豊田織機TOBにエリオット反対、トヨタ陣営との攻防激化
はじめに
トヨタグループが進める歴史的な再編の最大案件が、予想外の展開を見せています。総額4.7兆円に及ぶ豊田自動織機の株式非公開化に対し、世界最大級のアクティビスト(物言う株主)である米エリオット・インベストメント・マネジメントが公然と反対の立場を表明しました。
エリオットは豊田織機株を6.65%まで買い増し、トヨタ陣営が提示する1株1万8800円のTOB価格を「著しく過小評価」と批判。同社の本源的価値は1株2万6000円超に達すると主張しています。
株価はTOB価格を上回って推移しており、2月のTOB成立は不透明な状況です。世界的なアクティビストとトヨタグループの対決は、日本の企業ガバナンス改革の行方を占う試金石となりそうです。
豊田自動織機とは
トヨタグループの源流
豊田自動織機は、1926年に豊田佐吉氏によって設立されたトヨタグループの「本家」です。現在のトヨタ自動車は、1937年に豊田自動織機から自動車部門を分社化して誕生しました。
創業者の豊田佐吉氏は1924年に自動織機を発明し、その製造・販売のために会社を設立しました。その後、1956年にフォークリフト事業に参入し、1960年にはカーエアコン用コンプレッサーの生産を開始しています。
世界トップシェアの事業群
現在の豊田自動織機は、フォークリフト、カーエアコン用コンプレッサー、エアジェット織機の3分野で世界シェア1位を誇ります。
特にフォークリフトは、0.5トン積から43トン積までフルラインアップを揃え、国内販売台数59年連続1位の実績を持ちます。トヨタ、レイモンド、チェサブの各ブランドでグローバル展開し、世界トップシェアを維持しています。
2023年度の売上高は3兆8332億円、営業利益は2004億円と、いずれも過去最高を更新しました。産業車両事業と自動車事業が売上高の96%超を占め、連結従業員数は約7万9000人に達します。
TOBの経緯と現状
非公開化の背景
トヨタグループは2023年度から資本関係の見直しに着手しています。豊田自動織機の非公開化は、グループ再編の最大案件として位置づけられています。
非公開化にあたっては、トヨタ不動産を軸とする新たな持ち株会社を設立します。トヨタ不動産が約1800億円、豊田章男氏が10億円、トヨタ自動車が議決権のない優先株で約7000億円を出資する計画です。
この取引により、トヨタ自動車、アイシン、デンソー、豊田通商と豊田自動織機の間の株式持ち合いは解消されます。
TOB価格の引き上げ
トヨタ陣営は1月14日、TOB価格を当初予定の1万6300円から約15%引き上げ、1万8800円に改定しました。翌15日からTOBを開始しています。
しかし、この価格引き上げにもかかわらず、市場の反応は冷ややかでした。豊田織機の株価はTOB価格を上回る水準で推移し、アービトラージ(裁定取引)を狙う投資家の買いが入りにくい状況となっています。
エリオットの反対表明
「著しく過小評価」との主張
エリオットは1月27日、トヨタ陣営によるTOBへの反対理由を詳細にまとめた資料を公表しました。
その主張によれば、豊田自動織機の本源的な純資産価値は1月16日時点で1株あたり2万6000円超に達しています。さらに、同社が独立して成長を遂げることを前提とした「スタンドアローン・プラン」では、2028年までに1株4万円を超える評価水準に到達する明確な道筋があるとしています。
エリオットは改定後TOBに応募する意向はなく、他の株主にも応募しないことを強く推奨しています。
ガバナンスへの懸念
エリオットはこの取引に「重大なガバナンス上の欠陥がある」と指摘しています。
具体的には、トヨタグループという利害関係者主導の取引であること、少数株主の利益が十分に考慮されていないこと、そして独立した第三者委員会の機能に疑問があることなどを問題視しています。
エリオットは「改定後TOBが成功すれば、日本のコーポレートガバナンス改革にとって後退となり、日本市場への投資家の関心を弱めることになる」と警告しています。
保有比率の引き上げ
エリオットは2025年12月2日から2026年1月15日にかけて、市場で豊田織機株を買い増しました。保有比率は当初の5.01%から6.65%に上昇しています。
