トヨタ株続落の背景|円高急進と為替介入観測を読み解く
はじめに
2026年1月28日、トヨタ自動車の株価が続落しています。寄り付きから売りが優勢となり、前日比3%超の下落を記録しました。背景には、急速に進む円高と、日米当局による為替介入への警戒感があります。
片山さつき財務相は27日、米国と緊密に連携しながら「必要に応じて適切な措置をとる」と発言しました。一方、トランプ大統領がドル安を容認すると受け止められる発言を行ったことで、ドル円相場は一時152円台まで急伸しています。
この記事では、トヨタ株下落の要因を為替動向と絡めて分析し、自動車セクター全体への影響と今後の見通しを解説します。
為替市場で何が起きているのか
円高急進の経緯
2026年1月に入り、ドル円相場は大きく変動しています。1月中旬には160円台を付ける場面もありましたが、その後は円高方向への動きが加速しました。
27日のニューヨーク市場では、ドル円相場が一時1ドル=152円10銭まで急伸しました。これは2025年11月以来の円高水準です。背景には、日米当局による協調介入への観測が強まったことがあります。
特に注目すべきは、トランプ大統領の発言です。大統領がドル安を容認すると受け止められるコメントを行ったことで、ドルは主要通貨に対して全面安となりました。
片山財務相の発言内容
片山さつき財務相は、1月以降、為替介入に関して段階的にトーンを強めてきました。
1月12日のベッセント米財務長官との会談では、「一方的な円安を憂慮している」と伝え、認識を共有したと発表しました。1月16日には「日米共同声明において、為替介入に制約や制限はついていない」「フリーハンドだ」と明言しています。
そして1月27日、G7財務相オンライン会合後の発言では、米国と緊密に連携して対応すると改めて強調しました。この発言後、円相場はさらに上昇し、152円台後半まで買い進まれました。
日米協調介入の可能性
市場では日米協調介入の可能性が取り沙汰されています。片山財務相は協調介入について直接的なコメントを避けていますが、「あらゆる手段を排除しない」という表現を繰り返しています。
2024年には160円の大台を超えた際に為替介入が実施された経緯があります。今回も同様の水準が意識されており、当局の動きに市場参加者は神経をとがらせています。
トヨタ株下落のメカニズム
為替感応度の高さ
トヨタ自動車は、為替変動の影響を最も強く受ける企業の一つです。同社の為替感応度は、1円の円安が対ドルで500億円、対ユーロで100億円の営業利益を押し上げるとされています。
これは他の自動車メーカーと比較しても突出した数字です。日産自動車は120億円、ホンダは100億円、SUBARUは110億円ですので、トヨタの500億円がいかに大きいかがわかります。
つまり、円高が進めば進むほど、トヨタの業績への悪影響は他社より大きくなります。今回の152円台への円高進行は、投資家にとって大きな懸念材料となっています。
想定為替レートとの乖離
トヨタの2026年3月期の想定為替レートは1ドル=146円に設定されています。1月中旬時点では実勢レートが160円前後だったため、想定レートを大幅に上回っていました。
しかし、152円台まで円高が進行すると、想定レートとの差は縮小します。これは為替差益による業績上振れ期待の後退を意味し、株価の下押し要因となっています。
1月の株価推移
トヨタ株は1月中旬には好調でした。1月13日には前週末比181円(5.34%)高の3569円を付け、2024年5月以来約1年8カ月ぶりの高値を記録していました。
しかし、その後の円高進行で様相が一変しました。1月26日には一時前週末比4.22%安の3471円まで下落し、28日も続落しています。わずか2週間で相場の景色が大きく変わりました。
自動車セクター全体への影響
軒並み売られる自動車株
円高の影響を受けているのはトヨタだけではありません。1月28日の東京市場では、SUBARU、マツダなど自動車株が軒並み軟調に推移しています。
輸出企業全般に売りが広がっており、特に為替感応度の高いセクターは厳しい状況です。1月26日には日経平均が前週末比961円62銭安と大幅反落し、TOPIXも77.21ポイント下落しました。
2026年3月期業績への影響
