山門一体型ホテル訴訟、最高裁が寺院側敗訴の判決
はじめに
寺院の正門にあたる「山門」とホテルが一体化した高層ビルをめぐる固定資産税訴訟で、最高裁判所が注目の判決を下しました。最高裁第2小法廷(高須順一裁判長)は2026年1月26日、寺院側が参道にあたると主張していた部分も課税対象になるとの判断を示し、寺院側勝訴とした二審・大阪高裁判決を破棄しました。
この訴訟は、宗教法人の土地で複合的な利用が行われる場合に、固定資産税の非課税規定をどのように適用すべきかという法律上の論点を含んでいました。土地の高度利用が進む都市部において、宗教施設と商業施設が融合したケースでの税務判断として、今後の実務に影響を与える可能性があります。
事案の概要
日本初の「山門一体型ホテル」
訴訟の舞台となったのは、大阪市中央区の真宗大谷派難波別院(通称・南御堂)です。御堂筋の名前の由来ともなった由緒ある寺院で、2019年11月に完成した地上17階建ての「南御堂ビル」が問題となりました。
このビルは日本初の「山門一体型ホテル」と呼ばれています。建物の1〜3階部分には、参道として通り抜けができるよう高さ13メートル、幅21メートルの空洞が設けられています。この空洞部分が山門の機能を果たしています。
4階の一部と5〜17階には大阪エクセルホテル東急が入居し、3〜4階には御堂会館(寺院の施設)が設置されています。
再建の経緯
この複合施設は苦肉の策から生まれました。2011年の東日本大震災後に耐震性の問題が浮上し、解体・補強などの総事業費は90億円超に達することが判明。寺院単独での再建が困難となり、ホテルなどの商業施設と山門を融合させるという斬新な解決策が編み出されました。
インバウンド旅行者にも人気で、御堂筋沿いの好立地と寺院併設という珍しさが話題を呼んでいます。
課税の状況
大阪市は、山門の土地を含めた約1万平方メートル全体をホテルの収益事業用地と判断しました。2020年度には約3億1,800万円の固定資産税が課されました。
これに対し寺院側は、1〜3階の空洞部分は「参道」であり、宗教活動に使われる「境内地」として非課税とすべきだと主張。課税処分の一部取り消しを求めて訴訟を提起しました。
訴訟の経緯
一審:大阪地裁(寺院側敗訴)
一審の大阪地裁は、「空洞部分も収益事業にあたる」と認定し、寺院側の訴えを棄却しました。参道部分がホテル事業と不可分であり、専ら宗教活動に供されているとは認められないとの判断でした。
控訴審:大阪高裁(寺院側逆転勝訴)
2023年6月、大阪高裁(大島真一裁判長)は一転して寺院側の主張を認めました。空洞部分は参道としての機能を有しており、宗教法人法3条に規定する「境内地」に該当するとして、約480万円分の課税処分を取り消す判決を下しました。
大阪市は2023年7月、この高裁判決を不服として上告しました。
最高裁判決:市側勝訴
最高裁第2小法廷は2026年1月26日、裁判官4人のうち3人の多数意見により、寺院側勝訴の高裁判決を破棄し、寺院側の請求を退けました。
最高裁は、寺院側が参道にあたると主張する部分の上には賃貸用商業施設が建っており、参道以外の用途にも使われていたとして、地方税法上の非課税となる「境内地」には該当しないと判断しました。
法律上の争点
地方税法348条の非課税規定
地方税法348条2項3号は、「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に対しては固定資産税を課することができないと規定しています。
重要なのは「専ら」という文言です。宗教法人が境内地をどの程度宗教活動の目的に使用していれば非課税に該当するのか、また、どの程度まで宗教目的以外の利用が許容されるのかが法律上明確ではありませんでした。
境内地の定義
宗教法人法3条によると、「境内地」には以下が含まれます。
- 境内建物が存する一画の土地
- 参道として用いられる土地
- 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地
- 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
寺院側は、1〜3階の空洞部分が「参道として用いられる土地」に該当すると主張しました。
最高裁の判断基準
最高裁は、参道としての機能があるだけでは不十分で、その土地が「専ら」宗教活動に供されているかどうかを重視しました。本件では、空洞部分の上層にホテルという商業施設が存在し、土地全体として見れば収益事業にも利用されていると判断されました。
判決の意義と影響
複合施設への警鐘
この判決は、宗教施設と商業施設を一体化した複合施設における税務上の扱いについて、一定の指針を示しました。参道や境内地としての機能があっても、上層部分で収益事業が行われていれば、「専ら」宗教活動に供しているとは認められない可能性があることが明確になりました。
寺院経営への影響
多くの寺院が施設の老朽化や維持費の増大に直面する中、商業施設との複合化は有力な解決策の一つとされてきました。しかし、今回の判決により、複合化に伴う固定資産税負担を事前に十分検討する必要があることが改めて認識されました。
少数意見の存在
判決は裁判官4人のうち3人の多数意見によるもので、1人は異なる意見を述べています。このことは、この問題についての法的判断が一義的ではないことを示しています。
今後の展望と実務への示唆
土地利用計画への影響
都市部で土地の高度利用が進む中、宗教施設と商業施設の複合化は今後も検討されるケースが増えると予想されます。今回の判決を踏まえ、設計段階から税務面を含めた慎重な検討が求められます。
非課税申請の実務
宗教法人が固定資産税の非課税適用を受けるためには、市区町村への非課税申告書と事実関係を証明する各種資料の提出が必要です。境内地の範囲や利用実態について、明確な証拠を準備することが重要です。
立法論的課題
「専ら」要件の解釈が争いになったこと自体、現行法の規定が不明確であることを示しています。土地の複合的利用が一般化する中で、法律の明確化を求める声が高まる可能性があります。
まとめ
最高裁は、山門一体型ホテルの参道部分について、上層に商業施設があることを理由に固定資産税の非課税対象とは認めませんでした。「専ら」宗教活動に供する土地という要件を厳格に解釈した判決といえます。
寺院にとっては厳しい結果となりましたが、複合施設における税務リスクを事前に認識する契機にもなります。施設の維持・再建を検討する宗教法人は、税務・法務の専門家と十分に協議した上で計画を進めることが推奨されます。
今後、同様のケースが増える可能性がある中で、立法面での対応も含めた議論が進むことが期待されます。
参考資料:
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