サブウェイ63カ月連続増収の秘密、ワタミ流改革の4つの変化とは
はじめに
2024年10月、ワタミが日本サブウェイを買収した際、業界では懐疑的な見方も少なくありませんでした。「ワタイミー」という揶揄も生まれ、最悪の前評判と言われたこの買収劇。しかし蓋を開けてみれば、サブウェイの既存店売上高は63カ月連続でプラスという驚異的な成績を記録しています。
ワタミという居酒屋のイメージが強い企業が、なぜサンドイッチチェーンの経営で成功を収めているのか。本記事では、買収から1年強で見えてきた「ワタミ流の味付け」と、その背景にある戦略を詳しく解説します。
サブウェイ買収の背景と戦略
買収前のサブウェイの状況
買収時点(2024年9月)のサブウェイは、178店舗を展開していました。実は買収前の時点で、既存店売上高は48カ月連続でプラスという好調な状態にありました。一時期は店舗数が大きく減少していましたが、V字回復の兆しが見えていたタイミングでの買収でした。
ワタミは単に低迷する企業を救済したわけではなく、成長軌道に乗り始めた有望な事業を取り込んだのです。これは渡辺美樹会長兼社長の戦略眼の表れと言えるでしょう。
ワタミの野心的な拡大計画
ワタミは買収発表時に、10年構想として驚くべき目標を掲げました。現在の約180店舗を、2034年までに約1,065店舗へと6倍に拡大するというものです。さらに長期的には、日本マクドナルドの3,000店舗に迫ることを視野に入れています。
2026年3月までに35店舗を新規開設し、その後は年間50〜100店舗のペースで拡大する計画です。実際、買収時の186店舗から2025年7月には202店舗へと、着実に増加しています。
ワタミ流の4つの変化
1. セルフレジで「カスタム注文の壁」を解消
サブウェイ最大の特徴であり、同時に新規顧客獲得の障壁となっていたのが、パンやトッピングを自由に選べる「カスタムオーダー方式」でした。初めての客にとっては、店員と対面で細かく注文するのは心理的なハードルが高かったのです。
ワタミは文春オンラインの取材によると、セルフレジの導入でこの問題を解決しました。タッチパネルで自分のペースで選べるため、店員の視線を気にせず、じっくりカスタマイズできるようになりました。これにより、初めての客でも気軽に利用できる環境が整いました。
2. スキマバイトで人手不足に対応
外食産業が直面する最大の課題の一つが人手不足です。ワタミはこの問題に対し、独自のノウハウであるスキマバイトシステムを導入しました。
これは短時間勤務や単発勤務を柔軟に組み合わせるシステムで、従来の固定シフト制では確保できなかった労働力を活用できます。ピークタイムに集中的に人員を配置することで、効率的な店舗運営を実現しています。
3. 「夜サブ」という新市場の開拓
ダイヤモンド・オンラインによれば、ワタミ会長が打ち出した新戦略の一つが「夜サブ」です。従来のサブウェイは昼のランチ需要に偏っていましたが、ワタミは夜の時間帯にも顧客を呼び込む施策を展開しています。
居酒屋運営で培った夜の集客ノウハウを活かし、サブウェイを「一日中利用できる店」へと変えつつあります。これにより、店舗の稼働率が向上し、売上増加につながっています。
4. ファンド資金の活用による積極投資
フードリンクニュースによれば、ワタミは2025年3月期決算で、日本サブウェイや海外の買収により売上が8%増加しました。この拡大を支えているのが、ファンド資金の活用です。
自己資金だけでなく外部資金も効果的に活用することで、短期間での大規模な店舗展開を可能にしています。これは資本効率を重視する現代的な経営手法と言えるでしょう。
買収1年の成果
既存店売上の継続的成長
最も注目すべき成果は、既存店売上高が63カ月連続でプラスを維持していることです。買収前の48カ月から数えて、さらに15カ月以上好調を継続しています。
1月上旬に川崎市のサブウェイを訪れた際には、若い女性を中心に列ができるほどの盛況ぶりだったという報道もあります。ワタミによる変革が、顧客から支持されている証拠です。
財務面での貢献
国内外食事業(2024年12月20日に日本サブウェイはワタミファストカジュアルマネジメント合同会社に社名変更)は、186店舗のサブウェイフランチャイズ店舗の引き継ぎにより、売上343.92億円(7.3%増)、セグメント利益16.10億円(23.2%増)を達成しました。
収益性の改善も顕著で、単なる売上増だけでなく、利益率の向上も実現しています。
注意点・今後の課題
急拡大のリスク
年間50〜100店舗という急速な拡大計画には、当然リスクも伴います。人材育成や品質管理が追いつかない可能性、立地選定の誤りによる不採算店舗の発生などが懸念されます。
マネー現代によれば、当初は「最悪の前評判」だったワタミのサブウェイ買収ですが、拡大スピードを維持しながら品質を保てるかが今後の焦点となるでしょう。
マクドナルド3,000店舗という高い壁
渡辺会長が目標とする日本マクドナルドの3,000店舗は、現状の約15倍という途方もない数字です。マクドナルドは数十年かけて築いた店舗網であり、これに10〜20年で迫るのは容易ではありません。
ただし、東洋経済オンラインの分析によれば、ワタミがサブウェイを選んだ理由には「初期投資の低さ」「小規模店舗での運営可能性」「多様な立地への適応力」という3つの利点があります。これらを活かせば、目標達成も不可能ではないかもしれません。
まとめ
ワタミによるサブウェイ買収は、当初の懐疑的な見方を覆し、順調なスタートを切りました。既存店売上高63カ月連続プラスという実績は、前体制の好調を引き継ぎつつ、ワタミ流の改革が効いている証です。
セルフレジによる心理的障壁の解消、スキマバイトでの人手不足対応、夜サブによる新市場開拓、ファンド資金を活用した積極投資という4つの変化が、成功の鍵となっています。
日本マクドナルドの3,000店舗という遠い目標に向け、ワタミとサブウェイの挑戦は始まったばかりです。今後の展開に注目が集まります。
参考資料:
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