自動車各社の2026年3月期業績は、為替動向に大きく左右されます。トヨタの場合、営業利益は前期比29%減の3兆4000億円を見込んでいますが、これは円高による5550億円の減益影響を織り込んだ数字です。
さらに円高が進行すれば、業績予想の下方修正リスクも浮上します。為替だけでなく、トランプ政権による関税政策も1兆4500億円規模の減益要因となっており、自動車各社を取り巻く環境は厳しさを増しています。
円高と株価の関係
ただし、円高が必ずしも株安につながるわけではありません。過去50年間のデータを見ると、円高で終わった年は27回あり、そのうち株高となった年は15回あります。
重要なのは、円高の進行スピードと程度です。急激な為替変動は企業の経営計画を狂わせ、投資家心理を悪化させます。緩やかな調整であれば、企業は対応する時間を確保できます。
2026年のドル円相場見通し
専門家の予想
金融機関各社は2026年のドル円相場について、円高方向への見通しを示しています。
野村證券は2026年末のドル円レートを140円と予想しています。日米の政策金利差縮小がその根拠です。2025年12月の日銀利上げとFRB利下げにより、金利差は2.875%まで縮小しました。
三井住友DSアセットマネジメントは、155円中心のレンジから150円中心へ移行すると見ており、年末着地水準を150円に設定しています。
マネックス証券は130〜165円という広いレンジを予想し、一段と荒れた展開になる可能性を指摘しています。
日銀の金融政策
日銀は2026年も利上げを継続すると見られています。市場では、2026年7〜9月期と2027年1〜3月期にそれぞれ0.25%ずつ利上げし、政策金利を1.25%まで引き上げるとの予想が有力です。
利上げが進めば日米金利差は縮小し、円高圧力が強まります。これは輸出企業にとっては逆風となりますが、インフレ抑制や輸入物価の低下というメリットもあります。
トランプ政権の為替政策
注目すべきは、トランプ大統領の為替政策です。大統領はFRBに対して利下げ圧力をかけることが予想されており、パウエル議長の任期満了(2026年5月)を控え、後任人事にも関心が集まっています。
仮にトランプ大統領がドル安政策を本格的に推進すれば、1985年のプラザ合意のような大規模な為替調整が起きる可能性もあります。ただし、現時点では不透明な部分が多く、市場は慎重な姿勢を崩していません。
注意点と今後の展望
投資判断における注意点
自動車株への投資を検討する際は、以下の点に注意が必要です。
まず、為替変動リスクです。トヨタのような為替感応度の高い企業は、円高局面では大きく売られる傾向があります。短期的な値動きに惑わされず、中長期的な業績見通しを確認することが重要です。
次に、政治リスクです。トランプ政権の関税政策や為替政策は予測が難しく、突発的な発言で市場が大きく動く可能性があります。
円高進行時の企業の対応
トヨタをはじめとする自動車各社は、為替リスクへの対応策を講じています。生産拠点の分散、現地調達比率の向上、為替ヘッジの活用などがその例です。
また、トヨタはハイブリッド車(HV)の販売好調により、為替悪化を一定程度カバーしています。車種構成の変化による3200億円の増益効果、値上げによる3900億円の増益効果が見込まれています。
今後の注目ポイント
今後は以下の点が注目されます。
- 日米当局による実際の為替介入の有無
- 日銀の金融政策決定会合の動向
- トランプ政権の通商・為替政策の具体化
- 自動車各社の四半期決算における為替影響の開示
まとめ
トヨタ株の続落は、急速な円高進行と為替介入観測を背景としています。1ドル=152円台への円高は、為替感応度の高いトヨタにとって大きな逆風です。
片山財務相の発言やトランプ大統領のドル安容認姿勢は、今後もドル円相場に影響を与え続けるでしょう。2026年は日米金利差の縮小もあり、円高トレンドが続く可能性があります。
投資家は為替動向を注視しつつ、各社の為替ヘッジ状況や業績見通しを丁寧に確認することが求められます。急激な相場変動に振り回されず、冷静な判断を心がけましょう。
参考資料:
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