってからも実質賃金は前年比マイナスが続いており、2025年10月時点で10カ月連続のマイナスとなっています。
連合は「2024年春闘では33年ぶりの5%台の賃上げが実現したものの、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している」と指摘しています。賃上げ率の数字だけでは、生活実感の改善にはつながっていないのが現状です。
価格転嫁の課題
中小企業が賃上げを実現するためには、コスト上昇分を販売価格に転嫁できる環境が必要です。しかし、大企業との取引において、中小企業が価格転嫁を十分に行えていないケースが少なくありません。
第一生命経済研究所は「大企業は中小企業の価格転嫁要請を積極的に受け入れることが求められる」と指摘しています。サプライチェーン全体で労務費を含めた適正な価格転嫁を実現することが、中小企業の賃上げを可能にする鍵です。
注意点と今後の展望
政府・労働界の対応
連合は2026年春闘方針で「賃上げ分3%以上+定昇相当分込みで5%以上」を目安とし、中小労組などに対しては「6%以上・18,000円以上」を目安として設定しています。さらに、非正規労働者に対して7%の賃上げ目標を初めて数値で明示し、雇用形態間の格差是正にも取り組む姿勢を示しています。
高市政権も2025年11月に「『強い経済』を実現する総合経済対策」を策定し、賃上げ環境整備や中小企業・小規模事業者支援を柱に位置付けています。適切な価格転嫁・取引適正化の推進が、政策としても重要視されています。
2026年春闘の見通し
第一生命経済研究所は、2026年春闘の賃上げ率を5.20%と予測しています。3年連続で5%台の賃上げが実現すれば、コストプッシュの一巡に伴う物価上昇率の鈍化と相まって、実質賃金がマイナス圏から脱する可能性があります。
ただし、円安による物価上振れリスクには注意が必要です。為替レート次第では、企業が価格転嫁を積極化させ、値上げが再び加速する可能性もあります。
まとめ
2026年春闘は「RIZAP春闘」と呼ばれ、結果へのこだわりが強調されています。金属労協は「月1万2000円以上」のベースアップを掲げ、2025年に小規模労組で未達が相次いだ反省から、すべての組合での実現を目指しています。
成否の鍵を握るのは、幅広い中小企業を抱える自動車産業です。大手完成車メーカーの賃上げがサプライチェーン全体に波及するか、そして米関税政策の影響をどう乗り越えるかが注目されます。実質賃金のプラス転換と消費の回復を実現するためには、大企業・中小企業を問わず、賃上げの好循環を定着させることが求められています。
参考資料:
関連記事
2025年春闘、賃上げ率5.25%で34年ぶり高水準を達成
2025年春闘の賃上げ率は5.25%で34年ぶりの高水準に。大企業5.39%、中小企業4.35%と格差も課題。物価上昇を上回る賃上げ「定着」への道を解説。
企業倒産2年連続1万件超、賃上げ圧力が中小企業を直撃
2025年の企業倒産件数が2年連続で1万件を超えました。人手不足と賃上げ圧力に耐えられない中小・零細企業の「退場」が急増。企業の新陳代謝が進む背景を解説します。
実質賃金11カ月連続減少——賃上げ5%でも物価に追いつかない現実
2025年11月の実質賃金は前年比2.8%減で11カ月連続のマイナス。3%超の物価上昇が続き、歴史的な賃上げでも家計は改善を実感できず。2026年春闘の焦点と今後の見通しを解説します。
実質賃金11カ月連続マイナス、2026年度プラス転換は実現するか
2025年11月の実質賃金は前年比2.8%減で11カ月連続のマイナスとなりました。3%超の物価上昇に賃上げが追いつかない状況が続く中、政府は2026年度のプラス転換を予測しています。
2026年春闘、経営トップが5%超賃上げ表明で勢い継続
経済3団体の新年祝賀会で5%超の賃上げ表明が相次ぎました。デフレ完全脱却を目指す日本経済の転換点を、春闘の動向から解説します。
最新ニュース
南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦
探査船「ちきゅう」が南鳥島沖でレアアース泥の試掘を開始。水深6000メートルからの世界初の採掘試験と、日本の経済安全保障における意義を解説します。
1年4カ月で国政選挙3回、頻繁な選挙が招く政策停滞
高市首相が通常国会冒頭での衆院解散を検討。国政選挙が短期間に3回目となり、社会保障改革など長期的視点の政策が後回しになる懸念が高まっています。
第174回芥川賞・直木賞が決定、3氏が受賞の栄誉
第174回芥川賞に鳥山まこと氏「時の家」と畠山丑雄氏「叫び」、直木賞に嶋津輝氏「カフェーの帰り道」が決定。前回の両賞該当なしから一転、充実の受賞作が揃いました。受賞作の魅力と作家の経歴を詳しく解説します。
日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
証券取引APIを提供するフィンテック企業アルパカが企業価値10億ドルを突破。日本人だけで創業した新興企業として米国初のユニコーン達成の背景を解説します。
三六協定の締結率5割どまり、残業規制緩和の是非を問う
三六協定を締結している事業所は5割にとどまり、残業規制緩和の議論が活発化しています。働き方改革の効果と今後の労働政策の方向性について、最新データをもとに解説します。