この動きは、エリオットがトヨタ陣営との交渉で有利な立場を確保するため、議決権を積み増していることを示しています。
エリオットの日本での実績
世界最大のアクティビスト
エリオット・マネジメントは、1977年にポール・シンガー氏が設立した米国のヘッジファンドです。運用資産は500億ドル(約7兆円)を超え、世界最大級のアクティビストとして知られています。
同社は「企業価値向上に向けた建設的な対話」を掲げ、経営陣に自社株買いや増配、資産売却などを求める活動を展開しています。要求が拒否された場合は株主提案や公開書簡で圧力をかけることもあります。
日本企業への投資実績
エリオットは近年、日本企業への投資を積極化しています。
2020年にはソフトバンクグループ株を約30億ドル取得し、株価上昇をもたらしました。2024年には三井不動産に1兆円規模の自社株買いを要求し、株価は上場来高値を更新しました。東京ガスにも5%超を投資し、経営陣と企業価値向上について議論を進めています。
2025年3月には住友不動産の株式取得が明らかになるなど、日本の不動産・インフラ企業への関心を高めています。
2021年には香港拠点を閉鎖し、人員を東京とロンドンに移しました。これは日本市場への長期的なコミットメントを示す動きと見られています。
トヨタ陣営の対応
価格引き上げには慎重姿勢
トヨタ陣営は1月の価格引き上げ(約15%のプレミアム上乗せ)以降、さらなる価格改定には慎重な姿勢を見せています。
関係者によれば、エリオットが主張する2万6000円という価格は、トヨタ陣営の想定を大きく上回るものであり、仮に応じればグループ再編全体の採算性に影響を与えかねないとの見方があります。
グループ再編の全体像
豊田自動織機の非公開化は、トヨタグループが進める大規模再編の一環です。モビリティカンパニーへの変革を掲げるトヨタは、ヒト・モノ・情報・エネルギーの移動に着目した事業展開を進めています。
豊田自動織機は「モノ」の領域で、フォークリフトの自動運転技術や物流管理ソフトウェア、環境対応パワートレインの開発を担っています。2016年には日本初の燃料電池フォークリフトを発売するなど、脱炭素化にも注力しています。
グループ内での連携を強化するには、上場維持に伴う情報開示義務や少数株主との利益相反といった制約を取り除く必要があると、トヨタ側は説明しています。
今後の展望
TOB成立の行方
現状では、豊田織機の株価がTOB価格を上回って推移しており、一般株主がTOBに応募するインセンティブは限定的です。
エリオットが保有株を売却しない姿勢を明確にした以上、TOBが成立するには、他の機関投資家や個人株主から十分な応募を集める必要があります。市場では、トヨタ陣営がTOB価格をさらに引き上げるか、あるいは条件を緩和する可能性を注視しています。
日本のガバナンス改革への影響
CLSAのアナリストは「世界最大級のアクティビストがトヨタグループに挑戦状をたたきつけた意義は極めて大きい」と指摘しています。
東京証券取引所は近年、上場企業に対して資本コストを意識した経営や、政策保有株式の縮減を求めてきました。今回のTOBが「適正価格以下での少数株主の締め出し」と見なされれば、こうした改革努力を損なうとの批判も出ています。
逆に、トヨタ陣営が株主価値を適正に反映した価格を提示すれば、日本の親子上場解消に向けたモデルケースになり得ます。
まとめ
トヨタグループによる豊田自動織機の非公開化は、単なるグループ再編を超えて、日本の企業ガバナンスのあり方を問う案件となっています。
エリオットの反対表明により、TOBの成否は予断を許さない状況です。トヨタ陣営が価格を再改定するのか、それともエリオット以外の株主からの応募で成立を目指すのか、今後数週間の動きが注目されます。
世界最大のアクティビストと日本最大の企業グループの攻防は、海外投資家からも注目を集めています。その結末は、日本市場全体の信頼性を左右する可能性があります。
参考資料:
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