高市政権の積極財政で浮上する日本の財政リスクを検証する
はじめに
高市早苗政権が発足して約3カ月、その経済財政政策が本格的に動き出しています。「責任ある積極財政」を旗印に、2025年度補正予算は17.7兆円規模、2026年度予算案は過去最大の122兆円超と、財政拡張路線が鮮明になっています。
一方で、市場からは懸念の声も上がっています。長期金利は2008年以来の水準に上昇し、国債市場は2025年に世界主要市場で最悪のパフォーマンスを記録しました。日本財政は本当に持続可能なのか、「責任ある積極財政」とは何を意味するのか、様々な角度から検証します。
高市政権の財政政策
「責任ある積極財政」とは
高市内閣が掲げる「責任ある積極財政」は、行き過ぎた緊縮財政から転換し、積極的な財政支出によって経済成長を促す方針です。そして、その成長によって政府債務残高の対GDP比を引き下げ、持続可能な財政を実現しようとする考え方です。
高市首相は「日本がいま行うべきことは、行き過ぎた緊縮財政により国力を衰退させることではなく、積極財政により国力を強くすることでございます」と説明しています。
2025年度補正予算の規模
2025年11月21日に閣議決定された「強い経済を実現する総合経済対策」は、以下の規模となりました。
- 一般会計:17.7兆円程度
- 国費等(真水):21.3兆円程度
- 財政措置等:25.5兆円程度
- 事業規模:42.8兆円
事業規模はリーマン・ショックやコロナ禍、ロシアのウクライナ侵略の影響を受けた時期の経済対策に次ぐ、歴代6番目の大きさとなりました。
2026年度予算案
政府は12月26日に2026年度予算案を閣議決定しました。一般会計総額は122兆3092億円と、2年連続で過去最大を更新しています。
国債の償還や利払いに充てる国債費は31兆2758億円で、6年連続で過去最大を更新しました。利払い費の算出に用いる想定金利は従来の2.0%から3.0%に引き上げられており、金利上昇への対応が織り込まれています。
市場からの警戒シグナル
長期金利の上昇
高市政権の財政拡張的な政策スタンスへの警戒感から、長期金利(新発10年債利回り)は一時1.835%に上昇し、2008年以来の水準を更新しました。
市場の思惑もあって為替も円安方向で推移しており、159円台に達するドル円相場は政府・日銀による為替介入への警戒感を高めています。
国債市場の厳しい状況
2025年のパフォーマンスが世界の主要債券市場の中で最悪だった日本の国債市場は、2026年も苦難の1年が続く見通しです。高市首相の積極財政政策と日本銀行の国債買い入れ縮小による供給量増加が、市場にショックをもたらすと予想されています。
財政制度等審議会の建議
財政制度等審議会は2025年12月2日の建議で、財政健全化への取り組みを求めています。フロー面では2025年度から2026年度を通じて可能な限り早期のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化を目指し、ストック面では債務残高対GDP比をコロナ禍前の水準に向けて安定的に引き下げることを目標としています。
日本財政の現状
膨らむ国債残高
普通国債残高は累増の一途をたどり、2025年度末には1,129兆円に上ると見込まれています。日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。
プライマリーバランスの見通し
政府は2025年1月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」で、2026年度のプライマリーバランスを0.8〜2.2兆円の黒字と見込んでいました。しかし、予算修正やトランプ関税の影響を考慮すると、2.7〜4.3兆円程度悪化して赤字になる可能性も指摘されています。
ドーマー条件と金利上昇リスク
債務GDP比率がどう推移するかは、名目金利と名目経済成長率の大小関係が深く関わります。「ドーマー条件」によれば、金利が成長率よりも小さければ債務GDP比率は収束していきますが、金利が成長率を上回れば債務GDP比率は増大します。
日本はGDP比260%もの公的債務を抱える「超債務国家」であり、金利上昇は利払い費の増大と保有国債の価格下落という二重のリスクをもたらします。
異なる見方も存在
連結ベースでの評価
一方で、連結財務書類を見ると異なる姿が浮かび上がります。日本政府の資産は計約1,048.9兆円、債務は計約1,576.8兆円で、負債から資産を引いた「ネット政府債務」は約527.9兆円です。これは2024年の名目GDP約609.3兆円の約86.6%にとどまります。
連結のネット政府債務のGDP比で見ると、米連邦政府は約136.7%、英国は約88.1%となっており、日本の債務水準は概ね英国並みで、米国よりはかなり健全という見方もあります。
経済成長を通じた財政再建
高市政権が主張する「責任ある積極財政」の本質は、財政支出を成長投資に振り向けることで、経済のパイを大きくし、結果として税収増と債務GDP比の低下を実現しようという考え方です。
2025年度補正予算では、AI・造船分野への投資や防衛力強化など、将来の成長や安全保障に資する支出が盛り込まれています。
今後の注目点
成長戦略の実効性
積極財政が財政健全化につながるかどうかは、成長投資がどれだけ実際の経済成長に結びつくかにかかっています。単なるバラマキではなく、生産性向上や産業競争力強化につながる支出が求められます。
金利動向と日銀の政策
日銀は金融政策の正常化を進めており、国債買い入れの縮小が続いています。これにより国債市場への供給圧力が高まる中、政府の国債発行増加が重なれば、金利上昇圧力はさらに強まる可能性があります。
国際的な市場環境
トランプ政権の通商政策による関税リスクや、世界的な金利環境の変化も日本財政に影響を与えます。外部環境の変化に対する財政の耐性が試されることになります。
まとめ
高市政権の「責任ある積極財政」は、日本経済を成長軌道に乗せることで財政健全化を図るという野心的な試みです。2026年度予算は過去最大の122兆円を超え、経済対策も大型となっています。
一方で、長期金利の上昇や国債市場の不安定化など、市場からの警戒シグナルも出ています。GDP比260%を超える政府債務を抱える日本にとって、成長と財政規律のバランスをどう取るかが引き続き重要な課題となっています。財政政策の成否は、経済成長の実現と市場からの信認維持という両面から評価されることになるでしょう。
参考資料:
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