三井住友トラスト新社長が語る造船ファンド構想と成長戦略
はじめに
三井住友信託銀行の大山一也社長が2026年4月、持ち株会社の三井住友トラストグループの社長に就任します。同氏は、造船向けの投資ファンドの新設を検討していることを明らかにしました。
この構想の背景には、メガバンクとの融資競争から距離を置き、機関投資家と企業を仲介する独自のビジネスモデルを強化する狙いがあります。同時に、政府が1兆円規模の支援を打ち出した日本造船業の復興という追い風も吹いています。
この記事では、三井住友トラストの新たな成長戦略と造船ファンド構想、そしてその背景にある日本造船業の現状を解説します。
三井住友トラスト新体制の概要
トップ人事の刷新
三井住友トラストグループは、2026年4月1日付でトップ人事を刷新します。持ち株会社の社長には、傘下の三井住友信託銀行で社長を務める大山一也氏(60)が昇格します。三井住友信託銀行の社長には、同行の米山学朋専務執行役員(57)が就任します。
現社長の高倉透氏(63)は会長に就任し、グループと傘下銀行でそろって5年ぶりのトップ交代となります。
大山一也氏の経歴
大山一也氏は1988年に京都大学法学部を卒業し、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に入行しました。主に経営企画部門を歩み、法人営業や人事を担当してきました。2021年4月から三井住友信託銀行の社長を務めています。
現在の中期経営計画では、融資による規模拡大を追わず、資産運用を軸に稼ぐ方針を打ち出しており、その路線を継承・発展させることになります。
機関投資家と企業の仲介ビジネス
メガバンクとは異なる戦略
三井住友トラストグループは、メガバンクとの融資競争とは一線を画した戦略を取っています。自社で資産を保有して融資で稼ぐのではなく、機関投資家から集めた資金で投資ファンドなどを組成し、企業の事業拡大を支援するビジネスモデルです。
年金基金や保険会社などの機関投資家は、長期運用に適した投資先を求めています。一方、企業は設備投資や事業拡大のための資金を必要としています。信託銀行は両者を仲介することで手数料収入を得るのです。
オルタナティブ投資の拡大
三井住友信託銀行は、オルタナティブ投資(代替投資)の分野で存在感を高めています。オルタナティブ投資とは、株式や債券といった伝統的資産ではなく、不動産、インフラ、プライベートエクイティ、ヘッジファンドなどへの投資を指します。
同行のオルタナティブ運用部は、国内外の不動産、プライベートエクイティ、プライベートデット、インフラなど幅広いカテゴリーをカバーしています。香港、ニューヨーク、ロンドンでも増員を進め、グローバルに事業を拡大中です。
資産運用立国への貢献
グループ全体の運用残高は140兆円を超え、アジア最大規模を誇ります。三井住友トラスト・アセットマネジメントと日興アセットマネジメントの2社を擁し、機関投資家向けのサービスを強化しています。
政府が掲げる「資産運用立国」構想も追い風となっており、NISAでの運用に適した商品開発も加速させています。
造船ファンド構想の背景
日本造船業の復興
大山次期社長が造船向け投資ファンドの検討を明らかにした背景には、日本造船業の大きな転換点があります。政府は2025年末、10年間で官民合わせて1兆円規模の投資を実現するロードマップを策定しました。
日米合意に基づく対米80兆円投資には、日米の造船能力強化が含まれています。日本政府の重点投資分野にも造船が指定され、10年間で国内の建造量を倍増させる目標が掲げられています。
業界再編の動き
2026年1月5日、国内トップシェアを誇る今治造船がジャパンマリンユナイテッド(JMU)を子会社化しました。これにより、国内シェア50%、世界シェアで第4位の造船グループが誕生しました。
業界団体「日本造船工業会」は、2035年までに建造量を倍増する目標達成のため、3500億円の設備投資を表明しています。政府の1兆円規模支援基金の創設を見据えた動きです。
船舶ファンドの先例
船舶への投資ファンドには先例があります。Anchor Ship Partnersの第3号船舶投資ファンドは、投資決定案件が合計約3,000億円(船舶価額合計)に達しています。世界的な船舶の大型化に対応するため、ファンドサイズの大型化を実現しています。
脱炭素化の流れを受け、液化CO2輸送船や新燃料船などの先進的な船舶への投資需要も高まっています。
中期経営計画と今後の展望
目標の前倒し達成
三井住友トラストグループは、2023年度から2025年度までの3年間の中期経営計画を推進してきました。主要な経営指標は2024年度に1年前倒しで達成しており、計画は順調に進行しています。
想定以上の金利上昇と株価上昇が追い風となりました。2030年度までにROE(自己資本利益率)10%を達成する目標を掲げており、新中計でその達成時期をどこまで早められるかが焦点です。
2026年度からの新中計
2026年5月には、新しい3年間の中期経営計画を公表する予定です。ROE10%達成に向けて、資産運用・資産管理ビジネスの成長がカギを握ります。
造船ファンドを含む新たな投資機会の創出は、この戦略の一環として位置づけられます。社会課題解決を促進するインパクトエクイティ投資も、2030年度までの累計で5,000億円を計画しています。
注意点・展望
造船業投資のリスク
造船業への投資には、景気循環による船舶需要の変動リスクがあります。過去には新造船の発注が急減し、造船所の経営が厳しくなった時期もありました。長期投資である分、市況の変化に左右されやすい点には注意が必要です。
競合との差別化
資産運用ビジネスは、メガバンク系列の資産運用会社や独立系運用会社との競争が激化しています。三井住友トラストグループが強みとするオルタナティブ投資の専門性や、信託銀行ならではの機能をいかに差別化できるかが問われます。
脱炭素化への対応
造船業は脱炭素化の波を受けて大きな変革期にあります。LNG燃料船、アンモニア燃料船、水素燃料船など、次世代船舶への投資判断には高度な専門知識が必要です。環境規制の動向を見極めながらの投資が求められます。
まとめ
三井住友トラストグループの大山次期社長は、造船向け投資ファンドの新設検討を通じて、機関投資家と企業を仲介する独自のビジネスモデルを強化する方針を示しました。
この戦略の背景には、メガバンクとの融資競争を避け、資産運用で稼ぐという同グループの経営哲学があります。同時に、政府の1兆円支援や業界再編など、日本造船業の復興という追い風も吹いています。
機関投資家の資金と成長産業をマッチングさせる信託銀行の機能は、「資産運用立国」を目指す日本経済にとっても重要な役割を果たすことになります。
参考資料:
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